記者会見で質問に答える「てるみくらぶ」の山田千賀子社長(読売新聞/アフロ)

写真拡大

 格安旅行会社、てるみくらぶの倒産劇は衝撃的でした。何が衝撃的かというと、その負債の構造です。具体的には、負債の総額が151億円、そのうち顧客からの代金の前受金が100億円もあったことです。つまり、被害に遭った債権者の大半が、いわゆる仕入れ先や金融機関ではなく「顧客」だったのです。

●てるみくらぶの資産状況

 てるみくらぶは上場会社ではないので、詳らかな会計情報は開示されていません。本稿においては、報道された「売上195億円、負債総額151億円」という2つのデータをもとに、同社の経営状態を探ってみたいと思います。
 
 まず、てるみくらぶの資本金は6000万円です。負債の総額が150億円だということは、次のような貸借対照表がイメージされます。

 ここでは、左側の借方に「資産または損失」と表記しましたが、てるみくらぶの場合、このなかにある「資産」の金額が小さく、「損失」の金額がべらぼうに大きかったことが推測されます。

●3月23日までに代金を振り込めば割引という商法の裏

 てるみくらぶは倒産の直前段階になって、旅行の募集を行っていますが、3月23日までに入金すると旅行代金が割引されるというものでした。これは同日に期限が到来する国際航空運送協会(IATA)のBSP決済のための資金集めとしか思えません。その金額は4億円程度だったようです。

 つまり、てるみくらぶは顧客より100億円も代金を前受しておきながら、4億円程度の決済の資金にも行き詰まっていたことがわかります。そして、同日のIATAのBSP決済の4億円をかき集めるために、「3月23日までに代金を払えば割引」という条件での募集を行っていたのです。

 旅行会社というのは、大掛かりな設備投資も不要であり、たな卸資産などの在庫保有も不要なので、資産を保有するといっても、預貯金をたくさん抱えているのが一般的です。てるみくらぶの場合、その預金が4億円もの決済に困るほど底をついているような状況に陥っていました。

●半端ではなかった債務超過のレベル
 
 ということは、債務超過のレベルも半端ではないと思われます。かつて上場している会社において、債務超過の末に破たんした会社もありました。

 上掲における自己資本比率がマイナスの会社というのは、債務超過にあることを意味します。そのなかでも、そごうの債務超過のレベルは甚だしく、マイナス73.5%にも上っています。これは、負債が100に対して資産が26.5しかないということを示しています。おそらくてるみくらぶは、そごうに匹敵するような(あるいはそれ以上の)大規模な水準での資産の毀損が生じていたに相違ないのです。

 繰り返しになりますが、旅行業者というのは大掛かりな設備投資や在庫投資が不要です。

 上掲の倒産企業をみると、そごうのほか、「長崎屋」「京樽」「第一家電」のような小売業者の名前がありますが、これらはいずれも小売業者であって、店舗と在庫に相当の資金を投入したうえで、事業を営んでいました。

 また、使い捨てライター製造会社、東海などは、製造業を営んでいたので工場設備に相当の資金を投入したうえで事業を営んでいました。これらの業種は、預貯金以外の資産を保有しておく必要があります。ですから、資金不足を生じないように金融機関から借り入れをするなりして資金手当てをする必要があるのです。

 いっぽう、てるみくらぶのような旅行業者では、大掛かりな設備投資も在庫投資も不要のうえ、代金は顧客から前受けするので、資金不足に陥るリスクが小さいのです。それが、4億円程度の決済のために直前で割引セールスをして代金の入金を急いだということは、債務超過の状態が尋常でなかったといえるのです。

●資金管理の杜撰さ
 
 以上は、倒産直前期におけるてるみくらぶの資産内容に関する分析結果ですが、次に同社の資金管理についてみていきます。
 
 てるみくらぶは、前述のような財務状況に陥りましたが、その直接的な原因は「顧客からの預かり金を代金の決済以外の用途に流用していた」ことです。たとえば、顧客から旅行代金を3万円預かったのであれば、このうち、同社のコミッション(手数料)が5000円で、残りの2万5000円を航空券代や宿泊施設などへの代金として払う必要があるとします。

