福田正博 フォーメーション進化論

 W杯は2026年大会(開催国未定)から、出場国が48カ国(現行32カ国)に増えることが決まった。5月のFIFA理事会で正式決定されれば、アジアの出場枠は現行の「4.5」から「8」へと増加し、本戦出場へのハードルはかなり低くなる。


ロシアW杯アジア最終予選を戦う日本代表 2026年大会の予選方式は未定だが、現在行なわれているアジア最終予選で想定してみると、3試合を残して、グループ首位の日本代表と同4位のUAEとの勝ち点差は「7」あり、次の試合で引き分け以上なら出場が決まることになる。もちろん、アジア各国のレベルは上がり、予選で何が起こるかはわからないが、日本サッカーのアジアでの立ち位置を考えれば、よほどのことがない限りアジア出場8枠を逃しはしないだろう。

 一方、本戦のグループリーグは3チームずつの16組総当たり戦で行なわれ、各組の上位2カ国(32チーム)が決勝トーナメントに進むようになる。グループリーグの組分けでは、同地域国との対戦を避けることが考慮されるため、日本代表はヨーロッパ勢1カ国と、南米かアフリカ勢のどちらか1カ国と同グループになることが予想される。すなわち、日本代表は確実に格上の相手を倒さなければ、決勝トーナメントに進出できない。

 W杯で強豪国から勝ち点を奪うために日本が重視すべきなのは、技術力だと私は考えている。ここで言う技術力とは、組織を活かすための「個の力」だ。個の力というと、単にドリブル突破や、走るスピード、フィジカルの強さを指すと思われているが、「どういったスタイルのサッカーをするか」によって必要となる個の力は異なり、優先順位も変わってくる。

 極論にはなるが、レアル・マドリードのような個人技に依存する割合が多いスタイルを採るのであれば、走るスピードやフィジカル強度などが重視され、クリスティアーノ・ロナウドや、ガレス・ベイルのような選手が必要とされる。それに対し、バルセロナのようにポゼッションと組織力を重視し、速くて正確なパスワークのサッカーを実践するのであれば、求められる「個の力」は、パスやトラップ精度の高さ、的確なポジショニングを取る戦術理解度や判断力、イメージの共有になる。アンドレス・イニエスタやセルヒオ・ブスケツが好例だろう。

 また、クラブチームであれば、戦力を国外から獲得できることもあって、監督の志向するスタイルに比較的簡単に変えられるものの、代表チームでそれをするのは容易ではない。だからこそ、その国の文化や国民性、体格などをふまえたスタイルを構築する必要があると私は考えている。

 残念なことに、今の日本代表は明確なスタイルを一貫して構築できていないように思える。2010年以降、2014年ブラジルW杯まではザッケローニ監督のもとで組織力をベースにしたパスサッカーで戦っていたが、後を引き継いだアギーレ監督の予期せぬ解任を経て、ショートカウンター主体の戦い方に長(た)けたハリルホジッチ監督が就任したことで、一からチーム作りを余儀なくされている。

 ただし、現在のショートカウンターを重視するスタイルは、フィジカルの強さや高いスプリント能力をベースにして成り立つものだ。海外勢に比べて体格や身体能力で劣る日本代表に最適かと考えると、あまり向いているとは思えない。

 そのため私は、日本サッカーのスタイルは、大前提として技術力と組織力をさらに重視するべきだと考えている。日本人が弱点とするスピードやフィジカルの強さは、どれだけ鍛えても他国を上回るレベルに引き上げることは難しく、体格が劇的に大きくなることもない。育成年代から強化に取り組んだとしても限界があるからだ。

 もちろん、弱点をなくす努力は必要で、すべての能力が高いに越したことはないが、「ドリブル突破」がほとんどないパスを主体にしたスタイルを採れば、クリスティアーノ・ロナウドのような筋骨隆々の選手がいなくても戦えるし、競り合いを極力避ける戦い方をすればフィジカルが強くなくても勝利を手にすることができる。

 サッカーとは、105m×68mのピッチ内に敵味方を合わせて22人の選手がいて、GK以外は手が使えないことと、オフサイドというルールがあるくらいで、それ以外は自由なスポーツだ。たとえ時代の潮流がショートカウンターのスタイルにあったとしても、日本サッカーがむやみにそれを追いかける必要はない。

 日本サッカーの強化のヒントは、リオ五輪の陸上4×100mリレーで銀メダルを獲得した日本男子チームにあると私は考えている。速く走るという「個の力」では「10秒の壁」を破れていないにも関わらず、リレーでは、4人のバトンの受け渡し技術という「個の力」を磨き抜いたことで、9秒台で走る4人をそろえた海外勢を上回ることができた。つまり、これと同じように、日本人が苦手とする分野を強化しつつも、得意な部分をとことん磨いていくことをサッカー界も考えるべきではないか。技術力と組織力などの長所を前面に出す戦い方が、日本サッカーの目指すべき姿だろう。

 フィジカルの強さで海外の強豪に劣っているとしても、日本代表が技術力や組織力、連係をどこよりも高めていくことで勝機は見えてくるはずだ。もちろん、サッカーの試合は球際の争いが発生するものであり、イーブンの状況で屈強な選手とぶつかれば体格の差が如実に出る。しかし、有利な態勢でボールを持ち続けていられれば、体をぶつけられる回数を減らすことになる。そうしたイーブンな状況でのボールの奪い合いを減らすためにも、技術力と組織力を高めることが大切だ。

 組織力を高めるために必要なのは、パスの精度やスピード、パスレンジの拡大、ポジショニングと連動、ボールを受けてからのターンといったもので、これはフィジカルの強さや走る速さとは異なる力だ。こうした技術は育成年代から磨いていくことが可能で、規律性を高めて連動することも日本人が得意とする分野だろう。

 現在のサッカー界は、ドイツやスペインのように強いフィジカルと高い技術を備えた選手が、規律のあるサッカーをすることで頂点に手が届く時代になっている。日本代表がフィジカル面で追いつくことは難しいが、それを補う技術力を身につけ、組織的なサッカーを構築することができれば、強豪国と伍して戦うことも可能になるのではないか。

 2026年大会は遠い先の話ではない。そこで主力となるのは、今の小学校高学年から中学生、高校生たちだ。W杯で決勝トーナメントに進む32カ国に入り、ベスト8以上に勝ち上がることを望むのであれば、育成もふまえた日本サッカーのスタイルを明確にし、「そのために必要な個の力」とはどういうものかを、今こそ議論すべきだろう。

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