人前で堂々と喋ろう! 「あがり症克服」徹底ガイド

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人前で話すことが、どうやら日本人は苦手らしい。流暢に堂々と喋りたいと思っても、いきなりそこを目指すのは賢くない。まずは、脳の特性を活かして、人前で話すことの印象をよくすることから始めるのが正解なのだ。

■なぜ人前だと話せなくなってしまうのか

会議、朝礼、プレゼン、自己紹介、面接、結婚式の挨拶と、人前で話す機会は多い。ところが、大勢の前で話すとなると、心臓はドキドキ、手には大量の汗をかき、足はガクガク震え、顔の筋肉がこわばる。頭が真っ白になって、しどろもどろ。そんな悩みを抱えている人は多い。

人前で堂々と喋れるようになりたい。どうして、人前だと話せなくなってしまうのだろう。

これまでに数多くのあがり症の克服をサポートしてきた、メンタルコミュニケーショントレーナーの金光サリィさんに話をうかがった。金光さん自身、極度のあがり症で苦しんだ経験を持ち、克服した一人だ。

「多くの人が間違うのですが、あがり症を治したいと思うと、つい上手に話すことを目指してしまいがちです。TED(※)に登場するスピーカーのように流暢に喋れるようになりたいと、話し方教室に通い、話の組み立て、間の置き方、声のトーンなど、いろいろな話し方のスキルを学びます。しかし、上手に話すことを目指しても、あがり症はなかなか克服できません」

※毎年大規模な世界的講演会を主催している非営利団体。講演会では、学術、デザインなど様々な分野の人物がプレゼンを行う。

多くの人が克服するアプローチを間違えて、遠回りをしていると金光さんは指摘する。

「一見、上手に話せていても、実はあがり症で困っている人もいます。何よりも大切なのは、人前で話すことの印象をよくすることです」

なぜ、あがってしまうのだろう。金光さんは記憶と大きく関係するという。

「あがり症の赤ちゃんはいませんよね。それが、人前で話したときに笑われたとか失敗したとか、その人にとって嫌な経験をすると、人前=危険な場所として記憶されることがあります」

病気でもないのに、心臓がバクバクいったり、冷や汗をかいたり、足が震えたり。〈あがる〉とは不思議な症状だ。

■脳の特性を利用すればあがり症は克服できる

「人は危険な場所に立たされると、自律神経の交感神経が優位になり、心臓が高鳴り、顔面は紅潮し、汗をかきます。この反応は、危険に立ち向かう、または回避するために、体がエネルギーを出している状態です。体は臨戦状態なのに、それを本能に逆らって抑え込み、リラックスしようとするのは非常に難しいことなのです」

多くの人を救ってきた金光さんのあがり症克服メソッド。その手法は、脳の特性を活かしたものだ。

「脳の自然な働きを抑えようとするのには無理があります。むしろ、それを利用する。その方法がこれから紹介する〈5つの魔法〉です」

金光さんがクライアントに〈5つの魔法〉を伝える前に、必ずお願いしている大事な約束事がある。

「日頃から『でも』『だって』『どうせ』のようなマイナスの言葉を使っていたら、言うのをやめてください。そして、反省する癖もあるようなら、それもやめましょう」

マイナスの言葉を日常的に使っていると、せっかくいい情報に触れても、「でも自分には無理だ」と情報をシャットアウトしてしまい、それを活かすことができない。また、過度に反省することは苦手意識の強化につながるので注意が必要なのだ。

■聞き方を変えると話すのがラクになる

「あがり症の人は他人の話を聞くとき、〈今、詰まった。硬くなっているな〉と緊張しているかどうかを気にしたり、〈あの人よりこの人のほうが上手いな〉などと評価しがちです。すると自分が人前で話すとき、みんなもきっとそうやって自分が緊張しているかどうかを見ている、上手いか下手かを評価していると錯覚してしまい、それが過度のプレッシャーとなってあがりをより誘引します。

それらを全部やめて、聴衆のなかで一番いい、肯定的な聞き役を演じてみましょう。笑顔で〈なるほど〉とうなずきながら聞く。これを繰り返すことで、人は肯定的に話を聞いてくれるものだと思えるようになり、今までよりも、ずっとラクに話せるようになります」

■人前でも楽しく話せる自分をつくる5つの魔法

(1)言葉の魔法

「『あなたはどんな人ですか?』と聞かれたときの答えが、あなたのセルフイメージです。人はこのイメージに則って振る舞う傾向があります。例えば『私は本を読まない人間だ』と思っている人は、誰に止められているわけでもないのに本を読みません。あがり症の人は、『私はあがり症だ』などのマイナスなセルフイメージを、『私は人前で話すのが好きだ』のように、なりたい新しいセルフイメージに書き換える必要があるのです」

この新しいセルフイメージをつくるときに注意すべき言葉の使い方を押さえておこう。

「『赤いポストを思い浮かべないでください』と言われたらどうですか? 赤いポストを思い浮かべてしまいませんでしたか? 脳は、否定形であっても赤いポストと聞いた時点で、瞬時にそれを思い出してしまうのです。ですから、『私は人前で緊張しない』といった否定形のセルフイメージでは、緊張している状態を思い出し、好ましくないのです」

新しいセルフイメージをつくった後は、それを潜在意識にインストールする必要がある。

「インストールするには、潜在意識とつながるタイミングといわれる頭がボーッとしている朝晩に、セルフイメージを呪文のように唱えるとよいです」

(2)態度の魔法

「万歳のポーズで顔を天井に向け、思いっきり笑顔をつくってみてください。その状態で、最近あった悲しい出来事を思い出してください。いかがですか? 悲しい感情にアクセスできなかったのではないでしょうか。逆に、なんだか楽しい気持ちになってきませんか。なぜならこの姿勢や表情は、人間の『快』の気持ちとリンクしているので、楽しい気持ちが自然と湧いてくるのです」

