Inc.:神経科学や脳スキャン技術、さらにはいわゆるビッグデータを活用した「データ駆動型」研究の進展などにより、説得についての科学的知見はここ10年でかつてないほど深まりました。人を説得する上で効果のある手法は何であり、それがなぜ効果があるのかが理解され、その有効性を科学的に証明できるようになったのです。

ビジネス目的のプレゼンテーションでも「ストーリーを語ること」が効果的であることについて科学的証拠が増えていますが、データ分析企業Quantified Communications(以下、QC社)の調査研究もそうした証拠を追加しています。QC社はフォーチュン500企業の幹部や、TEDトークの講演者、政治指導者、経営学の教授、起業家などが発信した文書および口頭によるコミュニケーションに関する、大規模データベースを保有しています。

同社はさらに、さまざまな基準でこれらのコンテンツを分析するアルゴリズムを構築し、コミュニケーションの有効性を測定しました。その研究結果が先日発表されましたが、そこでは説得に関する非常に興味深いデータが明らかになっています。たとえば、普通の聴衆が集中して話を聞いていられる時間は平均5分とか、第一印象を良くするには最初の15秒間が肝心、といったことです。

コミュニケーション・アドバイザーを務める原文筆者は、いわばストーリーを語ることが仕事なので、あるデータに目がとまりました。QC社の研究者が、ランダムに選ばれた700件の音声および映像サンプルを調べたところ、よく練られたストーリーを含むメッセージは、QC社のデータベースに収められている平均的なコミュニケーションに比べて、説得力が35%アップし、さらに記憶に残る割合も21%上昇することが判明した、というのです。

この研究によると、ストーリー展開に関して高いスコアを獲得したプレゼンテーションは、聴衆の考えや行動を変える可能性が高まるとのことです。「ストーリー仕立てで語りかけると、聴衆が講演者の話に共感を覚えやすくなり、主要なポイントが頭に入りやすくなります」と、QC社のマーケティング・マネージャーを務めるSarah Weber氏は説明します。

さらに、一番説得力が高いストーリーは、昔から言われる起承転結の展開に従うものだと、この研究では指摘しています。すなわち、導入部で前提条件を提示して話を展開し、対立する要素を取り入れて話を引き締め、最後にその解決策を示すことで新たな着地点を見いだす、という展開です。

人間の脳は、ストーリーを受け入れやすいようにできている


テキサス州オースティンにあるQC社の本社から2800キロほど北東に向かった地でも、別の研究者が、プレゼンにおけるストーリーの効用について新たな証拠を見つけています。こちらはプリンストン大学の研究者、Uri Hasson氏で、私たち人間の脳が、ストーリーを受け入れやすいように文字通り「配線」されていると、原文筆者に説明してくれました。

Hasson氏が率いる研究チームはまず、ストーリーを伝えている最中の話者の脳をスキャンし、その活動状況を調べました。fMRI装置を使って、脳のさまざまな部位について血流量を測定したのです。次に、ストーリーを聞いている側の人たちについても、脳の活動を調査しました。その結果、話し手と聞き手、双方の脳が「呼応し、時には対をなす反応パターンを示す」ことが判明しました。簡単に言うと、聞き手の脳が、話し手の脳と同じような状態になったということですが、こうした反応が起きるのは、話し手がストーリーを語っている時だけでした。話し手と聞き手の脳がシンクロする時、ストーリーが両者を結びつける「のり」の役割を示すということです。


評価の高いTEDトークが採用している「説得の方程式」とは?


原文筆者も独自に調べてみたところ、人気のTEDトークのうち、実に65%がストーリー仕立てであることがわかりました。個々で語られているのは個人的な体験談やケーススタディ、あるいはブランドのサクセスストーリーといったものです。ケン・ロビンソン氏やシェリル・サンドバーグ氏、エイミー・カディ氏が行った有名なTEDトークはすべて、それぞれの講演者の個人的な体験に関するストーリーがその大部分を占め、プレゼンテーションで伝えたいテーマを強く印象づけるのに役立っています。

とりわけ、人権派の弁護士Bryan Stevenson氏のTEDトークでは、20分ほどのトークの中で、個人的なエピソードが3つ語られています。聴衆からの自主的な寄付でStevenson氏の非営利団体「Equal Justice Initiative」に100万ドルが集まったことからも、このトークがどれだけ説得力があったかはわかるでしょう。

ストーリーには力があります。ストーリーを好む性質は、私たち人間のDNAに刻まれているのです。数千年にもおよぶ経験の積み重ねがあるのですから、説得力があるのは当然ですが、さらに最近、この経験則に、科学の裏付けが加わりつつあります。起業家であれ、ビジネスの世界で活躍する専門職であれ、ストーリーによるコミュニケーションを避けている人は、科学的に証明されている効果を十分に活用できてない、もったいない状況にあるのかもしれません。


Hard Data Shows This Soft Skill Will Make You 35 Percent More Persuasive|Inc.

Carmine Gallo(訳:長谷 睦/ガリレオ)