 そうすると、旅行業者は預かった3万円を自由に使うのではなく、2万5000円部分を除いておいて、自分たちが受け取ってもいい5000円部分のみを会社の運転資金に回そうと考えるべきです。そこから従業員の給与を払ったり、事務所の家賃を払ったり、新聞広告の経費に充てるのが常道です。

 ところがてるみくらぶでは、そのあたりが一緒くたになってしまい、顧客からの預かり金の相当部分が、会社の運転資金に回されてしまっていました。つまり、外部に支払うべきお金が航空券や宿泊施設の決済に回されず、会社の諸経費の支払いに充てられてしまったのです。この資金管理の杜撰さが、同社の被害額を大きくした主要因です。
 
 これは、旅行代理店にとって、決して小さくない教訓です。たとえば証券会社の場合、顧客からの預かり金は別管理されることになっており、他に流用されることはありません。金融庁なども、これを厳しく監督しております。

 しかし、旅行代理店の場合、金融機関などと比べて企業経営も小規模になり、このあたりの管理はさほど徹底されず、資金管理がわずかに疎かになる傾向があります。この倒産劇は、そのような資金管理が、旅行業界では金融機関ほどには徹底されていないという実態を露呈したものです。

 ですから、負債151億円のうち100億円を占める大半の債権者が、ふつうの債権者ではなく「顧客」であるという面妖な倒産劇が生じてしまったのです。

●採算の悪化を食い止めるべく努力しているヤマト運輸
 
 最後になりますが、てるみくらぶの採算管理の甘さについてみていきます。

 数年前より、てるみくらぶは採算の悪化に直面します。まず第1に、航空会社が大型旅客機から中型機にシフトしたことがあげられます。これにより空席が減った結果、格安の空席の確保が難しくなります。
 
 次に円安です。2008年から11年頃までは、円が高くなり、1ドル80円程度の円高が生じました。これは、格安旅行を提供する企業にとっては追い風でした。しかし、12年以降は円安となり、1ドル120円にまで円が値下がりしました。これは、格安旅行を提供する企業にとっては向かい風です。

 このような状況のなかで、てるみくらぶは採算の改善のために何をなすべきかを知らず、泥沼の「薄利多売」に走ってしまい、そのまま一直線に倒産してしまいました。

 ここで想起されるのが、「ヤマト運輸によるアマゾンの当日配送サービスからの撤退検討」の報道です。アマゾンはヤマトの主要顧客のはずですが、人員確保の困難さと採算の難しさを考慮したうえで、ヤマトはアマゾンの当日配送からの撤退を検討しています。事業者にとって、顧客のニーズにこたえられないことは不本意なことですが、「お客のいいなりになる」ことが、必ずしも当の事業者にとってプラスになるのではありません。得意先の要求をそのまま受け入れることが会社経営にマイナスになると判断した場合には、会社を守るために、顧客のニーズに応えないことも重要なことなのです。

●「お客様は神様」ではない
 
 そういうヤマトのような採算悪化の防止策をとらなかった(とれなかった)ことに、てるみくらぶの悲劇があります。かつて歌手の三波春夫さんは「お客様は神様です」と言って、神様に奉納する気持ちで歌を歌っていましたが、現実の企業社会では、「お客様は神様」ではありません。

 パナソニック創業者の故・松下幸之助さんは、「お客様は王様」だと言っていました。松下さんは、「王様は、ときには家臣や人民に理不尽なことを要求することもある。そういう場合には、王様に、それは理不尽であるとお諫めすることも必要だ」と言われました。それでも、王が理不尽な要求を止めないのであれば、国外に逃亡したり、反乱を起こすのが正常な民の行動です。会社と顧客の関係もこれと同じです。

 てるみくらぶはそういう問題意識を持てずに、「格安旅行でなければ、顧客はウチに振り向いてくれない」とばかりに、無理をして泥沼の価格競争に足を踏み入れて破たんしました。神様であったはずの顧客のうち、400名は今も海外で途方に暮れています。
 自社の採算をどう守るか、これが疎かになると結局、顧客に大迷惑をかけてしまうことを、この倒産劇は物語っています。
(文=前川修満/公認会計士・税理士、アスト税理士法人代表)