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「マット&フラッシュ」、「フラッシュ&マット」

BTCCを駆けるホンダ・シビック・タイプRを支える「ハルフォーズ・ユアサ・レーシング」チームに関わる人々は、そんな言葉を使う。

「マット&フラッシュは午前中サーキットにいる」、「フラッシュ&マットはもう降りたのか?」。こんな具合だ。

BTCCチャンピオンを3度獲得したホンダのドライバーであるマット・ニールと、‘フラッシュ’ ゴードン・シェデンをまとめてそう言っているのだと理解するまでに、しばらくの時間を要した。

両者とも、素敵な紳士であり、レーシング・ドライバーとして、とても有能である。彼らは、チーム・メイトであり、2006年から公私ともに付き合いのある関係。2010年からはその付き合いの密度が高くなり、お互いを非常によく理解できる仲になった。

少し時を遡ってみよう。スペインのバルセロナからそれほど遠くないパークモーター・カステロリは、グランツーリスモに出てくるような素晴らしいサーキットである。

そこでおこなわれたプレ・シーズン・テストは良好な天候に恵まれた。このサーキットは、傾斜の変化が大きく、背景のダイナミックな岩場は、それだけでも何かのイベントに使えそうだ。

サーキットの全長は4kmにも及ぶが、それを狭いエリアに詰め込んでいる。どんなコースかは、最終ページの動画をご覧いただきたい。

個体差がつきにくいルール設定

チームはこの場に、4月1日のブランズ・ハッチで開幕する2017年シーズンのプレ・シーズン・テストにやってきた。

スペイン北部の乾燥したこの地に、作業をこなす大勢の人々と大量の機材が集まっている。同じだけのお金と人材を消費できるのは、物凄く短いアクションかドラマの撮影クルーだけだろう。

しかし、万全を期しても、物事は上手くいかないこともある。あるチームは、注文しておいた燃料が届かずに、ガス欠になった。配達のドライバーは、何を思ったのか、F1のテストが行われていたカタロニア・サーキットへ届けてしまった。次の朝、9つのパレットに収まった大量の燃料が届いた。しかも、注文した、いや必要とする2倍の量が届き、これらをどうやって持って帰るかが大きな悩みの種となった。

そんなことはお構いなしに、マット&フラッシュはテストを開始した。ハルフォーズ・ユアサ・レーシング・ホンダ・シビック・タイプRは、昨年モデルの多くを継承したことが大きな利点だ。

少し前におこなわれたルールの改変に適応すべく、マット&フラッシュは影響のある箇所を洗い出していった。今シーズンはいろいろ新しいものが導入されることになっており、新しいタイヤもまたテストすべきもののひとつだ。

速く走るために、タイヤは大きくなったが、レース・ウィークエンドの各所で使うことが義務づけられている、やわらかいタイヤの変更点はほとんどない。

しかし、勝者がウェイトのハンデを積むことでパフォーマンスのバランスを取るのと同じく、競争を均衡させ、比較的小規模のチームにとってもそれなりの活躍の場が与えられるこのシステムの意義は高い。そして、このシステムは実際に効果があり、今シーズンの32のグリッドに並ぶ各車の戦闘力は極めて均衡している。

いざ、サーキット初試乗

チームは、わたしに彼のクルマを託してくれた。ほかのレーシング・カーと同様に車内へは入りづらく、とても低い位置へ座らされることになり、クルマの前方から20mは何も見えない。

シビックは大きなクルマではないが、ロールス・ロイス・ファントムにでも乗っている感じだ。シェデンも、エイペックスがほとんどみえていないと打ち明ける。これは、なかなか怖い。

アクセル・レスポンスはあくまでシャープだ。トルクは十分にあるが、レブ・リミットは7000rpm以上。しかしこれは2.0ℓターボ・エンジンであるから中速域の元気のよさも特筆もの。

どのくらいのパワーがあるかと聞いた時、メンバーは微笑んだ。405psに近いとみた。しかし、最近のホット・ハッチ勢は手強い。これをしてもシビックが特別速いわけではないのだからおもしろい。

走り出してしまえば、クラッチが付いていることは忘れていい。シーケンシャル・ギアのレバーは、それなりの力で操作する必要がある一方、ブレーキのアシストは十分。ステアリングは非常に軽い。

つまり、腕力の必要なクルマというわけではないのだ。

少なくともわたしの運転した速度域ではそうではなかった。当たり前だが、運転をプロに託せば、横Gやブレーキング時のGはこんなものではないだろう。

ロードカーのエンジニアは、旋回力が上昇するのに比例して、ドライバーが安心して旋回できるように、ステアリングに操舵性の味付けや重さを付加しようとするが、このクルマの旋回時にとくに重さは変わらない。

シビックのレースカーは素晴らしい操舵感と操舵性を持ち合わせているが、ステアリング・リムを通して、どちらも精巧にろ過されている。

FR/FF、それぞれによさがある

ほかのレーシングカーにも同じことが言える。

端的に言えば、このクルマはわたしにはもったいない。拮抗した走りをするほかの31台からなる群衆から頭ひとつ抜け出す方法など考えもつかない。

「シビックは、前輪駆動車のトップであるべきです」ニールはそう言う。彼のチーム・メイトであるシェデンは、「去年の勝者ですし、やはり自信があります」と静かに、しかしパッションが込められた顔つきで語る。

「後輪駆動車のドライバー達は、みな、前輪駆動の不満を語りますが、われわれも同じように後輪駆動に不満があるんですよ」とも。

「去年のBMWはすごく良かったし、勝てる条件が揃っていました。でも、サム・トードフはチャンピオンシップをリードして最終戦を迎えましたが、あと一息のところで勝利を逃してしまいました。もし彼らを、速いチームのクルマに座らせていたら、われわれは負けていたかもしれません。彼らは非常に手強い競争相手になるでしょう」

当たり前のことだが、勝つには技術や経験が必要なのだ。そうした卓越した技術を目の当たりにすることができるだけでも、BTCCを観戦する価値はある。