タクシー運転手にふんするジャファル・パナヒ監督(『人生タクシー』より)
 - (C) 2015 Jafar Panahi Productions

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 アッバス・キアロスタミ監督の愛弟子にして、世界三大映画祭を制覇したイランの名匠ジャファル・パナヒ監督が、2010年より政府への反体制的な活動を理由に“20年間の映画監督禁止令”を受けながらも、自らタクシー運転手にふんしてテヘランの人々の人生模様を描き出した最新作『人生タクシー』が日本で公開を迎えた。今回、取材すらも禁じられているパナヒ監督への貴重なインタビューの内容が明かされた。

 裁判所の最終判決によれば、映画製作・脚本執筆・海外旅行・インタビューを20年間禁じられ、違反すれば6年間の懲役を科される可能性のあるパナヒ監督。そんな中、本作は第65回ベルリン国際映画祭で最高賞にあたる金熊賞に輝き、大きな話題に。しかしもちろん、授賞式にパナヒ監督の姿はなかった。受賞したパナヒ監督の胸中を世間が知ることはなかったが、グランプリ授賞の翌日、パナヒ監督はテヘランで、イラン労働通信(ILNA)の記者と短い対談を行っていたことが明らかになった。取材も禁じられているため、この日に行われたパナヒ監督との対談はこれが唯一のものだという。

 「もちろん嬉しいです。自分にとっても、イラン映画にとっても」とまずは受賞を喜ぶパナヒ監督。しかし、文化イスラム指導省の次官ホジャトラ・アユビ氏が、ベルリン映画祭に向けて、映画祭を政治化させていると非難の手紙を送ったことについて、その手紙の内容を読んだかと問われると、「ええ、新聞に掲載されたときに読みました。礼儀正しい手紙ですね。読んだあと、『これだけか!』と思いました。彼は美しい文章を書きましたが、ただの言葉にすぎません。その内容が実行に移されてこそ意味があります」とばっさり。

 「私の国では芸術の分野で、とくに映画ですが、政治的進歩がとなえられてきてから何年も経っています。彼らは政治を映画と混ぜてしまおうとしています。しかしアユビ氏は人々に、この二つをしっかりと区別することを推奨しているのです。なぜ彼自身が、それを体現しないのでしょうか?」と辛らつな言葉を投げかけるパナヒ監督。「彼は芸術と政治のあいだに中国の万里の長城よりも長い壁をこしらえています。いくつの映画がこの壁に阻まれて映画館で一度も上映されなかったかご存知ですか? 彼らの作品のエネルギーと努力のすべては棚上げされてしまいました。アユビ氏は手紙をこう締めくくっています。『文化と映画は壁を取り壊すことを意味します』。文章としては美しいですが、現実に壁はまだ残されたままです。アユビ氏はまず、彼や彼の前任者たちが建てた壁を破壊すべきだと私は思います。そうしてはじめて人に助言を与えられるでしょうね」と過熱する。

 「政治家たちは、私たちが映画祭や外国の観客のために映画をつくったことをいつも非難します。彼らは政治という壁の後ろに隠れていますが、私らの映画にはイランで公開される権限がないということを忘れています。もし彼らが私たちの映画をイランのスクリーンで公開する許可を出せば、イランの外で映画が公開されてしまうような事態に対する懸念はなくなるでしょう」と指摘しながら、「ベルリンで『人生タクシー』を発表するということは、テヘランでこの映画を公開するチャンスでした。アユビ氏の手紙が掲載されたとき、私は彼に本作をベルリン映画祭のコンペティションから外すことと引き換えに、テヘランのファジル映画祭に出品することを提案しました。どんな賞も、イランの人たちに私の映画を観てもらう喜びには代えられませんから」と知られざるエピソードまで打ち明ける。

 「イランの映画人は、誰もが自分の映画がまずイランで公開されることを願っています。しかし政治の壁が、そうしたことを阻んでいるのです」と切実な思いを吐露し、「政治家に対して助言を与えるタイプの人間にはなりたくありませんが、彼の手紙が公開されるやいなや、私は一人の友人の映画監督として、アユビ氏にメッセージを届けました」と続ける。そんなパナヒ監督に対し、アユビ氏はほかの顧問と話し合ってみると答えたそう。パナヒ監督は「しかし、ファジル映画祭の最終日まで返答はありませんでした。もしよければ、あなたが彼に聞いてみるといいでしょう」とインタビューを締めくくった。

 パナヒ監督はイランを出ることを禁じられているが、国内は自由に移動することができる。『人生タクシー』は2010年に彼がイラン裁判所から映画撮影禁止令を受けて以来、3つ目の作品となった。本作でパナヒ監督はタクシー運転手として、車内に設置したカメラで客たちの様子を撮影。監督と個性豊かな乗客の会話を通じ、情報が統制されているテヘランに暮らす人々の人生模様を映し出す。(編集部・石神恵美子)

映画『人生タクシー』は新宿武蔵野館ほか公開中