トヨタ・豊田章男社長(ロイター/アフロ)

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 日本経済団体連合会(経団連)の榊原定征会長(東レ相談役最高顧問)の任期は2018年5月までで、残すところあと1年だ。5月31日の定時総会で、新任の副会長4人にトヨタ自動車の早川茂取締役・専務役員、新日鐵住金の進藤孝生社長、三菱電機の山西健一郎会長、大成建設の山内隆司会長が加わる。

「トヨタと新日鐵住金は指定席だ」――、榊原氏は昨年末から周辺にこう語ってきた。トヨタと新日鐵住金からの起用は順送りのように見えるが、内実は異例ずくめだった。社長は社業に専念し、財界活動は社長経験者の会長に任せるのが一般的だが、今回はこの慣例に当てはまらない。

 新日鐵住金の宗岡正二会長はすでに経団連副会長を経験済みで、進藤氏以外に候補者がいなかった。そのため、やむなく現役社長が財界活動と二足の草鞋を履くことになった。

 トヨタの場合、もっと深刻だ。豊田章男社長は、いずれは経団連会長になるとみられているが、当面は社業に専念する。豊田氏の腹心の早川氏を経団連に送り込むが、経団連副会長が専務では恰好がつかないので、4月にトヨタの副会長に昇格した。

●三菱電機から副会長が選ばれたワケ

 異色の顔ぶれも入った。ひとりは山西氏だ。三菱電機としては、北岡隆元社長以来、実に20年ぶりの副会長ポストだ。

 三菱グループでは、三菱重工、三菱商事、三菱東京UFJ銀行の“御三家”が経団連副会長に就任するのがパターンだ。重工は宮永俊一社長、商事は小林健会長、銀行は永易克典相談役が副会長のポストに就いている。

 今回、三菱電機の山西会長が副会長になるのは、三菱枠ではなくエレクトロニクス業界の代表としてだ。「電機から、ほかに入れる企業がなかった。パナソニックの津賀一宏社長は来年なら可能性があるが、今年は無理だった」(経団連の副会長)という。この発言は、津賀氏は来年パナソニックの会長になり、財界デビューを果たすことを示唆している。

「ソニーの平井一夫社長は、人柄が副会長にそぐわない。NEC(日本電気)は、業績が悪すぎる。NECや富士通は過去のトップ間の軋轢が尾を引いていて企業イメージが悪い。それで三菱電機の椅子が回ってきた」(別の経団連副会長)

 三菱電機の業績は確かに良い。半導体から早々と撤退し、パソコンやテレビの事業からもすでに手を引いている。ただ問題は、長時間労働で労働基準監督署に摘発されたことだ。今年1月に嫌疑不十分で不起訴になったが、政府が掲げる「働き方改革」によって長時間労働の是正は注目度の高い話題だ。

 社員に長時間労働を強いて、精神的に障害を負わせたとして神奈川労働局藤沢労働基準監督署から書類送検された。横浜地方検察庁の捜査の結果、「嫌疑不十分」で不起訴になったものの、この社員はすでに退職しているが2016年11月に労働災害の認定を受けている。「時間外労働の規制強化など政労使で『働き方改革』が問われている時に、三菱電機の経営陣は無神経すぎる」との批判が労働界から上がっていたのは事実だ。

 榊原氏は2月6日の会見で、「(事件を機に三菱電機は)社内に労働時間問題適正化委員会を発足させ、労働時間の削減などに取り組んでいる。働き方改革の面でも(山西氏に)経済界をリードしてもらいたい」とエールを送ったが、苦しい釈明だったとの声が多い。

●建設業界から初の副会長

 もうひとりは、山内氏だ。建設業界から初の経団連副会長が誕生した。

「ほかに(ゼネコンで)候補はいない。大成建設も残業が多くて危ない。もともと、ゼネコンは談合など摘発されるリスクが高い要素が多く、(経団連の副会長に)なってこなかった。榊原氏が、安倍晋三首相にゴマを擦って入れたといわれている」(経団連の元副会長)

 山内氏は、安倍首相が外遊(インフラ輸出のトップセールス)に出る際、よく同行していた。「皆勤賞のようなもの」(ゼネコン幹部)との声もある。談合で経団連の副会長を辞任することがないようにと、関係者は祈っている。

