左足甲に負った故障の治療で出遅れたものの、「4回転時代」の世界選手権フリーで歴代最高得点を出して逆転優勝を果たした羽生結弦。底力を見せたその実力は、他の選手を一歩リードしているといえる。


世界選手権で見事な優勝を果たした羽生結弦。10代の新鋭たちが彼を目標に成長を続けている また、日本男子には羽生のほかに、世界選手権2位の宇野昌磨もいる。宇野は今季4回転フリップを自分のものにしたことに加え、シーズン途中から組み込んだ4回転ループも四大陸選手権、世界選手権でともに成功させる勝負強さを見せ、さらにもう1種類の4回転の習得も意識しているという。

 だが、その日本勢ふたりを上回る4回転ジャンプの威力を持つのが、4種類の4回転をすでに自分のものにしているネイサン・チェン(アメリカ)だろう。20日から開幕する国別対抗戦はもちろん、平昌五輪シーズンに向けて、最大のライバルとして急成長する可能性が高い。彼の4回転ルッツと4回転フリップの正確さは、誰もが認めるところだ。

 15歳で4回転トーループを跳べるようになっていたチェンだったが、15年の世界ジュニアでは成長痛もあってジャンプが安定せず4位。だが15-16年シーズンは4回転サルコウも加えてジャンプの安定度を上げ、ジュニアグランプリ(GP)を連勝してファイナルも制した。さらにそのシーズンの全米選手権では4回転サルコウと4回転トーループを2本ずつ決めて、総合3位と一気にジャンプアップ。しかし、同大会のエキシビションで左股関節を痛めて手術をすることになり、シーズン後半を棒に振ってしまう。

 それでも、そのケガをキッカケに4回転を5本跳ぶためのフィジカル強化に取り組み、それが今シーズンの飛躍の基礎になったといえる。チェンは、4回転フリップと4回転ルッツも習得すると、16年11月のフランス杯ショートプログラム(SP)では4回転ルッツ+3回転トーループをISU公認の大会で初めて成功させた。


猛スピードで成長を続けている17歳のネイサン・チェン そして続くNHK杯では、SPの4回転ルッツで転倒しながらも4回転フリップに3回転トーループをつける連続ジャンプに変更してリカバリーすると、フリーでは4回転トーループ2本を含めた3種類4本の4回転を跳び、総合で羽生に次ぐ2位になった。

 さらに、初進出を果たしたグランプリ(GP)ファイナルのフリーでは4回転4本を入れるプログラムをノーミスで滑り、197・55点を獲得。後半でミスを連発してしまった羽生や、ノーミスの演技をした宇野を抑えてフリー1位になり、SP5位から総合順位を2位に上げて世界トップの仲間入りを果たした。

 チェンの急激な進化はまだ止まらなかった。1月の全米選手権では4回転ルッツと4回転フリップを入れたSPをノーミスで滑って106・39点を獲得すると、フリーでは後半の3回転フリップ+3回転トーループでわずかなミスをしたものの、前半の3種類4本の4回転でGOE(出来ばえ点)加点をもらい、後半には4回転サルコウを入れてGOE加点は1・14点。ISU非公式ながらも合計318・47点という高得点を獲得した。

 好調を維持して臨んだ2月の四大陸選手権フリーでは、4種類5本の4回転を着氷し、2本入れたトリプルアクセルでミスをしながらも、204・34点を記録。SP1位のリードを守って羽生の追撃をしのぎ、初タイトルを獲得する。

 続く世界選手権では、少し調子を落としたのかSP6位、フリー4位で合計も6位にとどまった。それでも、フリーでは前半4本の4回転にフリップを2本入れ、後半には4回転サルコウに続いて4回転トーループを入れる「4回転6本」のプログラムに挑戦。さらなるレベルアップを模索する姿を見せた。

 そんなチェンの強さはジャンプだけではなく、5歳からやっていたクラシックバレエの素養を生かした表現面にもある。今季からはスケーティングスキルや表現の強化のために、アイスダンスのコーチでもあるマリナ・ズエワコーチにも指導を受けている。4回転ルッツ+3回転トーループと4回転フリップは四大陸のフリーでGOE2・43点をもらっていたように完成度が高いが、それはスケーティングの基礎がしっかりしていればこそ。

 現時点でのフリーの自己最高は四大陸の204・36点だが、このときの技術基礎点は106・48点。これはトリプルアクセルからの3連続ジャンプを2連続に変更しての点数で、予定通りのトリプルアクセル+1回転ループ+3回転フリップを成功していれば、4・95点を加算して111・43点になっていた。

 また、4回転を6本にした世界選手権フリーの技術基礎点は112・87点だったが、連続ジャンプをさらに高度なものにすればさらに加算できる可能性を持っている。世界選手権でノーミスをした羽生のフリープログラムの基礎点は103・43点。それより10点近くアドバンテージを得ることができる計算だ。

「自分の武器は瞬発力と17歳という若さ」と言うチェン。4回転の本数が多くなればなるほど、試合へ向けた体調管理と調整がより重要になってくるが、フィジカルや体力面でピークを迎えるのはこれからという年齢なだけに、国別対抗戦、そして平昌へ向けても強力なライバルとして羽生と宇野の前に立ちはだかってくるはずだ。

フィギュアスケート特集号
『羽生結弦 平昌への道 ~Road to Pyeong Chang』

 


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