限られた店頭スペースにMVNO各社が進出

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 MVNOサービスへの加入者が堅調な伸びを示している。その一因となっているのが、各社による家電量販店への即日開通カウンターの設置だ。しかし、店頭スペースは常に飽和状態であり、今後は事業者間での“場所取り合戦”の激化が予想される。また、量販店側にも独自のサポート体制を整備する動きがみられるなど、料金以外の訴求が拡大している。

<POINT>

(1)MVNO比率は今年1割超えへ

(2)限られた店頭スペースにMVNO各社が進出

(3)MVNOと量販店の提携戦略が今後のカギに

●店頭でも3大キャリア並みの存在感を発揮するMVNO



 「格安SIM」として認知が広がったMVNOサービスの契約数が伸び続けている。2016年末時点で、全携帯電話契約数に占めるMVNOの比率は8.9%に達し(3月21日総務省発表「電気通信サービスの契約数及びシェアに関する四半期データの公表」による)、このペースで契約増が続けば今年中にMVNOシェアは1割を超えることになる。NTTドコモ、KDDIグループ、ソフトバンクグループに次ぐ選択肢として、MVNOはすっかり携帯電話市場に定着した感がある。

 MVNOの勢いは前出のような定量データだけではなく、家電量販店の店頭風景からも感じられる。多くの家電量販店では、店舗の顔とも言うべき1階入口近くが大手携帯3社のカウンターで占められているが、最近では大手キャリア1社分と同程度のスペースが、MVNOサービスとSIMフリー端末の販売に割かれていることも珍しくない。

 さらに、かつては店頭で販売されるのは申し込みキットのみで、ユーザーはあらためてウェブ上から自分で開通手続きを行う必要があったが、今では主要MVNOの十数社が一部家電量販店と提携し、店頭での即日開通サービスを実施している。店頭での基本的なサポートまで提供されるようになり、いよいよMVNOサービスはアーリーアダプターの範囲を超え、幅広いユーザー層に浸透する段階へと達した格好だ。

 このように店頭では大手キャリアと肩を並べる存在になりつつあるMVNOだが、MVNO間の競争環境はむしろ厳しくなっている。

●専用カウンター確保の難しさ



 MVNO各社の料金を比べてみると、主力となる「音声通話対応・データ通信3GB」のプランの場合、多くの事業者が月々1600円前後でほぼ横並びとなっている。自分で詳細なサービス内容を吟味できる高リテラシー層以外の消費者にとっては、何を基準に事業者を選べばよいのか、決め手に欠けるのが現状だ。この点でも、「格安SIMに興味はあるが、どのサービスがいいのか決めかねている」消費者に、直接アピールできる店頭販売の重要性は増している。

 とはいえ、店舗内に物理的なスペースを要する以上、MVNOの店頭進出は早くも場所取り合戦の様相を呈してきている。3月には、「LINEモバイル」がヨドバシカメラとビックカメラの計10店舗で即日開通に対応したが、スタート時点では、目玉となる“LINEモバイル専用”のカウンターを全店に設置できたわけではなく、一部はMVNO各社相乗りのカウンターでの案内となっている。今後準備ができ次第、他の店舗にもLINEモバイル専用カウンターは拡大するとのことなので、いまは場所が確保できるのを待っているところなのだろう。新たに店頭販売を開始する事業者は、当然のことながらその分、既存他社の売り場を奪わなければならなくなるので、後発になればなるほど店頭展開は難しくなりそうだ。

●MVNOと量販店が共同でサポート体制を構築する時代へ



 では今後、店頭におけるMVNOサービスの販売では何が軸になっていくのか。格安SIMがサブ端末需要から、メインの電話番号として音声通話にも使われるようになっていくほど重要となるのが、サポート体制だろう。MVNOでも自社ブランドのショップを展開する動きがあるが、3大キャリアのような全国規模のショップ網を構築するのは難しい以上、MVNO加入者が直接足を運べるサポート窓口としては家電量販店が最も身近な存在となる。ただ、事務手続きの取り次ぎや、料金プランの相談といった、販売に直結するサービスは提供できていても、それ以上の顧客対応をどのように拡充していくかは、まだ模索中の状態だ。

 ヨドバシカメラ携帯電話通信サービス商品事業部の松月俊雄・事業部長は「2017年度内をめどにMVNOと連携して、SIMフリー端末の修理時に代替機を提供するサービスを開始したい」と話す。これまでも、MVNO回線契約とセットで販売したSIMフリー端末について、修理の受け付けは行ってきたが、代替機までは提供できておらず、ユーザーは自分で別の端末を用意しなければ修理中は電話を受けられなかった。このような問題に対応できる体制を、いくつかのMVNOと共同で構築していくという。

 こうして店頭を通じたサポートの提供が拡大していくと、MVNO間だけでなく量販店の間でも、サービス競争が加速することだろう。これまで、MVNOサービスの差異化要素は価格と通信速度だったが、今後はどの店と組んでどのようなサービスを提供していくのか。販売店とのパートナー戦略が一層重要になっていくことが予想される。(BCN・日高 彰)

※『BCN RETAIL REVIEW』2017年5月号から転載