藤田俊哉がオランダに渡ってVVVフェンロのコーチに就任したのは3年前、2014年夏のことだ。その間、Jリーグでは名パートナーだった名波浩が古巣・ジュビロ磐田の監督に就任。藤田と同じく指導者へと転身して3年の月日が経過した。活躍の場は違えど、一流のプレーヤーから一流の指導者への道を歩んでいる盟友の活躍を、藤田はどのように見ているのだろうか。一時帰国中の藤田が”指導者・名波”について語った。


ジュビロ磐田の名波浩監督について語った藤田俊哉氏――藤田俊哉さんの古巣でもあるジュビロ磐田に、名波浩監督が就任してから3年目のシーズンを迎えます。

藤田俊哉(以下、藤田)今年は名波にとって”勝負の年”になるだろうね。そのことは、本人も周りも認識していると思うよ。プレッシャーはかかると思うけれど、つねに彼はプレッシャーがかかる場面を乗り越えてきた。だから、今回もやってくれると思っている。2014年9月にシャムスカ監督の解任を経て、名波ジュビロが誕生した時はワクワクしたよね。いよいよ満を持して登場したかって。元々、名波はジュビロの監督になることを熱望していた男だから、彼は自分の仕事をやり切るだろうね。勝負のシーズンを乗り切って、長期政権に入るのはジュビロにとってもいいことだと思うよ。

――今年が名波監督にとって勝負のシーズンだと言われる理由はなんでしょうか。

藤田 2014年の途中にチームを指揮するようになって、実質1年目の2015年にJ1昇格を果たして、去年はJ1残留することができたわけだから、3年目の今年はJ1で結果を残していく。それが自然の流れじゃない? ノルマとして、もっと上の順位を目指さないといけない。

――今オフには中村俊輔獲得で大きな話題を呼びました。

藤田 今度はピッチ上で話題を出してくれたら最高だよね。それに、自分のスタイルというものを作ろうとしているんじゃないかな。

――現在、指導者としての名波さんのカラーは出ていると思いますか。

藤田 僕から見たら、まだイメージとは遠いんじゃないかな。カラーが出ていないというより、出せていないという表現が適切かもしれない。今は理想と現実の折り合いをつけている段階だと思うよ。自分がやりたいサッカーを追求していきたいという理想と、結果を出していかないといけないという現実。就任して3年目だからこそ、この両輪がそろそろうまく噛み合ってくることを楽しみにしている。ジュビロのOBとしても、名波の友人としても、早く彼の理想のサッカーを観てみたいから。

――少年時代から名波さんを知る人間として、名波さんにはどんなサッカーを期待していますか。

藤田 中学時代に初めて対戦した頃から、彼の才能は光っていた。大学は別々だったけれど、清水商、ジュビロでずっと一緒にやってきて、彼のサッカー観というのは誰よりも理解しているつもり。彼は常に冷静で、ピッチ全体を俯瞰(ふかん)しながら高い技術を持ってプレーしていた。現役時代からチームを勝利に導くリーダーシップがあった。それを監督で早く発揮してもらいたい。


オランダのVVVフェンロで指導者としての経験を積んでいる――かつて、名波さんは「俊哉は天才的なプレーをする」と言っていたそうですが、藤田さんが「天才肌」とするならば、名波さんはどんなタイプだと思いますか。

藤田 いろんな選手を見てきたけれど、さっきも言ったように、そのなかでも、名波のサッカーセンスというのはズバ抜けていたよね。名波は「天才肌」というより「戦略家」という感じ。ピッチ上でも全体を俯瞰しながら周りを動かしていたし、ピッチを離れても後輩の面倒見もよかったしね。代表キャリアだって僕よりも上。経験という点でもいろんなことを伝えられる人間だよ。

――いい監督の条件に名波さんの資質は当てはまりますか。

藤田 監督経験もない僕に、いい監督の定義なんて分からない。カリスマ性もそのひとつかもしれないけれど……。結局一番分かりやすいのは、結果を出す監督がいい監督の絶対的な条件と言えるんじゃないかな。だからこそ早く名波には結果を出してほしいよね。(長谷川)健太さんだって、清水エスパルスで監督をしていた時期はタイトルに恵まれず、シルバーコレクターとか言われていた時もあったけれど、ガンバ大阪で3冠(ACL、Jリーグ、天皇杯)を取って、周りの評価は大きく変わったんだから。

