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ビジネスシーンに多大な影響を与え、一部では蒸気機関や自動車などに続く第4次産業革命に匹敵するとも言われる「AI(人工知能)」。世界経済フォーラム主宰のダボス会議でも、AIやロボティックスを軸に次世代の産業を推し進める要素となり得るか議論となった(2017年1月開催時)。他方で、AIが人間の能力を超えるポイントを指すRay Kurzweil氏の「シンギュラリティ(技術的特異点)」によって、多くの失業者が世間に溢れるという意見もある。

その是非はともかく、AIに対してMicrosoftは2016年9月に、誰しもがAIの恩恵を受けられる「Democratizing AI(AIの民主化)」を自社のアプローチとして掲げた。この方針を受けて日本マイクロソフトも「みんなのAI」というキーワードを標榜している。日本マイクロソフトの説明によれば、「AIの民主化と社会の重要課題を解決するため、作り出すすべてのものにAI技術を導入していく」と言う。

Microsoftに限らず大手IT企業が以前からAIに注目し、多くの資金と投入して研究・開発を行ってきたことは枚挙に暇がない。Microsoftを例に挙げれば、独立した研究機関であるMicrosoft Researchを1991年に設立し、早い時期からAIに対する研究を行っている。また、昨今ではMicrosoft Researchの一部とAI関連部門を統合した組織「The Artificial Intelligence&Research」を社内に設立し、AIに対する本気度を示した。

各社を取材する中で、近年とみに感じるのがAI技術のソリューション化である。日本マイクロソフトは、画像に含まれる顔の検出や分析などを行うFace API、感情認識のEmotion API、リアルタイムの音声翻訳を実現するTranslator Speech APIなどを組み合わせた「Microsoft Cognitive Services」を提供中だが、2017年3月上旬には博報堂および博報堂アイ・スタジオがCognitive Servicesを利用したターゲティング広告配信システム「Face Targeting AD」を発表。同月下旬にはフジテレビの動画投稿サイト「DREAM FACTORY」をアナウンスしている。

まずFace Targeting ADは、画像から意思決定に役立つ情報を抽出するComputer Vision APIと前述のFace APIを利用し、鏡に映った人々の表情から適切な商品の広告を映し出すソリューションだ。例えば、疲れている場合に栄養ドリンクの広告を、悲壮な表情ならば思い切り泣ける映画の動画広告を表示する。将来的な音声認識や音声による読み上げを行う各Speech APIや、言語理解モデルを作成してユーザーが音声などで入力したコマンドをアプリケーションが理解するLanguage Understanding Intelligent Service API(現在はプレビュー)を用いた展開も予定していると言う。

フジテレビが運用するDREAM FACTORYは、一般的な動画投稿サイトながらも基盤はMicrosoft Azureを採用し、動画配信クラウドサービスであるAzure Media Servicesで各種サービスを運用する。さらに、機械学習を利用して動画コンテンツからテキスト変換や顔認識など行うAzure Media Analyticsで、公序良俗に反する動画の検出や、日本語字幕の自動生成。英語などの4カ国語に自動翻訳し、既存コンテンツの海外展開と視聴者拡大を目指す。執筆時点でDREAM FACTORYへの実装は予定にとどまるものの、Azure Media Analyticsを使えば、特定の人物をタグ化することで登場シーンの検出や顔にモザイクをかけるといった、手作業で行ってきた作業を自動的に行える。

このように、次々とコンピューターが人に成り代わって作業を進めていく様を目にすると、Kurzweil氏のシンギュラリティもあながち間違いではないように思えてくる。だが、我々は缶詰工場や流通業などさまざまな業態で、機械化によって手作業が自動化する世界を過去に経験してきた。専門家も「我々が生きている間は心配する必要はない。道のりは長く、人々を超えるのはかなり先の話だ」(Microsoft Research CVP Jeannette M. Wing氏)と担保する。AIによって日常や仕事のスタイルが変化していくのも当然の話だ。海外の例を見ると欧州はAIによる変革を楽観的に見ているものの、米国では一部が危険視しているとMicrosoft本社の人間が述べていたが、Kurzweil氏が米国人であるということも合わせて合点が行く。

ならばAIは我々の仕事を奪う危険な存在なのだろうか。ここで冒頭述べた「みんなのAI」を思い返してほしい。MicrosoftはAIを人に取って代わるものではなく、「AIは人々の能力や体験を拡張する存在。コンピューターの演算機能と人々の判断力や共感力などを高める」(Microsoft CEO Satya Nadella氏)道具と位置付けている。人々を単純作業から解放し、より生産性の高い作業に従事することで、社会の変革や問題解決につながると言う。遙か遠い昔、我々人類は「火」を発見し、火災などに悩まされつつも道具として使いこなしている。AIも同じように「道具」として扱えば良いのだろう。

だが、AIを道具として活用するにはいくつかの課題がある。それはFairness(公平性)、Accountability(説明責任)、Transparency(透明性)、Ethics(倫理)の頭文字を取った「FATE」だ。AIはあくまでも人が作り出す道具である。そのため、携わる人々が偏見を持ったデータを機械学習のデータとして与えると間違った解が出てしまう。Microsoftが1例として示したのが、大手検索サイトによる画像検索結果だ。同社は「『3人の黒人10代』を検索すると警察が撮影した写真が並び、『3人の白人10代』を検索するとボールを持った楽しそうな写真が並ぶため、不公正なのではと言う疑問が生じる。だが、これはあくまでも機械学習の結果。(トレーニングデータを与える人々に)根深い差別意識が存在するためだ」(Microsoft VP Regulatory Affairs Daved A. Heiner氏)だと分析する。

このように、AIは万能ではなくトレーニングする側の公平性を担保しなければならない。また、説明責任に対してはマルウェアの攻撃に対する防御でデータを保護し、透明性は収集データを利用者にオプトイン・オプトアウトなど選択する仕組みを明示化する。倫理については、社内で委員会を設置し、Microsoft ResearchのDr. Eric Horvitz氏を中心にエンジニア向けガイダンスの作成を目指している。また、社外的にはGoogleやAppleなど大手IT企業が参画する「Partnership on AI to Benefit People and Society(人間と社会の利益のためのAIに関する協業)」を通して社会全体の課題として取り組んでいる最中だ。

一連の取材を通して分かることは、AIは人の能力を拡張する道具となり得るが、人々が持つ価値観や倫理観の相違などがAIに悪影響を与える可能性が高いということである。そのためHeiner氏は多様性の欠如を改善し、社会問題を見抜けるデータサイエンティストの存在と、グローバルなガイドラインで偏見をなくしている世界が必要だと強調した。刻々と生活やビジネスシーンに広まっていくAIを利活用する我々も正しい目を持たなければならない。

(阿久津良和)