txt:Issei Nishikiori 構成:編集部

SXSW2017、今一番暑いのがFilm部門

海外のSXSWトレンドウォッチャーからは「未来の議論がされきってしまい、取り上げるものがなくなった…」と残念な声も上がってくるようになったインタラクティブ部門。その裏側で、水面下にSXSWの次の姿を作り出す期待感がフィルム部門を中心に醸成されているのを感じた2017年。日本ではあまり伝えられていない現地の空気感をお伝えする。

変化する現地のSXSWへの参加方法

AR・VRやゲームをはじめ、スポーツやファッションなど、インタラクティブ・ミュージック・フィルムの垣根を超えたコンバージェンス分野が広がるSXSW

以前の記事でも伝えられた通り、SXSWは2017年からバッジシステムを大きく変更した。背景にあるのは、数年間広がってきた異分野間のネットワーキングをより加速させるためだ。

インタラクティブ部門が急激に肥大化しているものの、もともとSXSWはコンテンツの祭典。テクノロジーだけの力では世界は変えられ無いことを知っている。テクノロジーとコンテンツとの掛け算がされてはじめて人々に広がり、語り継がれる未来に向けてのムーブメントを作ることができるとメッセージを改めて発しているようにも感じとれる。事実、今年からミュージック・フィルムのセッションはほとんどコンバージェンスとなり、そこには多くのインタラクティブバッジをつけた熟練の参加者が溢れ、積極的に議論に参加していた。

FILMに期待される“ストーリーテリング”のテクニック!

SXSWでは映画のスクリーニング以外にも1,000を越えるセッションが行われ、そこでは様々な未来に向けての議論がされている。日本では人工知能やロボティクスの最新テクノロジーの話題にフォーカスがあたりがちだが、特に今年は例年以上に「ストーリーテリング」がフィルム部門の参加者に求められていた。性別や世代や地域、そして個人が持つハンディキャップを超えて、人々の心をどれだけ動かせるか?また、心を動かすだけでなく、どのようなアクションを誘導できるか?という点に、様々な分野の人間が注目していた。

ヒップホップミュージシャンと生まれつき喉がなく発話ができない障害を抱える少年、そしてフィルムメイカーとの共同作品制作の事例から、コンテンツの力を使ってどのように障害を抱える子供たちを勇気づけるストーリーテリングができるのか?という議論が行われたセッション
ドキュメンタリー映像歴史人や著名人になりきってフリースタイルバトルで議論をする話題のYouTubeシリーズ「Epic Rap Battles of History」を製作するYouTuberラッパーEpicLLOYDや、YouTube上で女性向けの新しいスタイルのニュース番組を作る起業家が、現代の子供たちに向けての“新たな学びの方法”について議論するセッション

このようなSXSWのセッションはPanel Pickerという独自のシステムを使って公募によって集められる。上映できる作品はまだ出来上がっていないが、「多くの人に共有したいストーリーテリング方法がある!」という日本のフィルム業界の方々には、是非SXSWのセッションに応募してみてほしい。

Netflixの新型ドキュメンタリー作品が上映。素晴らしいストーリーテリングを支えた2つのユニークポイント

惜しくも受賞は逃したものの、今回ドキュメンタリー部門にノミネートされたのは「Chasing Coral(意訳:サンゴを追いかけて)」。サンダンスで公開されすぐにNetflixが買い付けたため、今回のクレジットはNetflixとなった。監督は2014年にエミー賞を受賞したドキュメンタリー「Chasing Ice(意訳:氷河を追いかけて)」を手がけたJeff Orlowski。

海面温度が1〜2度上昇してしまうだけでサンゴは致命的な白化をし、しばらくすると死滅してしまう。過去30年間で地球上のサンゴの50%を私たちは死滅させてしまったらしい。2016年には沖縄県にある国内最大のサンゴ礁ではすでに白化が97%に達し、56%が死滅してしまったそうだChasing Coralは、この「サンゴの白化現象」を追い続けるドキュメンタリーフィルムである。

筆者がこのドキュメンタリー作品をユニークだと思うポイントは2点ある。1点目は、通常の映画撮影の枠にはまらない新たなカメラシステムの構築だ。普段環境問題について漠然とした危機感を抱えてはいるものの、専門家による数字の解説ばかりであまり実感がわかないというのが正直なところだろう。しかし本作品は、iPhoneやiPad、GoProなどをフル活用しながらも、独自のタイムラプスカメラを設計することで高画質な映像化を実現し、カラフルなサンゴが白化し死滅していく様子を映し出している。長期間海面のタイムラプスを撮影するためには細菌や藻類の除去が最大の課題となったが、もともと水中カメラを開発している会社と組み新たなカメラを作り上げ、科学者たちと協力しながら、どのようにしたら心を動かせる一瞬をカメラにおさることができるかを検討したそうだ。

