4月10日、味の素ナショナルトレーニングセンターにて女子レスリングと女子柔道の合同合宿がスタートした。


女子レスリング名物「ふたりおんぶ」を体験する柔道選手たち 男子レスリングと男子柔道の合同合宿はこれまで何度も行なわれてきたが、女子は2012年以来5年ぶり。前回はロンドン五輪イヤーの元日に、両競技が刺激し合い、オリンピック本番での活躍につなげることを目的とした、いわば「正月イベント」だった。

 だが今回は、全日本柔道連盟の増地克之女子代表監督から「リオ五輪で逆転の連続で金メダルを量産した女子レスリングの『最後まであきらめない精神力』と『フィジカルの強さ』を学びたい」と申し出があったという。それをレスリング側が受けて実現した、スパーリングもありの、まさに「ガチンコ」だ。

 合宿初日は、柔道選手もレスリング選手から提供されたシューズを履いてマットに上がり、レスリングコーチが指導する練習を体験した。

 メニューはまず、マットが6面敷かれたレスリング場のランニングからスタート。次に柔軟体操、基礎トレーニングと続き、その後にスパーリングを行なった。そして最後は、女子レスリングでは名物となった「ふたりおんぶ」や「ふたり抱っこ」のほか、マットに背中をつけて身体を曲げ伸ばしながら前進する「ダンス腹筋」、全員が手をつないで輪になってのスクワット、さらに天井からぶら下がった綱を掴んで腕だけで身体を引っ張り上げる「綱上り」など。レスリング選手にとってはお馴染みの補強トレーニングで締めくくった。

 柔道界からは、ハンガリー・ブタペストで行なわれる今夏の世界選手権に出場する代表選手を中心に、2020年東京オリンピックでの活躍が期待される若手も参加。トップ選手たちは慣れないレスリング式のトレーニングに戸惑いながらも、最後まで必死に食らいついていった。初日の練習メニューで脱落する柔道選手はなかったが、リオ五輪48kg級銅メダリストの近藤亜美(三井住友海上)や「東京オリンピック期待の星」といわれる阿部詩(あべ・うた/夙川学院高)は口を揃えて、「明日、身体中が筋肉痛で起きられないかも」と疲労困憊(こんぱい)の様子。

 それでも、柔道選手たちは大きな収穫も得たようだ。初日からヘトヘトになっていた近藤は、練習後にこう語っていた。

「『体幹を鍛えること』と『受けを強くすること』が自身の課題なんですが、レスリング選手の体幹の強さには驚きました。イメージとしては外国人選手と戦っているよう。それと、あの綱上りを何度も平気でやっているだけあって、腕の強さもスゴイですね。

 補強トレーニングは得意なので問題ありませんでしたが、延々と続いたスパーリングには参りました。3分2ピリオドで、ピリオドの間は30秒しかない。そのうえ、スパーリングが終わってすぐ休む間もなく打ち込みして、懸垂もやって、またスパーリングの連続でしたからね。道着なしのレスリングでは引き手で崩せても釣り手ができないので、どう相手をいなすかを残りの合宿で考え、柔道に生かしたいと思います」

 16歳の阿部は、合同合宿を経験してこのような感想を述べた。

「レスリング選手が低い姿勢から攻めてくるのは、柔道でも外国人選手の攻めと同じ。いつもの練習以上に疲れましたが、いい勉強になりました。補強トレーニングはホントにキツかったですけど、柔道でも取り入れるといいかもしれませんね」

 一方、近藤や阿部とスパーリングをした吉田沙保里(選手兼代表コーチ/至学館大学副学長)は、柔道選手たちの習得力の速さを称賛した。

「スパーリングではタックルに入ったり、ローリングを極(き)めたりしましたが、2度、3度食らうと対応してくるところはさすがです。足を取って倒されてもすぐに立ち上がってくる足腰の強さは、レスリング選手も見習わなければなりません。

 マットではレスリング選手が優勢でしたけど、逆に柔道着になったら私たちはボコボコに投げられるでしょうね。それでも、お互いに負けたら悔しい。レスリングと柔道が切磋琢磨して、それぞれのいいところをミックスしたら最強です。レスリングでも柔道でも、世界で活躍して日本に貢献できる選手が多く出てくれるといいですね」

 他のレスリング選手たちも、合同合宿で柔道選手から何かを学ぼうと積極的だった。

「自分は試合で投げられることが多いので、その対策になればと思って臨みました。柔道選手はどんな姿勢からでも投げてくるので、きっちり対応していきたい」(土性沙羅/どしょう・さら/東新住建/リオ五輪69kg級金メダリスト)

「柔道の選手は反応の仕方、仕掛けてくるタイミング、力の入れ方が自分たちとまったく違うので、海外のいろいろなタイプのレスラーと戦うための対策になります」(川井梨沙子/ジャパンビバレッジ/リオ五輪63kg級金メダリスト)

 オリンピック4連覇の伊調馨(いちょう・かおり)やリオ五輪グレコローマン59kg級銀メダリストの太田忍らが所属するALSOKレスリング部の大橋正教監督は、中学時代に柔道とレスリングを学んでいた自らの経験をもとにこう語る。

「柔道とレスリングは同じ格闘技ですから共通点もあり、学ぶべき点はたくさんあります。たとえば、レスリング選手なら柔道の投げ技の足の運び方、懐(ふところ)への入り方を覚えるといいし、逆に柔道選手はレスリングの組み手や崩し、前さばき、差しを入れられて間合いがなくなったときの戦い方、もつれたときのバランス感覚などを身につけるといいかもしれません。

 合同合宿では課題を解決したり、壁を乗り越えるヒントを得ることができるはず。レスリング選手がレスリングで柔道選手に勝つ、柔道選手が柔道の投げ技をレスリング選手に極めるのは当たり前ですから、勝った負けたではなく、大事なのは自分が強くなるために、何でもどんな競技からでも取り入れようとする意識です」

 日本レスリング協会の栄和人強化本部長は、次なる合同合宿の提案として、新潟県十日町市にある女子レスリングの「虎の穴」櫻花(おうか)レスリング道場での練習を挙げた。

「日本の女子レスリングはあらゆる競技のなかでも、世界で一番厳しい練習をしているという自信・自負があります。でも、それだけではありません。選手たちを取り巻く環境、練習の雰囲気もナンバー1だからこそ、フィジカルや精神力が鍛えられ、結果を残すという意識が生まれてここまできました。

 そのことを柔道の選手やコーチたちにも知ってもらいたいので、十日町の厳しい自然環境、近代的な設備もないところで一緒にやりましょう。柔道連盟さんはお金持ちだから、井上康生監督も『こんなところで合宿しているんですか?』と驚くでしょうね(笑)」

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