フィリピン・マニラにある反汚職団体の事務所近くで、「貧しい人を殺すな」などと書いたプラカードを手に、警官による殺害に抗議する人たち(2017年3月14日撮影)。(c)AFP=時事/AFPBB News

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【AFP=時事】サリー・アントニオさん(仮名、43)は夫と息子を警察に殺されて以来、3つの仕事の掛け持ちを余儀なくされ、疲れ果てている。政府による麻薬撲滅戦争が続くフィリピンでは、彼女のように出口のない貧困と苦悩にあえぐ「戦争未亡人」が次々と生み出されている。

 ロドリゴ・ドゥテルテ(Rodrigo Duterte)大統領が進める未曽有の麻薬取り締まりによって、これまでに7000人もの人が犠牲になった。しかし、人権団体から「貧困層に対する戦争」と批判されるこの取り組みが、残された家族にどんな影響を及ぼしているかはほとんど語られてこなかった。

 それは半年ほど前のことだった。突然、麻薬捜査だと言って警察がアントニオさんの家に踏み込んできた。そして、ウエーターとして家計を支えていた19歳の息子と無職の夫を撃ち殺したのだ。

「殺されたのは夫と息子だけではありません。私自身も殺されたようなものです」。アントニオさんはAFPにそう語った。

 その日以降、彼女は残された5人の子どもと孫を育てていくため、仕事を増やさなければならなくなった。クリーニング、近所の人の雑務代行、地域の警備係といった仕事を掛け持ちしているために、1日2時間しか眠れない日もあるという。

「疲れ切って、手の痛みもひどいものだから、仕事を1日、2日休まないといけないときもあるんです」。アントニオさんは涙ながらに話す。「近所の人にお金を借りて回らないといけないし、食費は最低限のものです」

 心理学を学んでいた18歳の娘は、アントニオさんの夫の代わりに年下のきょうだいたちの保護者役を務めるため、大学中退を余儀なくされたという。

 今、アントニオさんが最も心配していることの一つは、心臓病を患っている11歳の息子の薬代だ。

「憤りしかありません。夫と息子はどうして殺されなければならなかったのか。私たちのような家族がなぜ犠牲にならなければならなかったの?」

■警察は「正当防衛」と主張

 アントニオさんによれば、夫は確かに麻薬を使用していたが、政府の監視プログラムの下で当局に申告済みで、密売もしていなかったという。また息子については、麻薬に手を出したことは一度もなく、撃たれたのは父親を殺さないでくれと警官に訴えたからだと彼女は話している。

 この一件に関する警察の報告書には、警官たちは先に銃撃を受けたため反撃せざるを得なかったと記されている。これに対してアントニオさんは、警官らが押し入ってきたとき夫も息子も抵抗しなかったと主張している。

 彼女は警察に復讐(ふくしゅう)される恐れがあるとして仮名を望んでいる。

 麻薬撲滅戦争が始まってから8か月間で、警察は正当防衛によって500人以上を殺害したと報告している。

 しかし人権擁護団体は、警察が麻薬常用者や密売人を殺害した後に、組織的に正当防衛をでっち上げていると非難。国際人権団体アムネスティ・インターナショナル(Amnesty International)は、警察が人道に対する罪を犯している可能性があるとも警告している。

 アムネスティは2月に公表した報告書で、麻薬撲滅戦争での殺害は都市部の貧困地区に集中しており、犠牲者は男性の稼ぎ手が目立つと指摘。当局が標的にしているのは「もっぱら貧困層」だとし、貧困世帯をさらに追い込んでいると批判している。

 麻薬撲滅戦争の犠牲者の大半は貧しい人だという批判に対してドゥテルテ大統領は先月、下っ端の麻薬の売人も「しこたま稼いで」いて、麻薬ネットワークで重要な役割を担っていると反論した。

「麻薬流通の大物の元締めだろうが、最も貧しい人だろうが私には関係ない。どちらも人を駄目にしようとしているところは同じだ」

■遺族を支える教会

 こうした中、遺族の経済的・精神的な支えとなり始めているのがカトリック教会だ。

 首都マニラ(Manila)の教会で支援プログラムを率いるデニス・フェブル(Dennis Febre)氏は、麻薬の容疑者を殺害しても問題は減るどころか逆に増えていると指摘する。「残された人々の中には、生き延びるために自分も麻薬密売に手を染めたり、売春を始めたりする人もいる」

【翻訳編集】AFPBB News