映画祭ディレクターを務める熊本出身の行定勲監督

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 昨年4月14日から継続して発生し、甚大な被害を及ぼした熊本地震から1年。「くまもと復興映画祭 Powered by 菊池映画祭」と題した映画祭が今年の4月7日から9日にかけて、熊本県の益城町、菊池市、熊本市の広範囲にわたって実施された。佐藤健、妻夫木聡、高良健吾、永山絢斗ら豪華ゲストが出席するとあり、チケットは即日完売。熊本城二の丸広場で行われたオープニングセレモニーには1万人を超える観客が集結した。そんな大盛況だった映画祭を振り返り、同映画祭ディレクターを務める熊本出身の行定勲監督(『世界の中心で、愛をさけぶ』『ピンクとグレー』など)が現在の心境を語った。

 「こんな言い方は不謹慎かもしれないんですが、映画でもそうじゃないですか。ある種、逆境に立たされた登場人物たちは、最後はその逆境をバネにして何かを生み出すんです」と切り出した行定監督。「熊本の人もそれに近いものを感じていると思うんですよ。全国の人が熊本の人に『大丈夫?』と声をかけてくれたとき、以前ならそれをちゃんと受け止めて『ありがとう』と言うだけで精いっぱいでしたけど、今はそれをちゃんと打ち返すことができる。それが1年の成果ですね」としみじみ。

 映画祭期間中に熊本出身の俳優・高良健吾は「熊本人はつらいときもユーモアを忘れないんです」とその県民性を語っていたが、その言葉をかみしめた行定監督も「それは熊本人の心意気だと思います。熊本人はカッコつけが多いですから」と笑ってみせた。

 さらに「佐藤くんや妻夫木くんたちは熊本のことを心配しているし、エールを送りたいという気持ちがあるから、ゲストで来てくれた」と続けた行定監督は、「そしてその情報を知った人たちが、いろいろな県から彼らに会いに来て、彼らと同じような気持ちで熊本に貢献しようと熊本に旅行に来てくれた」とコメント。「こんな逆境の中でも、映画祭って楽しいんだなということを知ってもらって。そして日常に戻ったときに、それを忘れるのではなくて、持続してもらえたらいいなと思っているんです」とその思いを付け加えた。

 「だからこそ僕らも今年が正念場だと思っていた」と明かした行定監督は、「ここでたくさんの観客を勝ち得ると、来年以降もお客さんがこれを楽しみにしてくれるようになる。それこそが映画祭の生命線だと思うし、そのきっかけはつかめたかなと思う」と手応えを感じつつも、「ただハードルは上がっちゃったかな。でも来年の映画祭のアイデアはもう考え始めています。昨日、菊池の温泉に浸かっているときに、パッと浮かびました」と笑った。

 昨年の菊池映画祭(本映画祭の前身)のオープニング作品として制作された行定監督の『うつくしいひと』は、震災直前に映し出された熊本城や通潤橋など、被災前の熊本各地の景色が映し出されており、熊本復興のシンボルとして全国各地でチャリティー上映が行われてきた。そしてその続編となる『うつくしいひと サバ?』は、今回の映画祭のオープニング作品となった。

 同作では、地震の被害が大きかった益城町での撮影を敢行。震災によってがれきの山となっているさまが映し出されているが、「益城町に入って、映画を作るのは必然的だったから躊躇もなかった。いろいろな人に迷惑をかけたと思うけど、今回の映画祭での上映で益城町の人たちが観てくれて、涙をぬぐってうれしいと言ってもらえたことは救いになった」と行定監督。

 熊本の映画祭と共に歩んできた『うつくしいひと』シリーズだが、今後の構想も行定監督の中にあるという。「数年後、熊本が復興していく中で起きる何気ない物語が一本。そして最後は、熊本城が復旧するといわれる20年後に一本作りたい。これが何部作になるかわからないですが、自分の人生に寄り添った形で生まれていくシリーズを作らせてもらえるなら、それは映画監督冥利(みょうり)に尽きる」と晴れやかな顔で語った。(取材・文:壬生智裕)