 本来なら食品業界から副会長を選ぶのが筋だが、適任者がいないのが実情だという。財界・経済界の人材不足も深刻なのである。

 味の素の伊藤雅俊会長が候補に挙げられているが、「人望がない」(別の経団連の元副会長)のがネックになっている。また、アサヒグループホールディングスの泉谷直木会長も「同じく人望がない」(同)として選出されないようだ。サントリーホールディングスの新浪剛史社長は、経済同友会との関係が濃密すぎるとして、「いくら無節操な榊原氏でも、新浪氏に頭を下げて、『副会長に就任してくれ』とは言えないだろう」と財界の長老は分析する。

「(副会長の)定員18人を埋めきる必要などなかった。来年に向けて空けておけばいいのに。民僚(経団連事務局)は入れたがる。副会長が増えれば納付される会費が増えるからだが、長期的なグランドデザインがまったくない」と辛辣な指摘もある。

「そもそも18人という定員が多すぎる」(経団連副会長)との声もある。

「三菱グループ金曜会が6社、銀行、商事、重工、JX、日本郵船、電機。いかにも多すぎる」(同)
「銀行が三菱東京UFJと三井住友の2行。商社も三菱商事、三井物産の2社。2行、2社はいらない」(別の経団連副会長)
「東京ガスもいらない。東京ローカルな企業で、グローバルな視点はないし、日本全国のこともわからない」(エネルギー業界の社長)
「東京電力が一時、国有化されたため、エネルギーの代表のような顔をして入れているが、エネルギーはJXTGホールディングスの1社で十分だ」(関東以西の電力会社の最高首脳)

 18年の副会長候補は、パナソニックだ。津賀氏がパナソニックの会長になれば、選出されるのは確実とみられている。また、ANAホールディングスの片野坂真哉社長も有力候補だ。片野坂氏は審議員会の副議長に新規に起用された。経団連の空気に慣れるための起用といわれている。

●次期経団連会長、日立製作所の中西会長の可能性

 最大の課題は“ポスト榊原”だ。豊田氏に完全に振られたことで、有力な候補者が不在となった。メーカーであれば、日立製作所と新日鐵住金が有力だが、新日鐵住金は17年に進藤孝生社長が就任したばかり。三菱重工は、造船事業の巨額赤字や国産ジェット機MRJの開発の遅れに直面しており、経団連の会長どころではないだろう。住友化学は榊原氏の前任者の米倉弘昌会長が安倍首相に完全に忌避された経緯があり、十倉雅和社長の経団連会長就任も可能性はほぼないだろう。

 榊原体制への貢献度からいっても、日立製作所が最短距離にあるのは間違いない。同社は、かつて川村隆氏(当時会長)が、米倉氏の強い要請を拒否して経団連会長にはならなかった。米倉氏があまりにしつこいので、先手を打って任期満了を機に経団連副会長および日立製作所会長の辞任を発表した。そのような経緯を考えると、中西宏明会長が経団連会長を受ければ、まさにサプライズである。

 ただ、川村氏が東京電力の会長を引き受けたことにより、風向きが変わったと見る財界首脳もいる。

「頭の良さなら、中西君より新日鐵住金の進藤君のほうが一枚上」(経団連の元副会長)といった評価もあるようだ。

 豊田氏は、経団連副会長や会長に就任することは今後も可能性は低い。少なくとも、榊原氏の後を受ける気はまったくなかったようだ。

「ドナルド・トランプ米大統領の自動車メーカー攻撃がなかったとしても、豊田氏本人は経団連の副会長、会長就任はまったく考えていなかった。安倍首相に媚びへつらう榊原氏の姿勢に、豊田氏は嫌悪感さえ抱いている」(豊田氏側近)

 榊原氏が経団連会長の椅子をスムーズに渡すことができない原因が、榊原氏の秘書上がりの体質に帰着するとしたら、それは運命の皮肉である。かつては“財界総理”と呼ばれた経団連会長が、“安倍首相のポチ”であってはならない。

 榊原氏の“隠し玉”として、コマツの野路國夫会長が残っているが、財界関係者は否定的だ。「野路氏は経済同友会の副代表幹事ということで、昨年は経団連の副会長を受けなかった。同友会の次期代表幹事ではないか」と見ているためだ。ちなみに、経済同友会の代表幹事の交代は19年度だ。
(文=編集部)