4月13日に突如発表された「フェルナンド・アロンソのインディアナポリス500参戦」という報に接して、あなたはどんな思いを抱いただろうか?


フェルナンド・アロンソはモナコGPを欠場してインディ500を走る 日本では、アロンソの妙技がインディの大舞台で見られるということにおおむね好意的な声が多かったようだ。アロンソの地元スペインでも、「彼が楽しんで挑戦できるのなら応援したい」と前向きな声が大多数だったという。

 しかし、F1バーレーンGPのパドックでは意見は真っぷたつに分かれた。純粋なレースファンとしてアロンソの挑戦を興味深いものとして応援する声もあったが、F1で勝利を目指して努力するチームメンバーの一員としては決して褒められたことではないという声もあった。

 好意的な声は、純粋にレーシングドライバーとしての挑戦を応援するというものだ。

「僕はドライバーが複数のカテゴリーに参戦できるべきだと思っているし、すばらしいことだと思う。過去にもそうだったわけだしね。とてもクールな挑戦だと思うよ」(ルイス・ハミルトン/メルセデスAMG)

「もちろん大きな驚きだよ。いいことだと思うし、僕は応援するよ。走ったことのないクルマとサーキットで、完全にルーキーだ。僕自身、F1に来るまではF1よりもインディのほうをよく見ていたくらいだったし、僕にとっても夢だったけど、F1に来てからは妻や父、子どもの存在が障壁になってインディ参戦はなくなったけどね」(フェリペ・マッサ/ウイリアムズ)

 一方、日程が重なっているモナコGPを欠場してまでインディ500に参戦するというのが、批判的な声の最大にして唯一の理由だ。

 2015年にル・マン24時間耐久レースにスポット参戦し、優勝を飾ったニコ・ヒュルケンベルグ(ルノー)はこう語る。

「もしF1を欠場しなければならないなら、僕は絶対にやらなかっただろう。僕はインディもオーバルもよく知らないけど、乗ってすぐに勝てるようなものじゃないはずだ」

 アメリカのチームであるハースの一員で、かねてからハースが参戦するNASCAR(アメリカ最大のストックカーレース)への出場に興味を持っているロマン・グロージャンも、あくまで本業はF1であり、その本業をおろそかにしてまで他のカテゴリー参戦はあり得ないと明言した。

「僕はやらない。100%F1に集中し、ハードにプッシュしているからね。僕はチームのために全力を捧げている。僕だってNASCARでレースをしてみたいとは思うけど、今はチームのために全力を尽くすべきだと思っている。もし100%コミットしていたら、そんなことはできないよ。他のレースをやりたいなら、F1を引退してからやればいい」

 筆者自身、この事実を知らされたときにまず感じたのは、「本業であるF1がこの体たらくであるにもかかわらず、アロンソ自身だけでなくマクラーレンもホンダもどうしてこのような暴挙を許したのだろうか?」という疑問だ。ましてや、パワー不足からくる戦闘力不足が明らかな今季のマクラーレン・ホンダにとって、モナコGPは最大のチャンスだったはずなのだ。

 アロンソがすっかり今季のレースにモチベーションを失ってしまっていることは先刻承知だったが、まさかこのような無責任な行動に出るとは予想できず、チームとしてもそれをとがめるどころか、チーム一体となってインディ500に参戦することになるとは思わなかった。

 しかし、今回の件に関しては、アロンソがモナコGPを欠場するという以外のF1への影響はないとチーム関係者は断言する。

「レース運営に関してはアンドレッティ・オートスポーツが行ない、マクラーレンのレースチームから人が行くこともない。エンジン側に関しても(アメリカホンダの子会社である)HPDが担当するもので、F1開発部隊には一切影響はない。今回のインディ500出場によって我々のリソースが削がれたりF1活動に支障が出ることは一切ない」

 話の発端となったのは開幕戦メルボルンでのちょっとした雑談からで、本格的に話が進んだのは中国GPの週末になってからのことだった。

「オーストラリアGPの週末に夕食をともにした際に、僕はドライバーとしての将来設計を語り、ザック(・ブラウン/エグゼクティブディレクター)はマクラーレンの活動を他のカテゴリーに拡大させたいといった希望を語り、ビジョンを共有し合ったんだ。最初はそんなカジュアルな会話から始まったことなんだ」

 アロンソはそう説明したが、メルボルンの時点ですでにこの件はホンダの耳にも入り、具体的な動きが始まっていたという。そして中国GPの土曜、アロンソは正式に参戦を決意し、翌日曜日には話がまとまってバーレーンGP直前の水曜発表という日程まで決まった。

 チーム関係者によれば、このプロジェクトは明暗含めてさまざまな要素が合致した結果、実現できたことだという。

「これは、このタイミングで我々にしかできないすばらしいプロジェクトであり、挑戦だったと言える。まずはフェルナンド自身がインディ500に参戦したいという思いを持っていたこと。そして、残念ながらチームが低迷しているからこそできたことでもあった。チームが優勝争いをする状況であれば、このような挑戦はまずあり得なかった。そして、ホンダがインディに参戦していなければ、やはりできなかったことで、これはある意味ではメルセデスAMGやフェラーリにもできないことだ。ロン・デニス、バーニー・エクレストンという存在がいても実現はしなかっただろう」

