トランプ米大統領(AP/アフロ)

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 トランプ米大統領の支持率低下に歯止めが掛からず、同氏の政策運営能力が問われ始めている。トランプ大統領側近でロシア政府との関係が発覚した、フリン大統領補佐官の辞任など政権基盤も脆くなっている。これらがトランプ政権の先行きへの懸念を高めているのはいうまでもない。大統領当選直後から、政権運営に対する懸念を指摘する専門家は多かった。特に驚くべきことではないとの見方もある。

 それでも、大統領選挙後から金融市場では今後の政策に対する期待が高まり、株価が上昇してきた。これを支えるためには、公約通りの税制改革、インフラ投資が進まなければならない。そこで、トランプ大統領が、自身と共和党内部の政治哲学の違いをどう調整できるかが問われている。

 トランプ大統領は財政出動を通して、鉄鋼や石炭など競争力を失ってきた国内産業の復活を目指している。それは政府が能動的に経済活動に関与する“大きな政府”の考え方だ。一方、伝統的に共和党内部には経済活動は市場に委ねるべきという“小さな政府”を重視する政治家が多い。大統領がこうした意見の相違を調整できるかどうかが、今後の米国経済に大きく影響するだろう。

●調整能力の欠如を露呈したトランプ政権

 トランプ大統領が改革の手始めに掲げた“オバマケア”の代替法案に関する採決が取りやめられたことを受けて、今後の政策運営に関する不透明感が高まっている。そして、トランプ大統領は、次は税制改革に取り組むことを表明した。

 もともと、オバマケアの改廃という大筋では、共和党もトランプ大統領も考えは同じだった。それでも下院の共和党保守派の議員を説得できなかったことは、トランプ氏のリーダーシップのなさ、意見の相違を機敏にとらえ利害の調整を図る能力の欠如を示している。共和党内部には財政拡張に反対する議員が多い。今後の経済政策の進展は楽観できない。

 これまでのトランプ大統領の政策運営を見ていると、とりあえず進めたいと考える政策を発表する。言ってみれば、自らの考えに対して周囲が批判、賛同など、どのような反応を示すかを考えるよりも、まず思ったままに発言する。その上で、各利害関係者の意見を集約し、利害を調整できれば問題はない。トランプ氏が自認する“ディールメーカー”(取引の交渉人)とは、そうした積極性とロジカルな調整能力を備えた人物であるはずだ。

 しかし、トランプ氏の言動を見ると、目指す政策を提案し、批判されると感情的になって相手を脅したり攻撃している。当たり前だが、攻撃されたほうが良い気分であるはずはなく、冷静に本音の議論を進めることはできなくなってしまう。経済に関する基本的な理解の欠如もさることながら、稚拙な交渉スタンスを改めることができないと、徐々に政権運営は苦しくなるだろう。交渉をスムーズに進めるために大統領の暴走を諌めたり、保守派との意見の橋渡し、根回しができる側近もいないようだ。

 今後、オバマケア代替法案と同じ過ちを繰り返すことはできない。ホワイトハウスと議会の意見がこじれたとき、誰がどのように調整能力を発揮するかがトランプ政権を評価する大きなポイントだ。

●先行きの不透明感高まる経済運営
 
 オバマケアの代替法案が共和党保守派に反対されたことを受けて、トランプ大統領は保守派への配慮を示し始めた。それが地球温暖化に関する規制の撤廃を定めた大統領令だ。これは、国内の石炭業界などのオールドエコノミーの再生を意図している。競争力を失った産業への支援はトランプ政権の公約通りではある。

 この大統領令には問題が多い。当たり前だが、石炭よりも石油のほうが熱効率は良い。それが、石炭業界の縮小につながった。そして、シェールガス・オイル開発の進展により米国はサウジアラビアなどと並ぶ世界最大級の石油生産国だ。わざわざ効率の悪い資源の再生を進める財源があるのであれば、国内のシェールガスの採掘コストの低下など新しい技術開発に力を入れるべきだ。

 そして、温暖化ガス排出削減につながる技術開発には時間もかかる。そうした取り組みを各国に先んじて進めることこそが、イノベーションの発揮、米国の地位向上につながるはずだ。石炭業界の保護に、経済合理性は見いだせない。温暖化対策への取り組みをやめることは、国際社会共通の課題に背を向けることにほかならない。保護主義に基づく輸出重視も然りだが、自国第一の発想だけで政策を進めていると、どこかで他の国の批判や報復を受ける恐れがある。それは米国の発言力を低下させ、国際社会のなかにおける地位を貶めるだろう。

 今や、自国以前に、保身のために大統領令を打ち出した印象すら残る。トランプ氏の心情を察するに、なりふり構ってはいられないというのが実情だろう。なんとかして共和党保守派との溝を埋め、税制改革への支持を取り付けたい。それでも、今後の政策運営は難航が予想される。税制改革のなかで国境税が導入されると輸入物価は上昇し、米国の消費にはマイナスの影響が出る。それは保守派も理解しているはずだ。公約通りの政策を成立させるために、トランプ大統領下のホワイトハウスは、何が政策議論の進展を妨げているかを冷静に分析しなければならない。

●トランプ相場の巻き戻しに注意

 このように考えてみると、トランプ政権の目玉といわれる税制改革が下院共和党の支持を得られるかは不透明だ。トランプ政権の政策のなかでも、金融市場は法人減税などの動向に注目している。それは、企業のフリーキャッシュフローを増やし、設備投資に回るお金を増加させる。その上で政府が新しい技術の導入をサポートすることができれば、生産性は改善し、賃金にも上昇圧力がかかるだろう。

 オバマケア代替法案の採決取りやめ以降、米国の株価は伸び悩んでいる。一言でいえば、追加的にリスクを取ってよいかどうか、投資家は様子を見ている。もしトランプ政権が現実的な発想を身につけ、共和党との関係を深め、共同して経済対策を打ち出すことができれば、昨年の大統領選挙後に上昇した株式市場は、今後も落ち着いた展開を維持することができるだろう。反対にいえば、トランプ政権が調整能力を発揮することができないと、期待は剥がれ落ちる。それはトランプ相場ともいわれる株価上昇の巻き戻しにつながるはずだ。

 トランプ相場の巻き戻しは、世界経済の先行き不透明感を高める。世界全体を見渡すと、中国などの新興国を中心に、過剰な生産能力、債務の累積の解消が必要だ。欧州ではイタリアの不良債権処理が進んでいない。それはユーロ圏の金融システム不安につながるファクターだ。そうしたなかでも世界経済が安定を維持しているのは、米国の株式市場が上昇し、景気先行きへの期待が高まったからだ。そして、その背景には、トランプ氏が財政政策を重視して経済の底上げを目指したことがある。

 米国株式市場が下落し始めると、世界の金融市場では急速にリスクオフに向かうだろう。債務問題や政治動向に懸念のある新興国通貨はかなりの売り圧力に見舞われる可能性がある。それを避けるためには、トランプ政権が現実路線に立って、必要な政策を進めなければならない。これまでの動きを見る限り、短期のうちにトランプ政権が冷静に、現実的な発想を獲得するとは考えづらい。政治動向次第で金融市場が動揺しやすくなっていることは、しっかりと認識すべきだ。
(文=真壁昭夫/法政大学大学院教授)