東京・千代田区の朝鮮総連中央本部

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韓国外務省が11日に公開した1986年の外交文書によると、北朝鮮は1957年から1984年まで27年間にわたり、在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)の民族教育事業に約350億円を送金。朝鮮学校の設立や運営を支援したとなっている。

このニュースが大きく取り上げられているが、北朝鮮が朝鮮総連に送った金額はこれがすべてではない。朝鮮総連の機関紙・朝鮮新報によれば、北朝鮮は昨年4月まで162回にわたって「教育援助費」と「奨学金」を朝鮮総連に送金しており、その総額は477億8799万390円に達する。

これについては、「朝鮮総連が北朝鮮に送ったカネの方が多いはずだ」として、北からの送金の効果は限定的なものだったと見る向きもあるようだが、一概にそうとは言えまい。北朝鮮は1974年、1年間の送金額としては最も多い37億1178万円を朝鮮総連に送った。当時の物価は、現在のおよそ2分の1である。在日朝鮮人のパチンコ業者が80年代バブルで急成長する前の時代だったことも考え合わせれば、北朝鮮からの送金は朝鮮総連にとって強力な支えとなっていたことだろう。

一方、件の外交文書によれば、朝鮮総連は1986年、金正日総書記の誕生日の贈り物購入費として50億円を計上し、商工業者を対象とした募金要請を行ったという。

こうした動向は、北朝鮮が1980年代から核兵器開発を本格化させたことも絡み、公安当局の関心の的だった。北朝鮮と米国の対立が激化し、「開戦前夜」の空気が漂った1993年には、公安警察が朝鮮総連に対する捜査マニュアルを極秘裏に作成。「600億円送金説」の解明に突き進んだ。

しかし当時と比べると、日本の公安警察の対北インテリジェンス能力は減退してしまったように見える。朝鮮総連は、立ち退きを迫られていた本部ビルへの居座りを決めた際、数十億円の資金を使ったが、公安警察は今なお、その出所を完全に把握できていないのだ。

(参考記事:【対北情報戦の内幕】あるエリート公安調査官の栄光と挫折

金正恩政権の「核の暴走」を受け、米軍が空母打撃群を北朝鮮近海に急派するなど、北東アジア情勢は風雲急を告げているが、日本政府にはいまひとつ、当事者としての緊張感が感じられない。

対北情報戦能力を早期に立て直さないことには、日本はいずれ、危機の到来すら察知できなくなってしまうかもしれない。