東芝に見る「海外進出における企業統治」の教訓

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”東芝の不適切会計”とその後の混乱は必ずしも対岸の火事ではない。日本企業は、海外進出における企業統治という観点から考える必要がある。

東芝がアメリカ原子力事業関連の巨額損失を抱えて苦境に立っている。東芝は2015年、不正会計(数年にわたるPC事業や半導体事業における利益水増発覚で、2248億円の決算修正)事件があきらかとなり、歴代3人の社長が辞任、東証では特設注意市場銘柄に指定された。

海外事業進出の歴史的失敗

この不正会計問題後、人員削減をすすめ、ソニーへのイメージセンサー事業売却やキヤノンへの東芝メディカルシステムズ売却など、優良事業を売却して、利益を出してきた。しかし、16年12月27日には、アメリカの原子力事業におおきな「数千億円」にのぼる損失を抱えていることを公表した。同時に、儲け頭である半導体事業を分社化、株式の一部売却の方針を発表した。その後、市場に伝わる情報によれば、この原子力事業の損失は、すでに数年まえから認識されていたものの、これまで損失処理をしてこなかったのだという。

東芝は06年、54億ドル(約6210億円、115円/ドルで換算)で、米原発炉メーカー、ウェスティングハウス(WH)を買収した(その後追加出資あり)。そのあと、11年に福島第一原子力発電所(原発)事故があってから、世界的に新規原発建設が難しくなったという不幸な事情が発生してはいたものの、損失開示を怠ってきたことは”不適切会計”といわれている。

WHは、単体で12年度に9億ドル超、13年度に4億ドルと総額13億ドル(約1600億円)の減損処理を行っていたという。しかし、親会社である東芝はこれを開示していなかった。今回、開示したことにより、損失額は7000億円規模に大きく膨らんだ。東芝の利益水準(図1)から見て、開示された損失額は桁はずれである。



東芝がWHの減損処理の必要性を先送りしたこともさることながら、WH(単体)が15年秋に買収を決めた(16年1月に買収を完了)原子力発電所の建設を手がける会社、CB&Iストーン・アンド・ウェブスター(S&W)を2億2900万ドルで買収していることも大きく響いている。おそらくこれはとんでもない高値掴みだったようだ。そもそもS&Wを買収するまえから、WHは赤字が続いていたわけで、S&Wに関連する損失の公表でも、今後さらに損失が増える可能性は残っている。損失の元を断ち切らずに、優良資産を切り売りしていったのでは、いずれ破綻することになる。

このような結果になったのは、東芝が買収したWHの経営をしっかりと統治していなかったことが原因だ。子会社であるWHによるS&W買収(しかも巨額ののれん代を上乗せした高値掴み)を、東芝本社はきちんと把握していたのだろうか。本来、縮小すべき子会社の事業を拡大するという、暴走を制御できない本社の企業統治能力はどうなっていたのか。海外事業への進出の失敗例として歴史に刻まれるだろう。

10年代後半は、80年代後半と00年前後のITバブル時代に続いて、3度目の日本企業による海外M&Aの隆盛期である(図2)。1980年代のM&Aの多くは失敗して、成功例は限られている。多くのM&A案件が、日本側の購入意欲で、高値掴みになった、これが第一の原因だ。さらに買収後に、先方の会社(子会社)に乗り込んで、必要な改革(人員カット、生産の合理化)を実現すべきところを、安易に先方の雇用を守ると約束して、企業統治を十分にできなかったことが、第二の原因である。企業戦略の重要な部分(資産・負債の精査、グローバル戦略、親会社・子会社の役割分担)については買収時にきちんと話を詰めておくことが重要だ。このあたりは、よくいわれていることだ。



企業統治に必要な「人材」の条件

ここから先は私の追加的な意見である。買収先の企業統治に成功するためには、親会社から派遣されてくる役員が、買収子会社の経営陣に”尊敬されるような人材”でなくてはいけない。子会社の事業に精通していること、その場で決断できることは必要条件の第一だ。英語をネイティブに負けないように使いこなせる、議論ができるということは必要条件の第二だ。必ずしも親会社の指示をそのまま伝えるのではなく、子会社をよくするために尽力していることを見せることも信頼を得るためには重要だ。尊敬されなければよい統治はできない。

欧米では、若いころからいろいろな企業を渡り歩いて、専門性を磨く専門的なトップの経営者(あるいは財務担当、あるいは開発や企画の専門家)が多くいる。そこからいちばん最適な人材を引っ張ってくることも重要だが、その人を管理できないといけない。これが、日本発のサラリーマン社長やその部下にはなかなかできないのだ。

日本の会社の子会社になることは、市場の厳しい目にさらされることもなくなり、ある意味、”ぬるま湯”につかることになる。よほど、きちんと企業統治をしなければ、業績が下がっていっても不思議ではない。手綱を引き締める現地の経営者をきちんと把握していくことが、買収成功のカギである。もちろん、本社からのマイクロマネジメントは避けたほうがよい。現地で有能な経営者を発掘して、その活動ににらみを利かせながら監督するという親会社の人材が必要なのだ。残念ながら、日本の経営者には、いまだに国際的な活躍ができる人はかなり限られているのかもしれない。

日本の多くの分野の産業では、人口減少で、将来国内市場規模が縮小していくものが多い(例外は、医療・介護)。そのなかで、海外に活路を見つけようという企業が増えている。保険、銀行、証券など金融系も積極的に海外の同業他社を買収している。商社は資源系、流通系など幅広い会社群を買収している(製造業では、トヨタを筆頭として、M&Aではなく、自社で工場建設をして成功している)。

しかし、買収をするまえに、自分の会社が十分に国際化しているのか、現地に派遣して企業統治をすることができる人材がどれほど育っているのかを、自問してみることが重要だ。