福田正博 フォーメーション進化論

 日本代表は3月29日のタイ戦で4-0と大勝したが、この試合について「点差ほど内容はよくない」という声が散見された。たしかに課題も多く、手放しで褒められる試合内容ではなかった。


タイ戦後、ハリルホジッチ監督と言葉を交わした本田 ただ、キャプテンの長谷部誠、UAE戦で抜群の働きをした今野泰幸に加え、高萩洋次郎も故障で代表から離脱し、実績のあるボランチが山口蛍しかいない状況だった。そのことを考えれば、グループ最下位に沈むタイにしっかり勝利し、勝ち点3を着実に積み上げたという結果は評価すべきだろう。

 選手個人に関しては、日本代表で初めてボランチを務めた酒井高徳についての言及が目についた。高徳は中盤の底でパスを捌こうと懸命な姿を見せたが、ビルドアップでアクセントをつけられなかったのは事実。ただ、これはハリルホジッチ監督も折り込み済みだったはずだ。

 高徳は今シーズン、所属するハンブルガーSVでボランチとしてもプレーしているものの、相手からボールを奪うことが主な役割で、パスを散らすことに特長はないからだ。その高徳に、ビルドアップが機能せずに悪い流れになった責任を負わせるのは酷だ。責任は、あくまでもその選手を起用した監督にある。

 なぜ、ハリルホジッチ監督は高徳をボランチで起用したのか。負傷離脱選手が続出したとはいえ、追加招集した遠藤航の起用や、山口蛍の1ボランチで、香川と横並びのインサイドハーフに清武弘嗣を使うなど、他にも策はあった。それでも高徳を起用したのは、ハリルホジッチ監督が彼の持つポテンシャルを評価しているからだろう。

 ボランチにどんな役割を求めるかは、監督によってさまざま。ハリルホジッチ監督の場合、過去に原口元気をボランチで起用したことからもわかる通り、素早いアプローチでボールを奪い、「前に出ていく強さ」を求めている。その意味で、タイ戦での高徳の相手ボールホルダーに寄せる速さ、インテンシティの高さは際立っていた。「デュエル」を重視するハリルホジッチ監督が、プレー強度の高い高徳を起用したのは当然だろう。

 ただし、高徳がビルドアップで苦労していたことも事実。その理由は、パスを受けようと「動きすぎて」パスコースを消してしまっていたところにある。さらに、動くスピードが速いのも問題だ。速く動かれると、味方はピンポイントでパスを出さなければならず、ボールロストが怖くてパスを出しにくい。

 ボランチがDFラインの前で動き回るのは、ボールを動かしながら相手の陣形を動かしてギャップを生み出すためであり、常に視野を確保しながらポジションを取っていく必要がある。しかし、高徳の場合は自らが動くことでスペースを作り、他の選手にそこを使わせようとしていた。もちろん、そうした動きも必要だが、それだけではビルドアップが立ち行かなくなる。

 ボールを奪おうとするあまり、自分のポジションを「離れすぎてしまう」場面もあった。ボランチがふたりいても、高徳も、もうひとりのボランチも動きすぎると、中盤のバランスがとれなくなる。

 W杯ロシア大会でフィジカルに長(た)けた強豪国を相手にした時に、「堅守速攻」を志向するハリルホジッチ監督が、高徳をボランチとして起用する可能性は十分にある。守備能力が高いだけに、中央に位置するボランチにとって必要な、360度全方位を意識して動くプレーの質の向上に期待したい。

 W杯アジア最終予選の次戦は、6月13日アウェーのイラク戦だ。それに先立って行なわれるオーストラリア(グループ3位)とサウジアラビア(同2位)の試合でオーストラリアが敗れ、日本がイラクに勝った場合、勝ち点差は6に広がる。日本との直接対決が残っているため、その時点でW杯出場権確定とはならないが、いずれにしても、イラク戦は日本代表にとって非常に重要な試合になる。

 イラク戦のメンバーはUAE戦に出場した選手を軸に、調子の良し悪しで選考されるだろう。1トップは大迫勇也と岡崎慎司が争い、中盤はトップ下かふたりのインサイドハーフなのかはわからないが、香川真司、清武弘嗣、今野泰幸、山口蛍の中から3人が起用されるのではないか。

 気がかりなのは本田圭佑だ。3月にW杯アジア最終予選が再開されるにあたり、ハリルホジッチ監督は「経験」を重視して本田を招集した。本田は2試合とも途中交代で起用されたものの、先発を取り戻せるほどのプレーはできなかった。

 現在の本田が日本代表の「戦力」になりえているのか、イラク戦で本田の力が必要かどうかは、懐疑的と言わざるを得ない。

 たしかに、W杯本大会のように1ヵ月近く一緒に過ごすのなら、日韓W杯の時の中山雅史や秋田豊のように、経験豊富な選手をチームのまとめ役として呼ぶ意義もある。しかし、アジア最終予選で選手が行動を共にする時間は1週間ほどしかなく、ほとんどが移動に費やされるため、チームをまとめる時間はあまりない。そんな状況では、試合に出た時に「違い」を見せられなければ、本田の存在意義は薄まっていく。

 UAE戦、タイ戦でのプレーからは、本田が日本代表内のヒエラルキーの上位に立つだけの力は見られなかった。所属クラブで試合に出場機会がない本田が今後も厚遇され続ければ、他の選手たちに不満が生じてもおかしくない。

それも含めて、ハリルホジッチ監督はチームをマネジメントしていくとは思うが、本田は「実績」ではなく、「戦力」としての価値を証明すべき時期にある。無論、こうした声があることは本田自身もわかっているはず。外野の雑音を封じ込めるようなプレーを見せてくれることを期待している。

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