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●始まりは2014年
パソコンだけでなく、スマートフォンの分野でもSIMフリー市場で上位を争うなど、日本で高い存在感を示している台湾のASUS(エイスース)。スマートフォンメーカーとして見れば後発であり、世界的にもまだ規模が大きいわけではない。にもかかわらず日本で成功している理由はどこにあるのだろうか。

○SIMフリー市場でトップシェアを争うエイスース

台湾のエイスースといえば、パソコンのマザーボードで高いシェアを獲得するなど、パソコン関連のパーツや、パソコン自体を手掛けるメーカーだ。日本でも安価なタブレットからハイエンドのノートパソコン、さらにはゲーミングPCなど、幅広いスタイルのパソコンを提供し、一定のポジションを獲得していることで知られている。

だがここ数年で、日本における同社の評価は大きく変化しており、従来より一層より大きく注目される企業となっているようだ。その理由はスマートフォン市場への進出にある。 エイスースは2014年にスマートフォン「ZenFone 5」を発売し、日本のSIMフリー市場に本格的に参入を果たしたのだが、それ以降、SIMフリー市場で急速に高い人気を獲得。その後も「ZenFone 2」シリーズや「ZenFone 3」シリーズなどを次々と日本市場に投入し、高い人気を獲得しているのだ。

実際エイスースは、中国のファーウェイや、「FREETEL」ブランドのベンチャー企業、プラスワン・マーケティングなどと並んで、SIMフリー市場でトップを争うポジションを獲得。現在ではパソコンメーカーとしてよりむしろ、スマートフォンメーカーとして知られる存在となりつつあるようだ。

だが世界第3位のスマートフォンメーカーであるファーウェイ、自身で通信事業を手掛けることで端末の販路を拡大しているプラスワン・マーケティングと比べると、エイスースの特徴や強みは弱いようにも感じる。にもかかわらず、なぜエイスースは日本で高い人気を獲得できているのだろうか。

●日本全国で安心して使えるスマホを提供
○「ZenFone 5」での日本向けローカライズで人気を獲得

その理由は、日本のスマートフォン市場へ本格参入するに当たり、最初に投入した「ZenFone 5」にあるといっても過言ではない。ZenFone 5自体は台湾をはじめ世界的に展開していたモデルだが、それを日本市場に投入するにあたって、エイスースは独自のカスタマイズをいくつか加え、高い評価を得たのである。

その1つは周波数帯だ。SIMフリースマートフォンはMVNOのSIMを挿入して利用されることが多く、MVNOの多くはNTTドコモの回線を借りている。そしてZenFone 5は、NTTドコモが使用している周波数帯の1つである800MHz帯(バンド6/バンド19)に対応していたのだ。

NTTドコモはこの帯域を、主に地方や山間部を広くカバーするのに用いている。だがこの帯域は日本以外ではあまり使われていないことから、海外製のスマートフォンの大半は、当時この帯域に対応していなかった。

実際、SIMフリー市場に先に参入していたファーウェイなど多くのメーカーは、2015年半ばまではバンド6/バンド19に非対応の端末しか投入しておらず、地方に持っていくと快適に利用できなくなってしまうという理由から、評判を落としていたのだ。

だがZenFone 5は、最初からバンド6/バンド19への対応を打ち出したことで、SIMフリースマートフォンの中でも「日本全国で安心して使える」という安心感をもたらし、ユーザーだけでなくそれを販売するMVNOなどからも高い評価を得ることができた。周波数帯で日本を重視する姿勢を見せたことが、ZenFone 5、ひいてはその後のエイスース製端末の評価に大きく影響したわけだ。

さらにもう1つ、日本で利用する上で必須の日本語入力に関しても、ZenFone 5は日本で高い実績を持つジャストシステムの「ATOK」を採用したのである。端末自体はグローバルモデルそのままながら、それまでSIMフリー市場では軽視されていた、日本向けのローカライズ対応を徹底したたことが、スマートフォンメーカーとしてASUSの人気を高める大きな要因となったことは確かだろう。

●日本にマッチしたグローバル戦略
○グローバルの戦略が日本市場にもマッチ

だがエイスースが人気を獲得した理由はもう1つあると考えられる。エイスース全体のスマートフォン戦略が、日本市場の動向と丁度マッチしていたことも、日本で成功を収めた大きな要因だといえる。

エイスースはスマートフォン市場参入当初、性能はあまり高くないながらも端末の質感は高く、リーズナブルな端末の提供に力を入れてきた。ZenFone 5も性能は当時のミドルクラス相当であり、ボディも金属ではなく樹脂製であるなど低コスト化に苦心する要素が多く見られたが、一方で日常的な利用には十分な性能を備えており、質感を高める加工を施すなどして、価格以上の価値を打ち出す工夫が多くなされていたのだ。

そしてZenFone 5が登場した2014年頃、日本ではSIMフリースマートフォンが「格安」に利用できるMVNOの通信サービスとセットで利用するものとして注目されたこともあり、価格の安さが強く求められていた。そうした市場環境の中、ZenFone 5は比較的低価格ながら高い完成度を誇っていたことから、高い評価を獲得できたといえる。

だがここ最近、通信サービスとSIMフリースマートフォンをセットで販売し、大手キャリアのように2年間の分割払いで購入できる仕組みを導入するMVNOが増え、高額なスマートフォンを購入しやすくなってきた。そのため多少高額であっても、高性能・高機能な端末を選ぶユーザーが増えてきており、ファーウェイの「P9」のように比較的高額なSIMフリースマートフォンがヒットするケースも出てきている。

一方でエイスースもスマートフォン事業の好調を受ける形で、従来のミドル・ローエンドに注力する戦略から、昨年にはラインアップを広げ、ハイエンドモデルも提供するなど新しい戦略を取るようになってきた。実際、昨年9月に日本で発表された「ZenFone 3」シリーズは、自ら「性能怪獣」と呼ぶほど高い性能を誇るハイエンドモデル「ZenFone 3 Deluxe」をラインアップに揃えている。

そうした日本市場の変化と、エイスースの戦略変化がマッチして起きたのが、日本でZenFone 3 Deluxeが一時受注を停止するほどの人気となったことだ。ZenFone 3 Deluxeは最も高いモデルでは8万円以上と、SIMフリースマートフォンではiPhoneに匹敵する高額な値付けがなされていたのだが、それでも高い性能を求めるユーザーの強い関心を集めて人気を獲得。市場におけるエイスースの存在感を一層高める契機となっているのだ。

日本市場に向けた積極的なローカライズと、日本市場にマッチしたグローバル戦略。この2つが日本におけるASUSの人気要因となっているといえそうだ。それだけに、ASUSがSIMフリー市場でトップシェアを確固なものにし、なおかつ一層利用者を増やすためには、グローバルの戦略と歩調を合わせながらも、いかに日本市場の動向に合わせ続けられるかが求められる。

(佐野正弘)