 アロンソはF1、ル・マン24時間、インディ500という「世界三大レース制覇」の夢を叶えたいという思いをずっと抱いていた。そしてF1で上位争いができない現状に加え、インディ500参戦はホンダとの関係が強い今がベストチャンスかもしれないと考えたのだ。

「世界最高のレースであり、世界最速のレースだから出場を決めたんだ。まだ準備はできていないし、気持ちよく走れるかどうかもわからない。でも、トライすることを恐れてはいないし、いい結果が出せないのではないかと恐れてもいない。だけど、いつかトリプルクラウン(三大レース制覇)を成し遂げようと思ったら、間違いなく今、ここで踏み出すべきステップだったんだ」(アロンソ)

 前出のチーム関係者は、もし仮にホンダがWEC(世界耐久選手権)に参戦していたとしたら、アロンソが今年ル・マン24時間に挑戦することになっていたとしても何の不思議もないと明言する。つまり、どうしても今年インディ500に参戦したいという思いで話をつけたというよりも、ホンダがいて参戦が可能なのであれば出場しようという流れで話がまとまったというわけだ。

 端的に言ってしまえば、現状に対して不満を募らせるアロンソの「ガス抜き」という意味合いも多分に含んでいるということを、チーム関係者も否定しない。新人ストフェル・バンドーンが同じことを言えば言下に拒否されていただろうが、開幕2戦のアロンソの走りには頭が上がらない状況でもあり、このようなプロジェクトの実現に至ったというわけだ。

 モナコGPの代役については、14日水曜になってジェンソン・バトンの起用が正式発表となったが、実はバトンの出場はすでに早い段階で決まっており、メディア露出を考慮してアロンソの発表と時間差をおいて発表したというのが事実だ。

 インディ500に向けたアロンソのスケジュールも、かなり多忙なものとなる。5月20日〜21日の予選、5月28日の決勝に向けてスペインGP直後の5月15日からフリー走行が始まるが、準備不足は否めない。

「来週はアラバマ(インディカーシリーズ第3戦)のレースを観に行ってチームの人たちにも会う。レース翌日にはシート合わせもすることになるだろう。そして翌週末はロシアGPに出場して、その後でインディアナポリスへ行って何日かシミュレーターに乗ったり、できれば実車のテストもしたいと思っている。その翌週にスペインGPに出場して、レース後すぐにアメリカに飛んで帰る。月曜の昼にはフリー走行が始まってしまうからね。本当にとても忙しい日々になりそうだよ」

 逆に、もしもっと時間をかけてこのプロジェクトを検討していたとしたら、アロンソはもっと本格的な準備を積んでインディ500に挑んでいた可能性もあっただろうとチーム関係者は語る。

「もしもっと早くから検討していたら、F1を2〜3戦欠場して事前にオーバル戦も経験してみて、インディ500に向けて1ヵ月以上かけてしっかりと準備をするということもあったかもしれない」

 アロンソのインディ500挑戦は、いったいどのようなものとなるのか。F1とインディの両王者であり、1995年にはインディ500も制しているジャック・ビルヌーブは、アロンソの挑戦を高く評価する。

「本当にすばらしいことだし、これは今週僕が耳にしたなかでもっともすばらしいニュースだよ! アロンソにとっていいことだと僕は思う。なぜなら、インディ500は世界で最大のレースなんだからね。F1でただ戦うのとは違う、世界最大のレースに挑戦するという意味を持っている。

 モナコGPを欠場しても、その価値はあると思うよ。モータースポーツに対する情熱が今なお衰えていないんだということを証明する、すばらしいストーリーだからね。あれだけサラリーを稼いでいても、大きなリスクを背負ってこれだけ大きな挑戦をするんだ。これはレースにかける相当な情熱がなければできないことだよ。まさしく本物のレーサーだと思う」

「モナコGPを欠場する」というネガティブな要素も、マクラーレン・ホンダの現状を考えれば気にするようなことではないと、ビルヌーブは一刀両断する。

「マクラーレン・ホンダというプロジェクトがうまくいっていない以上、構わないことだと僕は思う。あの状態で100%、フルにコミットメントしろなんていうことが、そもそも無茶だよ。もちろん、モナコGPで優勝争いができる可能性があるなら、わざわざ欠場するなんていうのは馬鹿げている。でも、今の彼らはそうじゃない。だったら、迷う必要なんてないさ」

 アロンソはインディ500で活躍することができるのか。インディは残り10周までは”究極の予選”に過ぎず、最後の最後に燃料残量やレース展開がどうなるかで勝負が決まるとされる。昨年の勝者アレクサンダー・ロッシも、ギャンブル的な燃費戦略で勝利をもぎ取った。

 勝つためには速さだけでなく、知性も必要。だからこそアロンソにも十分にチャンスはあると、ビルヌーブは明言する。

「インディ500は本当に厳しいレースだ。しかし、フェルナンドはアメ-ジングなドライバーだし、知性も兼ね備えている。あのレースを戦い、好結果を残すためには、知性がもっとも重要なんだ。間違いなく彼はすばらしいレースを見せてくれると、僕は確信しているよ」

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