『相楽樹 二人きり、夏休み補習授業』(デジタルブックファクトリー )

写真拡大

 NHKの連続テレビ小説に出演することが新人女優の登竜門になって久しい。中でもいま熱いのは、ヒロインの友人、姉妹、娘などの脇役を演じた女優たちの活躍だ。

『あまちゃん』の松岡茉優や『あさが来た』の吉岡里帆など、朝ドラに出演したことで人気に火が付いた女優もいれば、『おひさま』と『花子とアン』への出演を経て『まれ』で主演を果たした土屋太鳳や、『あまちゃん』を経て現在放送中の『ひよっこ』で主演を獲得した有村架純のようなケースもある。

 朝ドラのネームバリューは他局でも大きく、「朝ドラに出演したあの人が!」という紹介をする番組も珍しくない。その極め付きが、3月に3週にわたってテレビ東京系で月曜深夜に放送された『こんにちは、女優の相楽樹です。』だった。

 本作は、俳優が本人役を演じるというテレ東が得意とするノンフィクション風のドラマだ。主演を務めたのは、朝ドラ『とと姉ちゃん』で次女の鞠子を演じた相楽樹。

 朝ドラに出演したことで国民的人気女優になったと勘違いして調子に乗っている相楽は、純喫茶が舞台の深夜ドラマのウエイトレス役で初主演を果たす。

 しかし、監督(浜野謙太)は、相楽の演技に何かが足りないと毎回激怒。

 怒られた相楽は、役作りのために純喫茶へ行くのだが、そこで3人組のウエイトレスからダメ出しされることになる。面白かったのは、3人のキャラクターが作品のテーマと直結していること。

 第1話は「可愛い」がテーマで、アイドルの佐々木彩夏(ももいろクローバーZ)、藤江れいな(NMB48)、生田衣梨奈(モーニング娘。'17)がウエイトレスとして登場。

 第2話は「色気」がテーマで、壇蜜、MEGUMI、おのののかというグラビアタレント3人が登場。相楽は『嫌われる勇気』(フジテレビ系)にセクシーな女性医師役で出演した際に壇蜜に似ているといわれていたが、いざ2人が並ぶと「壇蜜から色気を抜くと、相楽樹になる」ということがよくわかる。

 そして最終話では、朝ドラの『あまちゃん』に出演した足立梨花と『とと姉ちゃん』で相楽と共演した川栄李奈、趣里が登場。女優を目指す女たちの激しい自意識がスパークする。
 
 つまり「可愛い、色気、朝ドラ女優」のキャラクター3本勝負に、相楽が挑むのだ。

 脚本は根本宗子。戯曲『夏果て幸せの果て』が2016年の岸田國士戯曲賞の最終選考に残った、いま最も勢いのある若手劇作家だ。

 連続ドラマの脚本は、映像サイトGYAO!で放送され、後に映画としても公開された1話13分のWEBドラマ『女子の事件は大抵、トイレで起こるのだ。』を手がけている。女子トイレを舞台に女子中学生たちの自意識を容赦なく描写して笑いと感動をもたらす脚本が、実に見事だった。

『こんにちは、女優の相楽樹です。』でも、根本の鋭い視線が相楽に対し、容赦なく降り注ぐ。

 朝ドラに出演したことを女優としての拠りどころとする相楽が「知らない」「印象が薄い」と言われる場面はまだ笑って見ていられるのだが、「Twitterに上げる写真がつまらない」とか、「グラビアやイメージDVDが地味で、色気がない」というのは思わず「それは言っちゃダメ!」と言いたくなるようなギリギリのラインだ。と同時に、的確すぎて「そうそう!」と、思わずうなずいてしまう。

 だが、そこまでキツいダメ出しをしていながら、見終わった後に嫌な感じがせず、むしろさわやかな気持ちになるのが本作の面白さである。

 根本の女子をいじる目線には嫌な感じがしない。それは、芸能の世界で生きる女の子たちの気持ちに、ちゃんと寄り添っているからだろう。

 00年代に宮藤官九郎が『木更津キャッツアイ』(TBS系)等のドラマでジャニーズアイドルをいじり倒して笑いのネタにすることで、男子校的な連帯感を男子に与えたように、女優やアイドルをいじり倒すことで女子校的な連帯感を女子に与えられるのが根本の才能ではないかと思う。

 では、そんな根本のいじわる目線は、相楽の何を引き出したのか?

『とと姉ちゃん』で相楽が演じた鞠子は、家族を守る長女の常子(高畑充希)と要領の良い三女の美子(杉咲花)に挟まれて、いまいちパッとしない残念さがあった。この三姉妹の関係性自体が、女優としてのキャリアを順調に積み上げ、すでに演技力は折り紙つきだった高畑と、子役時代から実力派女優として高い評価を受けてきた杉咲に挟まれて、どこか自信なさげに見える相楽の立場を、そのまま反映していた。

 だが、いつも自信なさげで、怒られて「ひ〜」と気持ちがヘコんだ後でガックリきて、「とほほ」という表情をしている時の相楽の困り顔には、高畑と杉咲の自信に満ちた演技とは違う、ふつうの人の親しみやすさがあった。

 可愛くない、色気がない、街を歩いていても気づかれないと言われてしまう印象の薄さは、キャラの濃さを競わされるアイドルやタレントとしては致命的な弱点に見える。だが、女優として、むしろその薄味加減こそが彼女の武器なのだと、本作は教えてくれる。
(文=成馬零一)

●なりま・れいいち
1976年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。