――現役時代から、名波さんは結果にこだわるタイプだったのでしょうか。

藤田 それはもちろん誰だってそうだよ。でも、名波はサッカーに対して誰よりも欲張りだった。「理想を高く持って結果を出す」というのが名波のスタイルだった。結果を出しても、いいサッカーができていなかったら満足しなかった。だから結果と内容がイコールで結びつくのが理想。それもまた、どの指揮官も望んでいることだろうけれど。

――具体的には、今年のジュビロはどの順位以上になれば合格点を与えられるでしょうか。

藤田 OBとしてはタイトルを狙ってほしいとは思うけれど、現実的には中位以上になればいいんじゃないかな。名波も新体制発表の会見でAクラス(9位以内)に入れればいいって言っていたみたいだね。でも、「自分はリアリストだから」とも言っていたのは意外だった。周りは名波のことをリアリストだなんて見ていないと思う。

――むしろロマンチストのようなイメージを受けます。

藤田 そうだよね。何度も言うようだけど、名波に限らず、監督は理想と現実を天秤にかけながら、常に難しい決断を求められるということ。

――ジュビロOBのひとりとして、ジュビロにはどんなクラブを目指してほしいですか。

藤田 本音を言えば、とにかくボールを回しまくって相手を疲れさせてトドメを刺す

――。そんなサッカーを見せてほしい。もちろんプロの世界は結果がすべて。矛盾するようだけど、ジュビロには自分たちのスタイルというものを作り上げていってほしいよね。かつてジュビロは黄金時代と呼ばれた時期があったけど、それはクラブ・サポーター・選手が三位一体となって、理想と現実の両輪を同時に追い求めていったからこそ。あの時はいい時代だったから、と言ったら終わりじゃない?

――名波さんだからこそ、強いジュビロを作り上げてくれるはずだと。

藤田 そういうこと。他の監督だったらそんな難しい要求はしないよ。でも、名波だったら、魅力的なジュビロを新しく作り上げてくれる。そう思わせるだけの器の大きさを持っている人間だから。ジュビロを知る人から見ても、名波にクラブの再建を託すのが納得いく。ジュビロというクラブの歴史の酸いも甘いも知り尽くしている男でもあるから。名波の持ち味はその類い稀な才能もそうだけど、最大の魅力はサッカーへの情熱であって、ジュビロへの愛情。そのパッションがある限り、いつかやってのけてくれると思う。ジュビロの監督になって3年目。監督としてのキャリアも積んできて、いよいよその片鱗を見せてほしいよね。

――風間八宏さん、長谷川健太さん、森保一さんらに続く、次世代の日本人指導者として、名波さんはもちろん、藤田さんにかかる期待も大きいです。

藤田 オランダへ渡って3年が経ったけれど、本当に刺激的な日々を送れている。ヨーロッパのフットボールを肌で感じることができているのは、指導者としてすごく大きな財産になっている。オランダで指導者の一歩を踏み出し、コーチとして3シーズン目の今年は初タイトルに向かって進んでいる。だから今はそれだけにベストを尽くしたい。そして名波のように早く僕も監督としてスタートを切りたい。

――いつか指導者として名波監督とピッチ上で対戦してみたいですか。

藤田 もちろんだよ! でも実際に対戦することになったらやりづらいだろうね。お互いにそう思うだろう。その時ばかりは”スタイル”を捨てて、結果に執着してしまうかもしれない(苦笑)。名波だったらどんな戦術を取ってくるか、試合の数日前からメディアを通していろんな駆け引きも楽しんでみたい。ただ、それでもポーカーフェイスを装いたいよね。負けても平常心を保っていたいとは思うけれど……。でも、家に帰ったら感情を出してしまうかもしれないね。その話は置いておいて、いずれにしても、名波にはファーストステップとして、結果とカラーをもっと出して、Jリーグを盛り上げていってほしい。OBとして、友人として、欲を言えばタイトルを取れることを願っているよ。

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