人間は、姿勢や表情などの態度(非言語)に合わせて、感情も変化するのだ。あなたの新しいセルフイメージに合った人物の態度を研究して真似てみよう。

(3)イメージの魔法

「本番に対する印象をよくするには、人前で楽しく話している絵(図1)を描いて、喜びの感情とともに何度もそれを見ましょう」

人は五感を通して得た情報と感情を記憶として保管している。五感を刺激する絵を描くことは架空の記憶の材料となる。

「A4の紙を用意し、まず人前で楽しそうに話している自分の姿と笑顔で聴いてくれている聴衆の顔を描きましょう。そして、自分の周りには〈ヤッター、サイコー〉など、大成功したら得られる気持ちを、聴衆の周りには〈おもしろい〉など、言われて嬉しい言葉で埋め尽くします」

(4)1枚の魔法

「スピーチの原稿を準備する場合は、話す内容を何枚かに一字一句書き出すのではなく、紙1枚にキーワードだけを書き出しましょう」

実は脳にとっては、紙1枚の原稿で全体を俯瞰しながら話すほうが、負担が軽いのだ。

「おすすめはマンダラボックス法(図2)。真ん中にボックスを描き、その周りにさらに8つのボックスを描きます。中央には話すタイトル名、周りのボックスには右上から話す流れに合わせてぐるりとキーワードを書き込みます」

キーワードだけだと不安に思うかもしれないが、普段から一字一句書いた原稿を持たずに、頭の中で思い浮かべたキーワードにそって長々と会話している。そちらのほうが棒読みにもならず自然に話せるのだ。

「完璧に喋れるようにと練習を何度もすると、キーワードだけの原稿をつくっても、結局、話す内容を一字一句暗記してしまいます。これだと、本番中に少し言い間違えただけで、あとが続かなくなる危険性があります」スピーチ練習では、言い回しなどは、固定せずに行うとよい。

(5)行動の魔法

新しいセルフイメージを唱える、絵を描いて何度も見るなど、これまでに学んだ内容を行動に移すときに注意すべき点と、本番があることの重要性について押さえておこう。

「新しい行動を始めたら『こんなことをしてもムダ。やめてしまえ』という心の声が聞こえるかもしれません。人間の本能は無事に生きられている〈今〉を安全と捉えているため、変化を感じるとストップさせ元に戻そうとするのです。いわゆる3日坊主の原因です。それでもやめずに続け、変化した状態のほうが安全だと脳が認識するまでトライし続けましょう。

また『緊張しなくなってから人前で話したい』という人がいますが、それではいつまでたっても克服できません。近い将来に本番があってこそ、臨場感を持って準備に取り組め、その効果が高まります」

上手に話すことを考えるのは、あがり症を克服したあと。まずは〈5つの魔法〉で、人前で話す楽しさを実感しよう。

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▼あがり症を克服する「5つの魔法」まとめ

1. 言葉の魔法
・マイナスの言葉を捨てる
・新しいセルフイメージをつくり、朝晩唱える

2. 態度の魔法
・新しいセルフイメージに合った人物を研究し、態度を真似てみる

3. イメージの魔法
・大成功している絵を描き、くり返し見る

4. 1枚の魔法
・マンダラボックス法で「読む」→「話す」から「見る」→「喋る」へ

5. 行動の魔法
・変化に対する脳の抵抗が生じてもトライし続ける
・近い将来に人前で話す状況を設定する

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▼症状別対処法

<大勢の前だと頭が真っ白になる。話が飛ぶ。>

症状:心臓がドキドキして、足は震え、手は汗でびっしょり。覚えていたはずのことが思い出せない。自分が何を話しているかわからなくなり、しどろもどろに。「えーっと」ばかりが口をつく。
診断:それは、あなたの脳が、人前=危険な場所と認識しているために生じる症状(あがり症)です。スピーチ練習の前に、あがり症を克服しましょう。そのためには、人前に対する印象をネガティブなものからポジティブなものに置き換えましょう。

<訛りが出る。声が小さい。滑舌が悪い。>

症状:人前で話すとなると、自分の話し方の欠点が気になってしょうがない。滑舌の悪さや、訛りを笑われるのではないか? と思うと、いたたまれず、早く切り上げようと思ってしまう。
診断:脳の性質上、訛ってはダメ、滑舌が悪いのはダメと、意識すればするほど、かえって強化されてしまいます。それよりも、あなたが憧れる話し手を研究し、その人のように話してみることに意識を向けましょう。また、訛りなどは、個性として受け入れるのも一つです。

<上司や偉い人の前や女性が相手だと話せない。>

症状:相手のステータスが上位だったり、女性の前だと、相手の評価が気になり、テンパってしまう。ミスを犯してはいけないと考えて、結局金縛り状態。思っていることを伝えられない。
診断:相手をうかがってばかりいて、人によって言葉遣いや態度を変えすぎていませんか? 評価や気持ちは相手のもので、自分にはコントロールできないもの。過度に相手に合わせることはやめて、自分の軸を定め、誰に対しても振る舞いを一定にすることが改善につながります。

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金光サリィ
ヴィゴラスマインド代表。あがり症克服の専門家。脳科学をもとに考えた手法で、極度のあがり症を10日間で克服。「人は短期間で劇的に変化できる」という実体験に基づき、あがり症克服サポートを提供。著書に『人前で話すのがラクになる! 5つの魔法』。

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(フリー編集者 遠藤 成)