MRJ90 飛行試験一号機(「Wikipedia」より)

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 国産ジェット旅客機・MRJの夢が、どんどん萎んでいく――。

 第1号の顧客であるANAホールディングスは、納期が再三再四遅れていることに対応して、代替機としてボーイング製の「B737-800」4機をリースで調達する。

 三菱重工業は当初、ANAには2013年後半に初号機を引き渡す予定でいたが、延期を重ね20年半ばへと7年も遅れることになった。そのため、ANAはMRJを運航させる予定だった地方都市間の路線に、代替機のボーイング機を18年度から投入する。

●400機超の受注の半数近くはオプション契約でキャンセル必至

 MRJの受注総数は447機に上る。三菱重工は、1月に5度目の納入延期を明らかにして以降、キャンセルは出ていないとしているが、100機以上発注している米国の航空会社はいずれもローカル航空会社だ。スカイウエスト航空の200機が最高だが、米国の契約の半分近くはキャンセルが可能なオプション契約となっている。つまり三菱重工は、いつキャンセルされても文句はいえない。

 25機を購入する予定になっている第1号顧客のANAでさえ、納入の遅れで待ち切れなくなっている。ANAに対抗して、32機を契約している日本航空(JAL)が、どのような態度に出るかも注目される。

 5度の納入延期でMRJ事業が被るダメージは計り知れない。三菱重工の宮永俊一社長は開発が遅れている理由を「最高水準の安全性能を国際的に説明できるようにするには、設計の変更が必要だと判断した」と釈明した。

 20年半ばに納入するには、逆算すると19年末までに型式証明を取得しなければならない。今回の設計変更で、飛行試験は一からやり直さなければならなくなる。19年末までに型式証明を取得するには、日程はかなりタイトである。

 米航空専門誌「アビエーション・ウィーク」(16年7月25日号)は、MRJを200機契約している米スカイウエスト航空が、カナダの小型航空機メーカー、ボンバルディア社と航空機整備の10年間の延長契約を結んだと報じた。

 同誌は、「スカイウエストがパイロット労組と協定を結んでいる機体の重量制限をMRJが満たしていないため、ボンバルディア社に変更する布石を打った」と伝えた。つまり、MRJは重量オーバーしているということだ。

 米国のローカル航空会社向けの受注契約の内訳は、スカイウエスト航空が200機、トランス・ステイツ航空が100機、イースタン航空が40機、航空機リース会社のエアロリースが20機となっている。米国での受注は計360機あるが、最悪の場合、全数がキャンセルになるおそれがあるのだ。MRJの競合機の離陸が21年に迫っているだけに、事態は楽観を許されない。

●膨張する開発費、巨額違約金発生の恐れも

 納入延期によって、MRJの開発費用は大きく膨らむことになる。3000〜4000億円とみられていた開発コストが、さらに3〜4割増える見通しだ。開発当初は1500〜1800億円と見積っていたので、およそ3倍に膨らみ、5000億円を超える可能性が出ている。

 三菱重工の子会社でMRJの製造を任されている三菱航空機は、16年3月期の決算公告によると資本金は500億円、資本剰余金は500億円。これに対して利益剰余金は998億9600万円の赤字で、16年7月に債務超過になったと公表した。64%を出資する三菱重工が資金の不足分を毎月、補填している。

 三菱航空機は設立以来、赤字経営が続き、当期純損失が毎年積み上がってきた。純損失額は14年3月期が94億500万円、15年3月期に177億1500万円、16年3月期になると305億2200万円に膨らんだ。

 受注した447機の引き渡し時期は18年以降、順次やってくるが、当然、間に合わない。そうなると、納期遅れによる違約金の支払いが発生し、赤字は一段と積み上がることになる。ANAも、納期の遅れに伴う違約金を「請求しない」とは明言していない。

 MRJは、初の国産ジェット旅客機という国家プロジェクトだ。だが、本当に離陸できるのか見通しが立たない。飛んだとしても、事業の採算の目安といわれる1000機規模の受注を確保できる保証はない。
(文=編集部)