第2戦・中国GPの予選後、フェルナンド・アロンソとストフェル・バンドーンのふたりはホンダのホスピタリティユニットを訪れ、ホンダの長谷川祐介F1総責任者と約30分にわたる話し合いを行なった。


一時は6位を走行して関係者を大いに驚かせたアロンソ ここに至るまでにさまざまな噂がささやかれ、ドライバー自身もことあるごとにホンダのパワー不足を批判する言葉を口にしているだけに、深刻な事態のようにも見えた。だが、実はそうではなかった。

「いや、内容は深刻ですよ。でも、これは毎レース週末にやっていることですし、今年も開幕前テストから数えればすでに何度もやっています。今日は我々のほうから話をしようということで集まりました」(長谷川総責任者)

 ホンダとしては、現状に甘んじているつもりはないこと、しかしその改善には少なからず時間がかかること、そしてその見通しなど、エンジニア同士だけでなくドライバーたちにも腹を割ってきちんと状況を説明し、理解してもらうためだ。

「今の状況はこうで、我々はこういうふうに考えているよ、ということを説明しました。逆に今の状況では、たとえば今日みたいにエンジンがかからなかったりすると、またエンジンのせいだとドライバーはすぐ思ってしまうわけです。ですから、このようにちゃんとコミュニケーションを取って説明し、信頼関係を構築しておくことが重要だと思っています」

 話し合いのなかでは「僕がなじられっぱなしですよ」と苦笑いする長谷川総責任者だが、むしろそうやって言いたいことを直接言い合えるほうが、メディアに向かって不満をたれ流すよりもずっと健全だ。それがわかっているから、一連の騒動の間もホンダは一切、チーム側やドライバーを批判するようなことは言ってこなかった。

 一度はほつれかけた糸だが、ようやくもう一度、固く結びつき始めている。

「ドライバーたちはもちろんあきらめていませんし、パワーがないとかドライバビリティが悪いとか文句を言うのも、『そこを直してくれればもっといい走りができるよ』というフィードバックでもあるわけです。優勝するパフォーマンスがないかぎり、そこについて厳しい議論がなされるのは当然のことです。だから(チーム提携解除やアロンソ離脱など)『即やめる』というような話にはしたくないんです」

 他車の自滅もあってQ2に進み、13番グリッドを得た予選後、アロンソはこう言った。

「明日はどんなチャンスだって掴んでやろうと思っている」

 まさにその言葉どおり、アロンソは雨まじりの決勝スタートからアグレッシブに攻めていった。

 1周目が終わるころには8位までポジションを上げた。そして2周目にランス・ストロール(ウイリアムズ)の車両を撤去するためのVSC(バーチャルセーフティカー)が提示されると、「この周に入るよ!」と自らピットに飛び込んで、いち早くドライタイヤに交換する攻めの戦略を採った。

「僕らには失うものがない。だからアグレッシブにリスクを冒していくんだ。それがうまくいけばヒーローになれるし、失敗しても失うものはないんだからね」

 アロンソが常日頃から口にしている信条を体現した走りだった。

 気づけば3強チーム5台の後ろの6位。トロロッソのカルロス・サインツにはすぐに抜かれてしまったが、その後はフォースインディアのセルジオ・ペレスを巧みに抑えて7位をキープし続けていた。

「アメージングだよ。メルボルンでも言ったことを繰り返したくないけど、今回も僕のキャリアでベストなレースのひとつだと思う。チャンスを最大限に生かすことができた。僕らがどんなチャンスでも掴んでやろうとハングリーなんだということを証明するいい機会になったね」

 しかしその奮闘虚しく、アロンソのマシンは33周で左リアのドライブシャフトが壊れてリタイアを余儀なくされた。

 この箇所は土曜日の夜にも同じ部品を交換しており、突発的な問題ではなかったことがうかがえる。加えて、チームはいまだにフロアやサイドポッドの破損として事実を隠そうとしているが、開幕戦でリタイアした原因もサスペンションが折れたことにあった。


想定以上の軽量化もトラブルの原因と言われているMCL32 また、バンドーンもわずか17周で燃圧が低下して、リタイアを余儀なくされた。

「走行中に燃圧が落ちてエンジンが吹けなくなってしまったんですが、とにかくエンジンに燃料が来なくなってしまったということです。エンジン側の問題ではないので、また燃料タンクのなかのどこかだと思います」(長谷川総責任者)

 これも開幕前テストを含めてこれまで何度も起きていた問題で、過去の例で言えば「燃料タンクのホースが外れている」といった下らないことが原因となっていた。

「まずはレースを完走する強さが必要だ。開幕前テストで走り込めなかった代償を、今こうして支払わなければならなくなっているんだ」(アロンソ)

 開幕前テストがすべてパワーユニットのトラブルで走り込めなかったような印象を世間は持っているだろうが、実はパワーユニットに問題が起きたのは8日間のうち3日だけだ。残り5日のうち4日は車体側のトラブル。

 今思えば、当初の想定以上に軽量化を攻めすぎたとされるMCL32のもろさは、このときから見え隠れしていたのだ。

 加えて、中国GPに持ち込んだ空力パーツのうち、最大の目玉であったはずの新型リアウイングは想定どおりの効果が発揮できず、予選・決勝では旧型に戻して戦うことになった。

「そういったこともすべて含めて『マクラーレン・ホンダ』ですし、クルマが遅いことの一番の要因はエンジンであることは一切否定できませんから、信頼性もパフォーマンスもまだまだがんばらなきゃいけないというところです」

 長谷川総責任者がそう語るように、現時点でMCL32のパフォーマンスは中団グループの下位を争うところにしかない。そのもっとも大きな足かせになっているのは、ホンダのパワー不足だ。

「今の実力は、13位とか15位から20位の間というところだと思います。ちょっとしたことでそのなかの順位は変わりますし、ポイント圏内に手が届くこともあると思います。ですから、ポイントが獲れないとは思っていませんけど、完全に実力だけで獲れるかというと難しいな、というところにいると思っています」

 中国GPの決勝レース中、アロンソは無線でこう叫んだ。

「コーナーでは僕が最速だ!」

 前を走るサインツが「現時点でコース上で最速だ」と無線で言われて、「ストレートで離されてもコーナーでは僕が追いついてるんだから」と言い返したのだ。

 しかし、そもそものダウンフォース量が多い2017年型マシンにおいては、気持ちよく走れるからといってコンペティティブ(競争力がある)だとは限らない。

 マクラーレン・ホンダより1秒速く、それでもトップから1秒以上遅いレッドブルのダニエル・リカルドは、自分たちの置かれた現状をこんなふうに説明している。

「マシンバランスはとてもいいし、気持ちよく走れている。でも、僕らは上位勢から1秒以上も後れを取っているんだ。パワーユニットの差でコンマ数秒の不利があるのは確かだよ。ただ、1.5秒も差があるわけじゃない。つまり、クルマの差だ。ダウンフォースの絶対量からくるグリップの問題だ。そうしないと、コーナーナリングスピードももっとキャリーしていけないし、出口でもっと踏んでいけない」

 つまり、パワーユニットで1秒稼いだとしても(パワーにして約67馬力相当)、車体側でも1秒稼がなければトップに追いつくことはできない。

 6位走行という見た目に浮かれていられる場合ではなく、ましてやそのチャンスすらトラブルでフイにしたのだから、チーム内で不満をぶつけ合っている場合でもない。現実を受け止め、互いにほつれた糸を固く結び直すための努力に邁進してもらいたい。

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