写真提供:マイナビニュース

写真拡大

米国が4月7日、シリアのアサド政権に向けてミサイル攻撃を仕掛けたことで、シリア和平への道は遠のいた。シリア内戦では、アサド政権・反アサド派・IS(イスラム国)の三つどもえの争いが続いている。

IS撃退を優先するために、アサド派を支援するロシアと、反アサド派を支援する米国が話し合い、アサド派と反アサド派の休戦を実現する方向で、検討が進められていた。トランプ米大統領が、ロシアのプーチン首相と親密で、米ロ関係改善に意欲を示していたことが、追い風となっていた。共同でISを撃退できれば、シリア和平への道は一気に開けるはずだった。

ところが、今回、アサド政権が化学兵器を使用したとの疑惑に基づき、米国がアサド政権にミサイル攻撃を実施したことで、シリア情勢は暗転した。アサド政権を支援するロシア・イランは、米国のミサイル攻撃を非難している。米ロ対立が復活する懸念が生じた。アサド政権・反アサド政権の間で戦闘が激化すれば、再びISが息を吹き返し、勢力を拡大する懸念もある。

シリア内戦は元々、ロシア・イランが支援するアサド政権と、米国・サウジアラビアが支援する反アサド派の間で、起こったものだ。両派の戦闘が長引くうちに、反アサド派の一部がイラクのISと結びつき、一気に勢力を拡大した。以降、アサド派・反アサド派・ISの三つどもえの争いとなっている。

なお、反アサド派と言われるのは、アサド政権と対立する多数の異なる勢力の寄せ集めである。ISと合流したのは、その中の一勢力だった。

中東には、民族・宗教・政治体制が絡んだ複雑な対立軸がある。イスラエルとアラブ諸国の対立が、しばしば話題になるが、それとは別にイスラム教2大宗派(スンニ派とシーア派)の対立も深刻である。

イスラム教には、スンニ派・シーア派というイデオロギーの異なる2つの宗派がある。世界全体で見ると、スンニ派がイスラム教徒の約9割と、マジョリティ(多数派)を占めている。サウジアラビア・トルコ・東南アジアなどほとんどのイスラム教国でスンニ派が支配層を占めているが、マイノリティ(少数派)のシーア派と特にトラブルは起きていない。

ただし、シーア派が支配する国と、スンニ派が支配する国の間には、深刻な対立がある。その代表がサウジアラビア(スンニ派)と、イラン(シーア派)の対立である。サウジアラビアはイランに対して、2016年1月に断交を宣言している。

サウジアラビア内のシーア派や、隣国イエメンで内戦を引き起こした反政府軍の中核であるシーア派をイランが支援していると考えられることが、サウジがイランと断交するきっかけとなった。米国が、イランへの経済制裁を解いたことも、サウジアラビアの焦りを生んでいる。

シーア派が多数を占めるイスラム教国は、イラン・イラクなどだ。イランは人口の9割がシーア派で、シーア派盟主である。イラクは現在、シーア派が政権を握っているが、スンニ派過激組織であるISと内戦状態にある。

イランでは、1979年にシーア革命が起こり、シーア派主導の政権が成立した。この時、イラクでは、少数派のスンニ派(フセイン政権)が政権を握っていた。シーア派革命の波及を恐れるイラクとイランの間に、1980-88年、イラン・イラク戦争が起こった。

イラクは、1991年の湾岸戦争後にフセイン政権が倒れてから、米国の支援を受けて、シーア派政権が作られた。ところが、米軍が2012年にイラクから撤退してから、再び内戦状態に陥り、スンニ派の過激派勢力ISの台頭を生んだ。

スンニ派もシーア派も、信条や象徴、宗教的儀式に大きな違いがあるわけではない。ただし、イスラム教の創始者ムハンマドの後継者についての考え方について、根本的な違いがある。シーア派はムハンマドの後継者はムハンマドの子孫に引き継がれるべきと考えている。一方、スンニ派は、イスラム世界の指導者は必ずしも世襲される必要はないと考えている。

さて、シリアへの米ミサイル攻撃は、日本にどういう影響を与えるか? 3つの影響が考えられる。

○(1)原油価格に低下圧力

中東の紛争は、かつては、原油の買い材料であったが、今は異なる。中東原油が世界の原油供給に占めるシェアが低下したため、中東の不安だけでは原油は買われにくくなった。 今、原油価格を支えているのは、OPECの減産合意である。サウジが減産を主導し、原油価格を下支えしている。ところが、サウジとイランの関係が悪化すると、再び、増産競争が起こる懸念が生じる。

○(2)米国がシリア・北朝鮮に積極関与する姿勢を示した影響、吉か凶か?

今回のシリアへのミサイル攻撃は、米国が、シリアだけでなく北朝鮮問題にも積極関与する意思を表明したものである。これで、中東・東アジアの地政学リスクが一段と高まるのか、あるいは、米軍の関与で北朝鮮問題が鎮静化に向かうのか、現時点で、判断できない。

中東・東アジアの地政学リスクが拡大すれば「円高株安」、リスクが鎮静化すれば「円安株高」に進むことが、想定される。

○(3)日ロ経済協力への期待の低下

米ロ関係の改善すれば、日ロ経済協力が進展する期待があった。ところが、米シリア攻撃で米ロ関係が悪化し、北方領土問題も解決が遠のいたと考えられることから、日ロ経済協力の進展も見込みにくくなった。

ロシア事業で利益を得ると思われていた、総合商社など「ロシア関連株」への期待が低下することになる。

○執筆者プロフィール : 窪田 真之

楽天証券経済研究所 チーフ・ストラテジスト。日本証券アナリスト協会検定会員。米国CFA協会認定アナリスト。著書『超入門! 株式投資力トレーニング』(日本経済新聞出版社)など。1984年、慶應義塾大学経済学部卒業。日本株ファンドマネージャー歴25年。運用するファンドは、ベンチマークである東証株価指数を大幅に上回る運用実績を残し、敏腕ファンドマネージャーとして多くのメディア出演をこなしてきた。2014年2月から現職。長年のファンドマネージャーとしての実績を活かした企業分析やマーケット動向について、「3分でわかる! 今日の投資戦略」を毎営業日配信中。
※写真と本文は関係ありません

(窪田真之)