原料のジャガイモ不足により、店頭から次々と姿を消しているポテトチップス。一部商品がオークションで高値をつけられていることも話題となっています。無料メルマガ『店舗経営者の繁盛店講座|小売業・飲食店・サービス業』の著者で店舗経営コンサルタントの佐藤昌司さんは、カルビーや湖池屋などのポテトチップスを主力とする企業が今後どのような手を打ってくるのか、プロの目線で分析しています。

消え行くカルビーポテチ。再販時の値上げの布石?

佐藤昌司です。「ポテチショック」が広がっています。原料のジャガイモの出荷不足によりポテトチップスの製造が追いつかず、販売店から続々と姿を消しています。オークションサイトやフリマアプリでは高額での出品が相次ぐ事態となっています。

カルビーは4月10日、「ポテトチップス」や「ピザポテト」、「堅あげポテト」の販売を一時休売または販売終了すると発表しました。「ピザポテト」に関して同社は12日、一連の発表で同製品への需要が急増したことにより、休売日を4月22日から12日に前倒しすると発表しました。影響が想定を超えて広がっているようです。

ジャガイモが不足した背景には、昨年の8月から9月にかけて主要原産地の北海道に4つの台風が接近・上陸したことで調達が間に合わなくなったことがあります。国内調達の約8割が北海道産のため、大きな影響が発生しました。

ポテトチップス市場のシェアはカルビーが他を圧倒しています。近年の国内市場シェアは70%程度で推移しています。2011年3月期のシェアは62.5%なので、拡大傾向にあることがわかります。ポテトチップスは同社の売上高の3割以上を稼ぐ主力製品群となっています。

湖池屋もポテトチップスの販売を休止・終了しています。2017年4月10日付産経新聞は「湖池屋は3月25日の出荷分で、『頑固あげポテト のり塩』など7商品の販売を終了した。また、『55グラム ガーリック』など9商品も休止した」と報じています。

今回のカルビーのポテトチップスの一時休売で懸念されることがあります。それは「便乗値上げ」です。販売の再開時に値上げ、または値段据え置きで容量を減らす実質的な値上げが行われることが懸念されます。カルビーは過去にポテトチップスの実質的な値上げを行なったことがあるからです。

カルビーのポテトチップスは1975年に誕生しました。「100円でカルビーポテトチップスは買えますが、カルビーポテトチップスで100円は買えません。悪しからず」のCMが大ブレイクしたことで認知され、多くの消費者に支持されるようになりました。ちなみに、発売当初の価格は100円で容量は90gなので、1gあたり約1.1円です。

発売から現在まで、カルビーのポテトチップスの価格と容量は何度か変更が加えられています。例えば、2007年にポテトチップスの一部商品の規格改定を行なっています。「ポテトチップス うすしお味」の90gのものは85gに減量しました。参考価格は税込み145円で据え置いたままなので実質的な値上げです。この場合の税抜き価格は138円で、90gでは1gあたり約1.5円、85gでは約1.6円です。

2007年の規格改定はジャガイモの不足を理由としています。ジャガイモ栽培農家と栽培面積の急激な減少と、主産地である北海道で前年に天候不良に見舞われたため、収穫量が計画を大幅に下回ったことを同社は理由として挙げています。

1975年発売のポテトチップスは1gあたり約1.1円で2007年の規格改定直前のものは約1.5円なので、32年間でおよそ1.4倍になりました。1.4倍のため割高になったようにも思えますが、物価上昇を考慮すると、実は割安になっていることがわかります。

総務省統計局「消費者物価指数」を出所とした日本銀行公表の文書によると、2007年の消費者物価指数は1975年と比べて約1.8倍になっています。1gあたりの価格は約1.4倍になりましたが、物価の上昇はそれを上回る約1.8倍のため、ポテトチップスは割安になっていることがわかります。カルビーの企業努力により割安で消費者に親しまれる製品になっていったと言えるでしょう。

一方、物価は1993年頃から現在までは同程度の水準で推移しています。物価が上昇しているのであれば値上げをしても割高感は出ません。しかし物価の上昇が見られない2007年に実質的な値上げを行なったため割高感が出ました。原料のジャガイモが不足していましたが、それは消費者にとっては関係のない話です。そのため、消費者の理解が得られにくい値上げだったと言えるでしょう。

現在、2007年から10年経ちました。カルビーの「ポテトチップス うすしお味」はコンビニであれば85g(コンビニ限定サイズ)で税抜き141円で販売されています。1gあたり約1.7円なので、2007年の規格改定後と同水準で維持されているとみていいでしょう。節約志向を強める消費者が気軽に買い求めることができる水準といえます。

カルビーが過去に原料不足を理由にした実質的な値上げを行なっている例を挙げました。これはなにもカルビーだけでなく、多くの菓子メーカーが行なっていることです。例えば2014年、森永製菓などの菓子メーカーは、チョコレート製品の主原料であるカカオ豆が高騰したことから、実質的な値上げを実施したことがあります。このように、原料不足は値上げのきっかけに利用されるという歴史があります。

カルビーは今回、ポテトチップスの一時休売を決めました。販売再開は今のところ未定です。2007年の規格改定と同じく、原料のジャガイモの不足が理由です。一方、物価は安定的で消費者の可処分所得は増えているとは言い難い状況にあります。大幅な値上げは受け入れられないといえるでしょう。販売再開した際に、値上げや実質的な値上げがなされるのか、注目が集まりそうです。

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東京MXテレビ『バラいろダンディ』に出演、東洋経済オンライン『マクドナルドができていない「基本中の基本」』を寄稿、テレビ東京『たけしのニッポンのミカタ!スペシャル「並ぶ場所にはワケがある!行列からニッポンが見えるSP」』を監修した、店舗経営コンサルタント・佐藤昌司が発行するメルマガです。店舗経営や商売、ビジネスなどに役立つ情報を配信しています。

出典元:まぐまぐニュース!