自社の技術を見て実際に触れてもらえるように、実物の約2分の1の「F1カー」を製造。

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■生産財メーカーの悩みは自社の実力が「見えない」こと

消費財や耐久消費財メーカーは顧客に完成品(最終製品)を見せることができる。だが生産財メーカーは完成品をつくるための部品を製造しているため、自社の技術力や製品力を「目に見える」ように提示することが難しい。

「見える化」のためによく行われるのは、展示会で製品サンプルを見せることだ。メーカーで研究開発や試作を行う専門家であれば、その部品の用途と精度は理解できる。ただし、分野の異なる人には製品の価値を伝えきれず、関心を持ってもらうのは難しい。また守秘義務契約があるため、過去に手掛けた部品の現物を、展示会などに出せないケースもある。

こうした制約がある中でも、好業績を上げている生産財メーカーは、自社の技術力と優位性を理解してもらいながら既存顧客を深耕し、新規顧客の開拓に取り組んでいる。

■生産財メーカーに必要なコミュニケーション

浅野(浅野誠代表)は自動車メーカー向けを中心に試作用の金型や試作板金製造組み立て事業を手掛けている。群馬県伊勢崎市に本社と本社工場、静岡県掛川市に静岡工場、さらに京都市に射出成形用金型の設計製作を手掛ける京都工場を持つ。社員数337人、売上高63億3000万円(2016年3月現在)の生産財メーカーだ。

同社は自動車レースの最高峰であるF1カーの部品製造にも関与し、試作用金型の分野を中心に事業を展開している。他の生産財メーカーにはない同社の力量を理解してもらいながら既存取引先からの仕事を増やし、その一方で新たな取引先を開拓する効果的なコミュニケーション方法をかねてから模索していた。

そんな中で彼らが見出したテーマが、自社の技術力を誰の目にも理解してもらえるように「技術と能力を見える化」 することだった。

■「技術と能力を見える化」する具体策

まず彼らは、社員の持つスキルに着目し、社内に高度な技術や能力を備えた人材を擁していることを紹介する「ASANOマイスターの矜持(きょうじ)」というコンテンツを自社サイトに掲載した。

次に取り組んだのが、取引先が求める最新の情報提供とその仕組みづくりだ。日本ではまだ報道されていない世界の最新技術動向や企業・製品の開発動向について海外の情報源を調べて翻訳し、四半期毎にカラーリーフレットにして編集。これを「アサノ ワールド イノベーション ラボ レター」と命名して、取引先の製品開発担当者や技術開発者に提供していく仕組みをつくった。

この「アサノ ワールド イノベーション ラボ レター」は営業担当者が取引先を訪問する際に届けるのは勿論、学会で研究論文を発表した企業の技術者にも送付し、関係づくりの足掛かりにしている。また展示会を訪れた新規顧客との関係をつくるために、「アサノ ワールド イノベーション ラボ レター」の最新号を届ける取り組みも開始した。

さらに展示会や会社訪問時に自社の技術を見て実際に触れてもらえるように、実物の約2分の1となる全長1800mm、全幅900mm、高さ480mmの「F1カー」を製造した。製作には、得意とする金属加工はもとより、業界で注目されている熱可塑性炭素繊維強化プラスチック(CFRTP)も起用し、最新の技術力をアピールする取り組みも加味された。

この「F1カー」 は、「ハノーバー・メッセ2015〜インダストリアル・サプライ」を始め、同社の出展する展示会に「企業力としての技術と能力を見える化」するシンボルとして展示活用し、来場者の注目を集める資源にできた。

さらに、伊勢崎市境東新井にあった本社と群馬工場を現在の伊勢崎市三和町に移転するのを機に、取引先の工場見学を積極的に受け入れられるようにした。工場の設計にあたっては、冷暖房を完備するなど最新の設備を導入するだけでなく、当初から「見学ルート」を考慮して計画した。快適で美しい労働環境の中に最新の製造機器を導入した製造現場を「見える化」したことで、企業として信頼され、成約率を高めている。

■「コミュニケーションの進化」4つのポイント

時代を超えて求められる企業になるには、
(1)市場
(2)顧客
(3)意味(用途・役割)
(4)製品(商品)
(5)価格
(6)ブランド
(7)サービス
(8)課金方法
(9)販路
(10)販売方法
(11)コミュニケーション
という11の領域で経営を進化させ、経営全体を最適化することだ。

進化経営の詳しいプロセスは、『価値づくり進化経営http://www.jmca.jp/prod/2433』(日本経営合理化協会刊)に譲るが、今回は(11)コミュニケーションの進化に取り組んだ浅野の事例から、企業が取り組むべき新たな販路の開拓を通じて、経営を進化させていくポイントを4点抽出する。

(1)生産財メーカーには「技術と能力を見える化」するコミュニケーションが必要なことに気付いた

完成品でなく部品や金型を製造し、専門家でないとその力を評価できないという自社の課題を解決するには、自社の力を誰にでも簡単に理解してもらえるコミュニケーションが欠かせない。生産財メーカーのコミュニケーションに必要な要素は、誰にでも自社の技術と能力が伝わるように、「見える化」することだと気付いた。

(2)「技術と能力を見える化」するコミュニケーション方法を立体的に組み合わせた

浅野では「技術と能力を見える化」するコミュニケーションについて、誰に対して、どのような場面で、自社の何を伝えるのかを研究し、

【1】自社をサイト検索してくれる人に対しては、
社員が持つ専門性を「見える化」するために、自社サイトに人材のスキルを紹介するコンテンツを掲載した。

【2】新規取引先も含めた製品開発担当者や技術開発者に対しては、
自社の存在を「見える化」するために、海外の最新動向を掲載した「アサノ ワールド イノベーション ラボ レター」を制作し、配布先を開拓しながら四半期毎に配布している。

【3】展示会や会社訪問に訪れる顧客に対しては、
自社の技術と製造能力を「見える化」するため、「F1カー」を自社で製造し、展示物として活用している。

【4】工場見学に訪れる取引先に対しては、
自社の技術力とモノづくりへの姿勢を「見える化」するため、建設計画の段階から工場見学を想定した設計を行い、工場見学による成約率を向上している。

という4つのコミュニケーション方法を立体的に組み合わせ、効果を発揮している。

生産財の業界は、技術力を中心に独自性と優位性を発揮している企業でないと、取引先に選ばれない世界だ。消費財や耐久消費財はもとより、生産財にこそコミュニケーションが重要なことを、浅野の取り組みが実証している。

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酒井光雄(さかい・みつお)
1953年生まれ。学習院大学法学部卒業。日本経済新聞社が実施した「経営コンサルタント調査」で、「企業に最も評価されるコンサルタント会社ベスト20」に選ばれたマーケティングのコンサルタント会社、ブレインゲイト代表取締役。著書に『価値づくり進化経営』(日本経営合理化協会)、『全史×成功事例で読む「マーケティング」大全』『成功事例に学ぶ マーケティング戦略の教科書』(共にかんき出版)、『コトラーを読む』『商品よりもニュースを売れ! 情報連鎖を生み出すマーケティング』(共に日本経済新聞出版社)、『中小企業が強いブランド力を持つ経営』『価格の決定権を持つ経営』(共に日本経営合理化協会)、『図解&事例で学ぶマーケティングの教科書(マイナビ 監修)』など多数ある。日経BP社日経BP Marketing Awards(旧名称 日経BP広告賞)の審査委員を務める。

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(ブレインゲイト 代表取締役 酒井 光雄)