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 前回の興行コラムで「春の4強」とした『SING/シング』『モアナと伝説の海』『映画ドラえもん のび太の南極カチコチ大冒険』『キングコング:髑髏島の巨神』だが、先週末の動員ランキングではその4作品の真ん中の3位に初登場の『ゴースト・イン・ザ・シェル』が割って入ったかたちだ。日本発のコンテンツであるということ、そして主演のスカーレット・ヨハンソンや共演のビートたけしら大物を稼働させてのワールド・プレミアを日本で盛大に行ったことからも、日本での興行にかなり期待が寄せられていた『ゴースト・イン・ザ・シェル』だが、この結果をどう見るか? 今回はアメリカの映画メディアにおける本作をめぐる論調も紹介しながら分析していきたい。

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 まず、土日2日間で動員17万1000人、興収2億7300万円、初日の金曜日からの3日間で7日からの3日間で動員23万3329人、興収3億6716万4600円という数字は、全国611スクリーンという大きな公開規模を考慮すると決して「大成功」とは言えないもの。日本公開の1週前、3月31日に公開されたアメリカで公開週の興行ランキングでも日本と同じ初登場3位だったが、ランキング以上に興収の数字自体はかなり厳しいものだった。

 全米公開後の4月5日付のDEADLINE HOLLYWOODの記事「‘Ghost In The Shell’ Will Lose $60 Million-Plus: Here’s Why」によると、アメリカでの興収見込みは多くても$50,000,000(約55億円)、アメリカ国外での興収見込みは$150,000,000(約165億円)。製作費とマーケティング・コストに$250,000,000(約275億円)以上かかっていると見られる本作は、劇場公開時点で少なくとも$60,000,000(約66億円)の赤字に見舞われることになるだろうと予測している。

 製作サイドも公に認めているように、『ゴースト・イン・ザ・シェル』が不振に終わった理由の一つとして、公開前にアメリカ国内で本作をめぐってホワイト・ウォッシュ問題(原作の人種設定を変えて、主役を白人に置き換えることで特定の人種の職を奪うこと)が立ち上がったことが挙げられる。この件に関して、アメリカのメデイアは日本の観客のリアクションにも興味津々で、HOLLYWOOD REPORTERの4月8日付の記事では「Japanese Fans React to ‘Ghost in the Shell’」と題し、日本公開直後のタイミングで日本の観客がこの問題をどう考えているかのリサーチ結果をまとめている。

 記事の結論としては「アメリカ人が(勝手に)考えているほど、日本の観客はこの問題を深刻にとらえていなかった」といったもの。ちょっと笑ってしまったのは、「正直に言うと、アジアの他の国の俳優が日本人の役をやるくらいだったら、まだ白人に日本人の役をやってもらった方がマシ」という日本の観客の意見が紹介されていること。今回の主人公の配役が日本であまり問題とならなかったのは、日本でも好感度の高いスカーレット・ヨハンソンだったことが大きかったと個人的には思うが、ハリウッド映画で日本人役を日本以外のアジア人が演じることに関しては、『SAYURI』や『ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFT』などの公開時に日本の映画ファンから失望の声が上がったのも事実。こちらはむしろ、国際的に活躍している若い役者が日本にほとんどいないのが要因と言える。

 ポリティカル・コレクトにがんじがらめになっているアメリカと、少なくとも映画界に関して言うならそれ以前に大きな人材問題を抱えている日本。図らずも、『ゴースト・イン・ザ・シェル』はそんなそれぞれの国の現代的イシューを浮き彫りにすることとなった。(宇野維正)