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 欧州での大規模な音楽祭「ユーロビジョン」が5月に開催されます。

 今年の開催地はウクライナ

 開催が間近に迫り、各国代表が準備を進める中、3月22日、ある事件が起こりました。

 ウクライナ政府が「ユーロビジョン」のロシア代表であるユリア・サモイロワさん(27)のウクライナ入国を3年間禁止にしたと発表したのです。

 理由としては、クリミア半島への許可なき訪問。

 入国禁止になったサモイロワさんは障害を患い、幼少の時から車椅子を使用しているロシアの歌手。ロシア側はもちろん非難をし、ユーロビジョンのボイコットも視野に入れています。

 なぜこのようないざこざが起こっているのでしょうか。今回の事件は、当事者のサモイロワさんには気の毒ですが、ここ数年の音楽祭「ユーロビジョン」の動きを追っていれば、起こるべくして起こってしまった事件とも見ることができます。

◆政治色が隠せないユーロヴィジョンという音楽祭

 ユーロビジョンは、1年に1度各国代表が集まり、歌を披露し競い合う、欧州の大規模な音楽コンテスト。

 しかし、ユーロビジョンは単なる音楽の域を超え、非常に政治色が強いものになってきています。中でも近年はロシアに対する非難のメッセージが強く出てきています。

 例えば、2014年年度の優勝者は、「ひげ面美人」として知られるオーストリアの歌手、コンチータ・ウルストさんでした。

 ウルストさんは、普段は男性としての本名を名乗っています。ただ、ステージ上は別。

 ユーロビジョン優勝時の時もそうですが、ひげを生やしながらもきれいなドレスを着て、長いまつ毛に長髪。「女装」しているのが特徴的な歌手です。そんなウルストさんの優勝は、プーチン大統領に対する非難のメッセージとも当時言われていました。

 というのも、プーチン大統領は反同性愛法を成立させたことからも分かるように、基本的に同性愛に不寛容な人物だからです。

 ウルストさんが優勝した2014年は、クリミア併合問題で揺れた年でもあります。2014年のロシア代表は双子姉妹でしたが、彼女らが歌った時も、聴衆から大きなブーイングが起こっています。

 ユーロビジョンの構図としては、政治とは関係ないといいつつも、実際のところ、

 ウクライナを擁護するヨーロッパVSロシア

 という構図ができつつあるわけです。

 今年の開催地はウクライナですが、これは、昨年16年にウクライナ代表のジャマラさんが優勝したから。ジャマラさんは、クリミア半島から先住民族であるタタール人が追放されたことに関する曲を歌いました。

 一番政治的に議論が起こる、クリミア半島の歴史を歌った人物が優勝しているわけです。ロシアが嫌悪感を表すのは当然ですし、ここでも上記のヨーロッパ対ロシアの構図を見ることができます。

◆期待されていたサモイロワさんではあったが……

 筆者はサモイロワさんがロシア側から選出された際、今年のユーロビジョンでは特にふさわしい人選かもしれないと思いました。

 今年の開催地がウクライナであるからです。
 ただでさえ政治色が強くなっているユーロビジョン、開催地がウクライナとなると、今年はロシアへの風当たりはさらに強いものになるでしょう。例年以上にロシア代表へのブーイングが想定されるわけです。

 しかし、障害を患いながらも必死に歌い、歌唱力を披露するサモイロワさんがロシア代表であれば、政治の域を超えて、音楽の域での感動を聴衆に与えることができるかもしれないと思いました。

 その意味で、ロシア、ウクライナ両国の緊張が和らぐ瞬間というものを期待していました。ただ、残念ながら、この可能性はほぼゼロになったといえます。

 一方、今回のサモイロワさんロシア代表選出は、ロシアの計画通りだった可能性、これも考えられます。サモイロワさんがユーロビジョンに出場できない理由は、クリミア半島への許可なき訪問。

 これを聞いた際、同時に浮かんだのが、もしかしたらロシアはこの事実を知っていて、あえてサモイロワさんを選んだのかもしれないという考え。

 昨年はクリミア半島絡みの曲を歌った歌手が優勝。今年はウクライナというアウェーの地での開催。

 もしかしたら、ロシアは初めから、ウクライナでのユーロビジョンに出場する気はゼロだったのかもしれません。すべてはロシアの想定内だった可能性、これは決して否定できないでしょう。

<文/岡本泰輔>

【岡本泰輔】
マルチリンガル国際評論家、Lingo Style S.R.L.代表取締役、個人投資家。米国南カリフォルニア大学(USC)経済/数学学部卒業。ドイツ語を短期間で習得後、ドイツ大手ソフトウェア会社であるDATEVに入社。副CEOのアシスタント業務などを通じ、毎日、トップ営業としての努力など、経営者としての働き方を学ぶ。その後、アーンスト&ヤングにてファイナンシャルデューデリジェンス、M&A、企業価値評価等の業務に従事。日系企業のドイツ企業買収に主に関わる。短期間でルーマニア語を習得し、独立。語学コーチング、ルーマニアビジネスコンサルティング、海外向けブランディング、財務、デジタルマーケティング、ITアドバイスなど多方面で活動中。