メキシコ・ヌエボレオン州エスコベドで、8人の遺体の一部が入った袋を積んでいるトラックが発見された付近を警備する軍警察(2017年3月8日撮影、資料写真)。(c)AFP=時事/AFPBB News

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【AFP=時事】メキシコの若きエンジニア、ヘトロ・サンチェス(Jethro Sanchez)さんはある日の午後、町のイベントに参加してにぎやかなひとときを楽しんでいた。その数時間後、ヘトロさんは息絶えようとしていた──兵士らに酸で焼かれ、土中に生き埋めにされて。父親のエクトル(Hector Sanchez)さん(63)が明かした。

 政府は10年前、麻薬犯罪対策に軍を起用。しかしこの種の警察活動の訓練を受けていない兵士らの間で、罪のない容疑者への拷問が横行していると、批判の声が上がっている。

 議会は現在、軍の公安活動への投入を合法化する法案を審議しているが、この改革が結果的に虐待に走る兵士らの擁護につながるのではという懸念が広がっている。

 自動車部品のリサイクル業を営むエクトルさんは、息子の墓前に立ち、ヘトロさんは大学院の修士学生で、ある事業投資がうまく行き、祝賀会に参加していたのだと声を震わせた。軍が主張したような麻薬密売人などではなかった。「息子をあんな目に遭わせる理由なんてなかったのに」

■顔に酸

 2011年5月1日、当時26歳だったヘトロさんは、首都メキシコ市(Mexico City)の南に位置する町ヒウテペック(Jiutepec)で、出資していたサッカーチームの勝利を祝う地元のイベントに出席していた。

 そこで小競り合いが発生し、警察はヘトロさんの身柄を拘束。さらにヘトロさんを、麻薬密売人だとして軍に引き渡した。

 2か月後、ヘトロさんは東に150キロ離れたプエブラ(Puebla)で遺体となって発見された。

 息子を失った悲しみを胸に、6年に及ぶ法廷闘争に耐えてきたエクトルさんは、息子の死に関連して逮捕された兵士3人がついに裁判にかけられ、有罪判決が下されればと願っている。

■虐待の「自由裁量権」付与に?

 2006年12月、当時のフェリペ・カルデロン(Felipe Calderon)大統領は、麻薬撲滅戦争に乗り出そうと軍を投入。警察は腐敗しきっていて不適任であり、浄化が必要だという考えだった。

 以来、国際人権団体アムネスティ・インターナショナル(Amnesty International)をはじめとする非政府組織が、メキシコにおける類似の拷問や虐待の数々を記録してきた。

 今日、犯罪対策支援で全土に配備されている兵士数は5万人以上に上る。

 審議中の国内治安法案に反対している団体は、可決されれば軍内の凶悪分子に虐待を行う「自由裁量権」を付与することにつながるのではと危惧している。

 ただこの法案についてはあまりに多くの問題点が指摘されており、今月30日に閉会する今会期中の成立はないという見方が強い。

 拷問疑惑を突き付けられた軍はこれに反論。人権部門の長を務めるホセ・カルロス・ベルトラン(Jose Carlos Beltran)大将は先月、「組織的な人権侵害には及んでいないと」と断言した。

 また国防省のアレハンドロ・ラモス(Alejandro Ramos)法務部長は、軍部隊は警察業務に「違和感」を覚えていると認めている。

■「迷惑料」

 クラウディア・メディナ(Claudia Medina)さん(36)も2012年、麻薬密売の嫌疑をかけられて東部ベラクルス(Veracruz)州の自宅から連行された。この時一緒だった夫は、今も身柄を拘束されている。

 メディナさんは「私たちは目隠しされ、約39時間監禁されました。その間、身体的、精神的、性的な拷問を受けました…電気ショックを与えられ、殴る蹴るの暴行を受けました」と語った。「拷問から解放されたい一心で、どんな自白書でも署名すると言いました」

 さらに検察当局による尋問に向かう際、逆らえばメディナさんの3人の子どもたちを拷問するという脅迫も受けたと明かした。

 メディナさんはふらつく足元で、他の容疑者らや大量の武器、違法薬物の山に交じって報道陣の前に突き出されたが、後にすべての罪状で無罪となった。

 エクトルさんは、背が高く、たくましかった息子が何時間にもわたる拷問を受けたのではないかとと無念でならない。

 エクトルさんによると、司法解剖の結果、ヘトロさんが「塩酸を浴びせられた上、体内から土が見つかった──つまり生き埋めにされた」ことが判明したという。

 ヘトロさんの遺体が発見されてから1年後、遺族はヘトロさんの名を冠した機械工学の教育施設を設立した。

 施設の開所日、来賓でもない軍大将が姿を見せ、エクトルさんに130万ペソ(約760万円)を手渡した。「迷惑料」として受け取ってほしいと言われたという。
【翻訳編集】AFPBB News