4月17日に北朝鮮国営メディアにより公開された、北朝鮮の市民が金日成広場で金日成(キム・イルソン)氏の誕生105周年祝賀行事で踊る様子。15日撮影とみられる(STR/GettyImages)

写真拡大

 朝鮮半島にきな臭さが立ち込めている。初の首脳会談を果たしたばかりの習近平・中国国家主席とトランプ米大統領。会談の主要テーマは、米中間の貿易不平等問題と北朝鮮の核問題に絞られていた。核実験と大陸間弾道ミサイルの発射実験をやめようとしない北朝鮮に対し、習主席が帰国した後、トランプ大統領は米原子力空母・カール・ヴィンソンを日本海に向けて出発させ、中国側も数万の軍隊を北朝鮮国境に発遣する準備した。

 だが実のところ、今回の「北朝鮮危機」は2011年の時の深刻さには及ばない。当時は米空母3隻が朝鮮半島に向かい、情勢はさらに緊迫していた。それ以降、北朝鮮は十数回にわたり「全面攻撃」「徹底的に消滅させる」などと声高に叫んできており、今年の威嚇が最も激しいというわけでもない。米中首脳会談で「大きな成果」が得られたことから考えると、今回の北朝鮮危機は、実際には「危険性のない危機」のはずだ。

在米専門家に聞く北朝鮮問題をめぐる米中首脳会談(1)(2)

中国の北東アジア戦略 4つの重要課題

 中国の北東アジア戦略において最重要課題には、次のような優先順位がある。

1.朝鮮半島の非核化。仮にも韓国や日本までもが核武装するならば、中国に脅威となるのは間違いない。

2.朝鮮半島の南北分断を継続させること。中国と米国の間における干渉地域としての役割を担わせるため。

3.日韓関係に距離を置かせること。日・米・韓の関係を、米韓又は日米といった風に、二国間の関係にとどめさせ、日韓を接近させない。

4.北東アジア地域において、ロシアとの関係性を強化し、勢力構造を連動させる。

中国の戦略的損失 米国へ与えた東アジア進出チャンス

 過去、数年間にわたる北朝鮮の核開発で中国側が受けてきた戦略的な損失は、韓国に米軍の高高度ミサイル防衛システム(THAAD、サード)を配備されるより、ずっと大きい。なぜなら米国へ、北東アジア地域進出のチャンスを与え、巨大な政治的利益を生み出したことになるからだ。

朝鮮中央テレビは、15日の軍事パレードに姿を見せた朝鮮労働党委員長・金正恩氏の様子を放送(STR/AFP/Getty Images)
 

 開発を続けてきた北朝鮮が核を保有するようになった一方、日本と韓国が協力体制を取らざるを得ない状況も作り出し、さらに日韓と米国の協力体制も強化させた。

 かつて日韓関係が冷え込んでいた時、米軍が北東アジアで演習を行う際には日米、米韓と別々に軍事演習を行うことが通例で、米日韓の合同軍事演習は海難救助訓練などに限られていた。だが、16年からは日米韓が合同軍事演習を行うようになり、昨年には海上配備型迎撃ミサイル合同演習を行い、今年の4月3日からは、対潜水艦戦闘の合同演習を開始した。

 北朝鮮の潜水艦は、米日韓が合同軍事演習を行って対処しなければならないほどの代物なのだろうか? 答えはノーだ。米国海軍の言葉を借りると、現代の先進的なソナー技術を使えば、北朝鮮の潜水艦を特定することなど「広場に行進している戦車」を見つけるのと同じくらいたやすいからだ。北東アジア地域での米日韓の対潜水艦軍事演習は、北朝鮮ではなく中国とロシアの潜水艦をターゲットにしている。

 北朝鮮は歴史的に見ても大国に挟まれた小国(時勢を見て大国との駆け引きを行う)だ。こうした危険なバランスゲームは、彼らが生き残るために身に付けた処世術の1つであるともいえる。

1960年 フルシチョフ批判により、北朝鮮はソ連と反目。

1966年 ソ連のブレジネフ書記長が北朝鮮に対する援助を再開。中国は金日成を批判し、北朝鮮と中国の関係が悪化。

1970年代 米ソの関係が緩和。北朝鮮は中国との関係を修復し、ソ連との関係が冷えこむ。

1979年 米中国交正常化。北朝鮮はソ連との関係を修復。

1990年 ソ連と韓国の国交正常化。北朝鮮はソ連と反目。

1992年 中国と韓国の国交正常化。北朝鮮は中国に反発し、当時南シナ海領海問題で中国ともめていたベトナムにミサイルを供給。

 北朝鮮内部では、中国とソ連(のちのロシア)に対し非常に不信感を抱いているが、米国と二国間の協議と平和条約の調印を望み、できれば国交樹立に漕ぎ付きたがっている。だが、韓国の猛烈な反対にあい、米国(と日本)はいずれも北朝鮮との外交交渉を選択しなかった。

常に存在する中朝ルート

 北朝鮮と中国の関係はさらに複雑だ。二国間の関係が最悪の時でも、中国共産党と北朝鮮労働党の間に複雑な連絡ルートは常に存在しており、中国では、このルートは中国共産党中央対外連絡部(中連部)が維持してきた。

 また、中国政治局のなかで、党の発展とイデオロギーに関連する政策を分担する常委が連絡の窓口となっている。つまり、同じイデオロギーを有する北朝鮮に対して、中国は一貫して最高指導者層と北朝鮮とが直結するルートを維持してきた。

 実際、(両国の関係が冷え込んだ時でも)中連部に所属する複数の貿易会社が、さまざまな形態の国境貿易を通じて、「貿易」という名の実質的な北朝鮮援助を行ってきた

 今回、習主席は首脳会談から帰国すると、北朝鮮とのこうした貿易を停止するよう命じた。中国が米国以上に北朝鮮にいら立っているのは、火を見るよりも明らかだ。

(翻訳編集・島津彰浩)