2点目は、「インパクトプロデューサー」の存在だ。インパクトプロデューサーとは、海外のドキュメンタリーフィルム界に近年生まれ始めている役職で、作品がもたらす社会的な影響を最大化することをミッションとしたプロデューサーのこと。社会起業の経験があるものがアサインされる事が多く、その業務は助成金や補助金を通じた資金調達や行政へのロビー活動を中心に、ソーシャルメディアや戦略PR、クラウドファンディングの実施までと、活動の範囲は多岐に渡る。本作では、日本でもドキュメンタリー作品が公開されているプロジェクトGirl Risingの元バイス・プレジデントのSAMANTHA WRIGHTが担当。映画を作るプロデューサーとは別に、このような新たな役割を担う人材が日本でも必要になってくると感じた。

SXSW2017のキーノートでもナショナルジオグラフィックのカメラマンCory Richardsが基調講演をするなど、科学などの複雑なものをコンテンツの力でわかりやすく説明し、消費者達をグッドアクションに導くコンテンツ分野はSXSWが特に力を入れ、クリエイティビティの挑戦として再評価しているため、来年も引き続き楽しみだ。

Chasing Coral's @coral_buff and @jefforlowski with @billnye, an official honorary coral nerd.

Chasing Coralさん(@chasingcoral)がシェアした投稿 -

Chasing Coral製作チームとアメリカ版デンジロウ博士のビル・ナイとの奇跡的なショット。SXSWはベターワールドを作ろうというプロフェッショナル同士がお互いを高め合えるコミュニティだということを象徴している1枚

ストーリーテリングを支えるテクノロジーもぞくぞく登場するSXSW

Chasing Coralのような素晴らしいストーリーテリング作品を支えるためのテクノロジーもSXSWにはたくさん集まっている。今回は2つほどご紹介したい。

■プロダクションが新しい撮影方法を作り出し、サービスとしてビジネス化したBlack Bird

Twitterも受賞し有名になったインタラクティブイノベーションアワードのAR&VR部門でファイナリストに上がったのが、イギリスの特殊効果のプロダクションThe Millが開発した独自のCG合成+VR生成システム“Black Bird”。この骨組みだけの車は実際に運転することができるし自動で動かすこともできる。この骨組み車は、車のCGを簡単にARでかぶせることができるガイドとなり、同時に周囲の状況も撮影しているため運転者視点のVRも作ることができる優れもの。骨組み車の車幅や車高、サスペンションの硬さなどはプログラミングで変更することが可能で、影や細かな車の挙動・砂けむりなど周囲の状況のCGでの作り込みが不必要となる、通常の撮影とCGの合成の中間の映像制作方法が可能となる世界初のサービスで、カンヌクリエイティビティフェスティバルでも受賞した。

車のモデルチェンジによる再撮影の必要もなく、色変えもすぐにできるようになってしまった時代に、実写で何をとるべきか?撮影方法が今後変化していくことを予報するようなテクノロジーで少し気が引き締まる読者もいるかもしれないが、このような専門性をもったプロダクションカンパニーが映像を制作するだけでなく、新たな撮影方法を作り出しサービス化するような流れが、日本からももっと生まれてくることを期待したいところだ。

■日本発!簡単に自分で新しいカメラシステムを作る事ができる新型モーターKEIGAN MOTORに注目

日本の大手企業が進出してきたSXSWトレードショーの中で、一際SXSWらしくWeird(奇妙)で気になったのが、KEIGAN MOTOR。アプリとつないで簡単にプログラムができるIoTモーターを作っている京都のスタートアップだ。詳しくはこちらの動画を見て欲しい。

KEIGAN MOTORは、アプリを通じてインターネットからモーターの動きを遠隔に制御することもできるし、インターネットにつながずともモーター自体にインプットしてその動きを再生することもできる。USB給電だが2Lのペットボトルも持ち上げるパワーを持ち、モーターは静かでスムーズに動くため、カメラシステムを自作するにはぴったりの一品だ。ただいまKibidangoKickstarterでクラウドファンディングをしており、お得な価格でGETすることができる。是非、自分たちでオリジナルのカメラシステムをD.I.Yしてみるところから、枠を越えるフィルムメイキングの一歩を始めてみてほしい。

まだまだSXSWフィルム部門への日本からの参加者は少ない。誰も見た事がないような心を動かす作品を作っている日本のフィルムメイカーをSXSWは待ち望んでいるはずだ。

txt:Issei Nishikiori 構成:編集部
Vol.03 [SXSW2017]Vol.05(近日公開)