「ちんぽで天下取りましょう」
 こだまさんは、担当編集者のそのひと言で、作品の書籍化を決めたという。

 13万部を超えるベストセラーとなっている「こだま」さんの本『夫のちんぽが入らない』(扶桑社刊)。もともとは2014年に、文学作品の展示即売会「文学フリマ」に出品した同人誌「なし水(すい)」に寄せた、同名のノンフィクションエッセイだった。

「40歳になるまでに何か形に残したいという漠然とした夢があって、『誰か一緒に同人誌を作りませんか』とツイッターで募集したんです。以前からネット上で交流のあった面白い文章を書く3人の男性が賛同してくれて、文学フリマに初参加できたんです」

 すると、『なし水』のクオリティの高さが注目を集め、なかでも「夫のちんぽ〜」は大きな話題となった。翌年の「文学フリマ」では、こだまさんたちのブースの前に大行列。一躍、文学同人誌界のスターとなったこだまさんだが、じつはその前から、知る人ぞ知る人気の主婦ブロガーだった。

「ブログを始めたのは2003年ごろです。たくさんの人に読んでもらえるようになったのは、ツイッターで告知するようになったここ数年。ネット上の知人しか読まなかった記事が少しずつ広まっていきました。ネタは身の回りに起きた私的な出来事が多いですね」

 作品でも存分に発揮されている軽妙な筆致は、ブログで培われたものなのかもしれない。そしてこのインパクト抜群にしてポップなタイトルも。

「『ちんぽ』って語感がちょうどよかったんです。『男性器』なんて言うと逆に隠してる感じがして恥ずかしいし、だからって『ちんちん』なんて呼ぶほどカワイイものでもないですしね」

 そんなこだまさんのセンスと文才に魅せられた担当編集者とともに、一編のエッセイを本一冊の長編にブラッシュアップする作業が始まった。「Re.ちんぽの見通し」「Re.Re.ちんぽ会議」といったメールを真面目にやり取りして。

「なにしろ題材もタイトルも『ちんぽ』なんです。何を書いても恥ずかしくないぞ、という開き直りはありました」

 夫のちんぽが入らない苦悩から始まり、恋愛、結婚、職業、人生にまで至る「私小説」作品に仕上がった。

「登場人物の特定に至りそうな特徴や背景は少し変えてありますけど、私が体験したこと自体は全部本当です」

 文体は軽妙だが、書かれているエピソードはかなりヘビーだ。ちんぽの入らない夫と結婚し、小学校の先生になったこだまさんを待ち受けていたシャレにならない学級崩壊。ブログ以前のネット掲示板に心情を書き込むと、多くの男たちからメッセージが届いた。

《男の人たちは年齢も職業も境遇もさまざまだった。バツ二の人も大学生も、高学歴も無職も、精神を病んでいる人も弱視の人もいた。》(本文P112より)

 なんと夫以外のちんぽは入ってしまったのだ。それがさらにこだまさんを苦しめ、知らない男とのセックスへと走らせる悪循環―負の依存スパイラルから抜け出すと、襲ってきた奇病。

《血液検査を受けた結果、自己免疫疾患の一種であることがわかった。(中略)歩行も困難になっていた。》(本文P139より)。

 入院、手術……病いの影響もあるのか、《三十六歳にして、どうやら閉経した。》(本文P176より)。

 ん〜、「好きな女子」や「憧れの女性」に「ちんぽを入れる」ことだけをモチベーションにして生きてきた我々、大多数の男にこそ、この物語、響くんじゃないだろうか。

取材&文・イズミエゴタ
(週刊FLASH 2017年3月21日号)