4月16日、ヤマハスタジアム。サガン鳥栖のエース、豊田陽平(31歳)は、ジュビロ磐田を相手に3試合連続得点を記録している。

「今日は思ったより暑くて、体力的にはしんどかったですが、得点シーンは(いいボールが)来そうな感覚はありました。キッカーのおかげですね」

 0-0で迎えた後半87分、原川力が蹴った右CKだった。ペナルティスポット付近にいた豊田は頭で合わせ、上体の力でファーポストへ叩き込んだ。

「マーカーと駆け引きは続けていたんで。ニアに行くと見せて、止まって合わせる。それでフリーになれるんですが、あそこで形になりました。ボールがよかったですよ」


ジュビロ磐田戦で3試合連続ゴールを決めた豊田陽平 それは劇的な決勝点になるはずだったが、その後、鳥栖はあり得ない失点を連続で喫し、チームは敗れている。

「負けちゃいけない試合ですね」

 豊田は足元に視線を落とした。しかし、彼がゴールゲッターとして変身を遂げつつあることは間違いない。

 新シーズンを前に、豊田は”肉体のスケールアップ”に着手している。昨シーズン、「5年連続15得点以上」という前人未到の記録達成はならず(13得点)、4年で記録は途切れたが、その終わりは新たな始まりかもしれない。

「記録に関しては、ひとつ区切りがついたというか、吹っ切れた気はします。心機一転で、オフは気になっていた歯の矯正をしたり。(心身を)まっさらにしたかった」

 そう明かす豊田は、肉体のケアにはこれまでも手を尽くしてきた。練習場には誰よりも早く現れ、トレーニングルームでゆっくりと身体をほぐす。集合時間ギリギリに来る若手もいる一方、彼は心身を徐々に高め、万全の準備で臨んできた。そのディテールが、ダイナミックな得点シーンを生み出してきたのだ。

 例えばマウスガードもこだわりの一つだろう。日本ではまだ使用する選手が少ないが、噛み合わせで(無理なく)最大限の力を引き出すため、早い段階で採り入れた。その効果を数値化することは難しいが、事実として、ほとんどケガがないシーズンを過ごしている。

「無事是名馬(ぶじこれめいば)」

 それは豊田というストライカーを表すのにふさわしい表現だろう。2010年に鳥栖に入団以来、7シーズン連続で30試合以上に出場(カップ戦含む)、同じく2桁得点を記録し続けている。

 その不屈の男が、さらに深く自らの肉体と向き合うため、今シーズン新たに取り組んだのがファスティングだった。

 ファスティングは断食を意味している。アスリートだけでなく、芸能人なども積極的に行ない、最近になって注目を浴びるようになった。期間は人それぞれだが、基本的に断食中は水と酵素水だけで過ごし、身体中の老廃物を外に出す。これによって、化学物質などを解毒。大腸や肺が活溌な働きを取り戻し、美容や体質改善を促し、五感が鋭敏になるとも言われる。

 今年1月、豊田は新シーズンに向けてチームが始動する前、ファスティングに入っている。

「僕の場合は5日で、その前後1日ずつも動物タンパクや添加物の入った食品はNGでした。前日は昼のそばが最後で、5日間は水と酵素水だけでしたね。そして6日目に昼からおかゆを薄めたような白湯を飲み始めました」

 豊田は断食の経験を振り返る。

「体重は6kg減りました。でも精神的には、つらくはなかったですよ。自分はもともと、食事に関してはあまり欲がないんです。これは言い過ぎかもしれませんが、食べないなら食べなくてもいい、というか。だから断食中も、食卓で家族が普通にご飯を食べていても、ほとんど気になりませんでした。普通は3日目に”境地”に入るらしいんですけど、自分の場合、気持ちはずっと一緒というか」

 豊田はこれまでも身体と対話してきただけに、信じられないような自己制御力を身につけているのかもしれない。もっとも、不測の事態もあった。チーム始動が1日早まったことにより、練習初日は断食明けと重なってしまったという。さすがに空っぽになった身体でのトレーニングは堪えた。常人なら歩くだけでフラフラするところだ。

「断食明けの1週間は、野菜や豆などで過ごしました」

 淡々と振り返る豊田は、チームが始動してからも精進料理のような食生活を続けた。心身はひとつの境地にたどり着き、その動作は以前にも増して鋭敏になったように映る。身体がアップデートされたことにより、培ってきた得点者の経験も生きてくるという。複数の選択肢から、適切な動きを選択できる。

 それは磐田戦の3試合連続得点で証明されたが、ゴール以外にも多大な貢献があった。出足の鋭い守備でプレッシングの先手となり、ヘディングの強さで制空権を握っている。ディフェンダーに脅威を与え続け、消耗させていたのだ。

「豊田はチームの仕事をした上で、今日は得点を挙げた。3試合連続得点? 彼の力を考えたら驚くことではない」

 マッシモ・フィッカデンティ監督の言葉が、豊田の体力と気力の充実を物語る。自身初の得点王に近づくことで、豊田はその変身を完結させるだろう。

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