背後に吊り下げられたプロジェクターには“security project”の大きな文字が。それはピーター・ガブリエルの初のソロ・アルバムから5作目となる『プレイズ・ライブ』までのジャケットの左肩に統一して記されていた“peter gabriel”の文字と同じ書体。

 会場が暗くなり、そんな“こだわり”を感じさせるステージにメンバーが上がると、無機質でミニマルなリフが鳴り響き、アフリカのプリミティヴな彫刻の画像が浮かび上がってくる。ドラマーのジェリー・マロッタを含む3人のリズム隊が叩き出すビートはロックのそれではなく、エキゾティックな空気が濃厚に漂っている。鍵盤から発せられる電子音が被さってくると、少しずつビートがズレ始め、ポリリズム化していく。間髪入れずに2曲目の「アイ・ハヴ・ザ・タッチ」に――。エスニックなリズムにモダンなシンセの音が絡みついていく。

 フロントの女性ヴォーカル、ハッピー・ローズの声は感情表現を意識的に抑制し、クールな歌い方に徹している。フィジカルで野性的なリズムに身体が反応しながらも、ひんやりした質感のサウンドが頭の中をクールダウンさせていく。甘美なアンヴィバレンス。プロジェクターには抽象的な写真や影絵やグラフィックが静止画像で映し出され、楽曲の背景にある「物語り」を匂わせている。

 1970年代後半、ジェネシスを脱退後にソロ活動を始動させたピーター・ガブリエル。先進的な指向性と感性を持つ彼は、自身の音楽に取り入れていく“新しい要素”として「エスニック・サウンド」にベクトルの舵を切り、プログレッシヴなロックを、グループのときとは違ったアプローチで模索し始めた。今、振り返ると、まさに“先駆”と言っても過言ではない『WOMAD』というワールド・ミュージックのショウケース的なフェスを主宰し、セネガルのユッスー・ンドゥールを筆頭に、さまざまな地域の優れたミュージシャンとコラボしながら、新しいロックの地平を開拓してきた。

 そんな彼を演奏面で支えてきた1人に辣腕ドラマーのジェリー・マロッタがいる。彼はガブリエルの音楽コンセプトに賛同し、演奏のテクニカルな側面から刺激的で思慮深い音楽性を具現化してきた。87年にリリースされたガブリエルの名作『So』は、そういった背景を持った活動が、ふくよかな果実のように結実した結果と言ってもいいだろう。

 現在、活動ペースがスロウになっているガブリエルだが、彼が80年代に提示したロック・ミュージックの行く末は、今も示唆に富んだ視点として、多くのフォロワーを生んでいる。そういった意味でも、ジェリーが中心となった今回のセキュリティ・プロジェクトはとても刺激的で、ロック/ポップの未来を予測する1つの“実践”として重要なものと言える。2012年に開始されたこのプロジェクトが満を持して『ビルボードライブ東京』のステージで展開されるという、まさに奇跡的な瞬間に立ち会えることの意味。それは、単なるライブとは次元が違うのではないかと、僕は公演を知った瞬間から考えてきた。

 硬質なサウンドは聴き手の意識を内省的にさせていくような神秘性を漂わせ、まるで「自らの心の底」を覗き込んでいくような感覚に――。ガブリエルがプリミティヴなリズムを取り入れていったのは、もしかすると人の心や精神の根源を冷徹に見つめるための手段だったのではないか。ヨーロッパ的な「黄昏感」と第三世界的な「妖術性」がシンクロし、ヘヴィでファンキーという、パラドックスに満ちた表情を向けてくる。頭脳と肉体の危ういバランス感覚がサウンドにスリリングな刺激を与え、ガブリエルが目指していた世界観が具現化されていく。

 ウォー・ギターに持ち替えたトレイ・ガンの音が唐突に、そして鋭利に切り込んでくる。明確な旋律を奏でるこのないバンドの音は、ときにケイト・ブッシュのような表情を浮かべるエキセントリックな声と絶妙なコントラストを織り成していく。記憶の奥底から引っ張り出したような原始的なリズムが、モダンなテクノロジーで染め上げられた音色で刻まれ、時空を超えた、まさにオルタナティヴな“ワールド・ミュージック”を現出させる。

 牧歌的な草原の風景や戦場の兵士の表情がズームアップされた写真は、曲の流れに反応するように次第にボヤけていったり、滲んでいったりして輪郭を失っていく。戦争による殺戮や環境破壊といった人間の行為によって混沌としている「今」という時代を象徴するような音と映像が、ステージの上からときに寡黙に、そして次の瞬間には饒舌に発信されてくる。そして歌われるのは「アイ・ドント・リメンバー」という意味深な展開。

 音に耳を傾けながらも、頭の中ではその解析がフル・スロットルのスピードで行われていく。「思考するロック」の最前線を走っていたピーター・ガブリエルを彷彿させるプログレッシヴでコンセプチュアルなアプローチ。しかし、音楽としてのダイナミズムは、凄味を感じさせるほど。ジェリーを中心とした辣腕演奏者たちによって繰り出されるストイックでタイトなサウンドは、終盤に「君の手を僕にかけて欲しい」(“レイ・ユア・ハンズ・オン・ミー”)と呪文のように繰り返されてクライマックスに達した。

 エクスペリメンタルな非日常の空気に包まれる摩訶不思議な心地好さ。まるで現代アートのインスタレイションを間近で目撃しているような錯覚に陥った瞬間が何度も訪れたセキュリティ・プロジェクトの初来日ライブ。終始、エモーションをコントロールし、ストイックな抑制を貫いた5人。終わってみれば、会場は割れんばかりの喝采に揺れていた。

 今回の奇跡的なステージは今日(11日)、大阪でも繰り広げられる。貴重な瞬間に立ち会えるライブを、何としても現場で体験したい。そんな価値ある一夜に、ぜひともご参加を!

◎公演情報
【セキュリティー・プロジェクト
plays PETER GABRIEL and more
feat. TREY GUNN and JERRY MARROTA】

ビルボードライブ東京 2017年4月10日(月)
詳細:https://goo.gl/vKnJVA
ビルボードライブ大阪 2017年4月11日(火)
詳細:https://goo.gl/Ortirn

Photo:Yuma Totsuka

Text:安斎明定(あんざい・あきさだ) 編集者/ライター
東京生まれ、東京育ちの音楽フリーク。本格的な春の到来に心躍る新年度の時期。やっぱり、新しい門出を祝うなら“泡のワイン”が最適。以前は細長いフルートグラスで飲んでいたシャンパンなどだけど、近年は膨らみのあるワイングラスで楽しむのがトレンド。ワインが持つ素晴らしいアロマが身体全体に染み込んでくるから、この飲み方はスパークリング・ワインを堪能できる。素敵なパートナーとスパークリングを楽しむなら、ぜひ試してみて!