菊地がキャプテンマ−クを巻いたのは、東京V戦で2試合目だ。写真:滝川敏之(サッカーダイジェスト写真部)

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 4月9日に行なわれたJ2リーグ8節の東京V戦に3-2で逆転勝ちし、湘南のキャプテン菊地俊介はホッとした表情を見せた。
 
 前節の讃岐戦は0-3で敗れた。スコアよりも湘南らしさを忘れた腑甲斐ない試合をして曹貴裁監督から雷を落とされた。
 
「1週間、前にいくという自分たちの良さを見詰め直すためにたくさん練習してきた」
 
 菊地たちは湘南の持味である“前への意識”を高めて東京V戦に臨んだのだ。
 
 しかし、16分、自分たちのミスから先制され、苦しい展開に追い込まれた。重苦しい空気が流れる中、選手がキャプテンのところに集まってきた。そこで菊地はふたつのことを確認したという。
 
「雨で芝が濡れてスリッピ-になり、慎重になっていた部分があったのでミスを恐れずにやっていこう。相手にボ-ルをもたれた時はもうちょっとコンパクトしてプレッシャ-をかけていこうという話をしました」
 
 その言葉がチ-ム内で共有、徹底され、そこから流れが変わった。
 
 菊地自身は前目のポジションを取った。実は試合前、菊地は山田直輝とジネイをサポ-トするためにボランチよりも高い位置でプレ-する予定だったが、試合直前にダブルボランチに変更された。先制された後は前に位置に上がり、それが同点ゴ-ルに結びついた。
 
 試合状況を読んでポジションを取り、自ら率先して追い付くんだという気持ちをプレ-でみせたのである。
 
 その後も石原広教ら10代の選手が3人もプレ-する中、チ-ムをうまくまとめ、自身も3点目のゴ-ルをセットプレ-で決めるなど、キャプテンとして見事な働きを見せた。
 
「薫(高山)くんがいない中、自分が引っ張って周囲に声をかけるというのは意識していました。苦しい時間もありましたけど、そこは前回の試合(讃岐戦)よりもできたと思います」
 
 菊地は端正な顔を崩して、そう言った。
 
 実は、菊地がキャプテンマ-クを巻いたのは、東京V戦で2試合目だ。
 
 今シ-ズン、湘南のキャプテンは高山薫だった。昨年もキャプテンだった高山はチ-ムをJ2に降格させた責任を感じ、今年はチ-ムをJ1に昇格させるためにキャプテンを続けた。
しかし、3月25日の千葉戦で右膝前十字靭帯損傷という全治8か月の重傷を負ってしまった。今シ-ズン中の復帰が難しくなり、チ-ムは新キャプテンを決めることになった。副キャプテンだった秋元陽太と菊地が候補だったが、菊地は自ら「自分がやります」と手を挙げたのである。
 
 菊地は昨年春、前十字靭帯損傷という高山を同じ怪我で長期離脱を余儀なくされた。リハビリを含めて非常につらい時を過ごしてシ-ズン終盤に戻ってきたが、チ-ムはJ2に降格した。「何も力になれなかった」と責任を痛感し、今シ-ズンは副キャプテンとして高山を支えていく覚悟だった。その高山を失った以上、菊地がキャプテンに立候補したのは必然だったとも言える。
 
「昨年は怪我して1年間、試合に出れなかったし、チ-ムも降格してしまった。今年にかける想いはすごく強かったので薫くんをサポ-トし、チ-ムを勝たせるためにアシストや得点で貢献したいと思っていました。
 
でも、薫くんが大きな怪我してしまったので……。自分が手を挙げたのは今のチ-ムに長くいて曹さんのサッカ-を理解しているし、もう年齢的にやらなきゃという立場にいるから。
 
けっこうおとなしい選手が多いんで自分が声を出すとか、あまりそういうキャラじゃないですけどチ-ムを引っ張っていかないといけないと思っています」
 
 湘南が曹監督のサッカ-を軸にJ2で優勝し、J1昇格を果たしたのが2014年だ。菊地は、そのシ-ズンに入団してきたばかりのル-キ-で「がむしゃらにやるだけで周囲に目を配る余裕もなかった」という。だが、今は10代でプレ-する若手に目を配り、チ-ムの先頭に立って堂々とプレ-している。昨年、怪我して精神的にタフになったことも影響しているのだろう。
 
「2014年当時のメンバ-は今日だと自分と秋元(陽太)さんしかいなくなってしまいましたが、今いるメンバ-の良さは開幕の時よりも出てきています。もちろんチ-ムとしても自分としてもまだまだ物足りないですが、これから縦に行くとか球際で厳しくいくとか自分たちの良さをもっと出していきたいですし、そうなればチ-ムはもっとよくなっていくと思います」
 2014年の時は開幕14連勝して愛媛に負けた後、東京Vに勝利し、ふたたび勝ち続けていった。その東京V戦でゴ-ルを決めたのが菊地だった。
 
 今回も東京V戦で菊地がゴ-ルを決めて勝利し、連敗を阻止した。キャプテンとしてピッチに立ち、あの時と同じように結果を出したことは、それに何か大きな意味があると思わずにはいられない。
 
「湘南スタイル」を継承し、チ-ムの目標であり、高山の願いでもあるJ1昇格は、この若きリ-ダ-の双肩にかかっている。
 
取材・文:佐藤 俊(スポーツライター)