中国の受験戦争の苛酷さは日本の比ではありません(写真はイメージ)


 数年前に中国で、ある中学校の生徒が授業中に突然亡くなったというニュースが世間を騒がせました。死因は過労に伴う心臓発作でした。その生徒は睡眠時間を減らして猛烈に勉強し、いつも大量の宿題に取り組んでいたそうです。年々過酷さを増す中国の受験戦争の一端を表す事件として当時話題になりました。

 この事件が起きてから数年が経ちましたが、現在はこのような事件はあまり伝えられません。事件の数が減ったからではありません。むしろ、その後も子どもの過労死や自殺が増え続け、前ほど珍しくなくなってきているのがその理由のようです。

 今回は筆者が周りから直接聞き取った内容を盛り込みながら、当の中国人たちも認めるほど歪んでいる中国の教育の実態について紹介します。

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小学生の自殺者も

 今回の記事を執筆するに当たり、中国の検索サイトで「子ども 自殺」と検索したところ、多くのニュース記事や論説サイトがヒットしました。

 もちろん子どもの自殺の原因は学業だけではなくさまざまです。ただし、大半のサイトではやはり勉強のストレスや、教育を巡る親との衝突が主要因として挙げられています。

 こうした成人前の自殺者は年齢と共に多くなる傾向はありますが、まだ小学生である8歳や9歳といった子どもの自殺例もよく取り上げられています。中国では自殺する小学生は決して少なくない印象を覚えます。

 ニュースサイト「99健康網」の報道によると、上海の小学生から高校生までを対象にした調査で5.85%の子どもが「かつて自殺を計画したことがある」と答えています。実際に筆者の身の回りでも子どもの自殺を直接耳にすることは珍しくありません。中学に進学する子どもを持つ中国人の親から、近所の中学について「進学率は悪くないけど、あそこはこの前飛び降り自殺者が出たから、子どもを通わせるべきかどうか悩んでいる」という相談を受けたこともあります。

要求が多く、過剰な勉強量

 実際に中国の子どもたちはどれほど勉強しているのでしょうか。通っている学校のレベルにもよりますが、日本の学校と比べると授業時間も宿題の量も桁違いに多いことは間違いありません。

 下の表は、中国のある中学校の平日の時間割です。1日に40分の授業が8時限組まれており、朝8時から夕方4時半までの授業時間は合計320分となっています。

(* 配信先のサイトでこの記事をお読みの方はこちらで本記事の図表をご覧いただけます。http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/49657)

 日本の中学校の一般的な授業時間は1日300分です。それと比べると20分しか多くないように見えますが、実際には正規の授業以外にも放課後に半強制的な補講が組まれることが多く、土日の補講なども加えると授業時間はさらに増えることとなります。

 また学校での授業が終わった後も、勉強から解放されることはありません。帰宅後はほぼ例外なく大量の宿題に追われるからです。

 学校から出される宿題は、その量もさることながら、内容が非常に難しいと言われています。小学生や中学生の子どもを持つ親から話を聞いてみると、両親が付きっきりで子どもに教えてやらなければ解けないようなレベルだそうです。高学歴の大人でも解くことが難しいというのだから、子どもが簡単に済ませられるような代物ではありません。

 以前、筆者は20代の中国人の若者に、中学生時代の生活や思い出について尋ねたことがあります。すると、返ってきた答えは「朝、学校へ行って、家に帰ったら宿題して寝る。その繰り返し」というものでした。放課後に友人と遊んだりしなかったのかと聞いてみたところ「そんな時間あるわけないでしょう」と一蹴されてしまったものです。

はびこる教師の専横

 こうした勉強量の多さに加え、中国の教育現場で問題視されているのは、現場教師たちの“専横”と言っていいほどの悪辣な振る舞いです。

 中国でも日本のように内申点が高校などへの進学を大きく左右する要素となっているため、教師から何かしら要求された場合には生徒も保護者も従わざるを得ません。

 特に中国の場合は、非常に露骨というか、保護者らに賄賂と言っていいような付け届けを持ってくるよう堂々と要求します。要求する物は現金以外なら何でもありです。高級酒から化粧品、食品、携帯電話に至るまで幅広く、中には、既に受け取っている付け届けリストを作成して、まだ出していない人に配ってプレッシャーをかけるという教師の話も聞いたことがあります。また、生徒の家族が海外旅行に行くと聞くや、現地の化粧品や家電をリストに書いてお土産に買ってくるよう直接要求する教師もいるそうです。

 このような付け届けにとどまらず、課外授業を有料で行い、保護者からさらにお金を巻き上げるという教師も後を絶ちません。しかも、こうした課外授業を設ける教師は、正規の授業ではテストに出そうな箇所をあえて教えず、課外授業だけで教えるため、生徒は嫌々ながら出ざるを得ない状況を作るそうです。

問題をはらみつつも学力は向上

 こうした中国の教育現場については、当の中国人たちですら「歪み切っている」と批判してやみません。保護者らも現在の教育に問題があることを認識しています。しかし、今後もしばらくはこのような状況が続くと予想されます。

 なぜなら、近年の大学進学率の上昇に伴い、学歴が高くなければまともな就職先を見つけられないという状況だからです。保護者たちは子どもの将来を考えて、“異常”とは思いつつも子どもを受験競争に駆り立てざるを得ないのです。

 一方、過酷な受験戦争に揉まれているだけあって、中国の子どもたちの学力は都市部を中心に非常に高い水準に達しています。国際学力テストでも上海市などが日本を上回る順位につけており、街中で流暢に英語をしゃべる子どもを目撃することも少なくありません。

 ただ高い学力を有してはいるものの、かつての日本よろしく現在の中国の教育方法はいわゆる詰め込み型に傾斜しています。知識偏重型の教育であるため、最近の中国の子どもは以前と比べて創造性などの点で劣っているという指摘も出ています。たしかに大学を卒業したての若者からも「教科書に書かれている知識はあるけれど、実社会で使えるような知恵はというと心許ない」という声が聞かれ、筆者もこの指摘は間違ったものではないと感じます。

 1980年代生まれの中国人の友人は、「自分が子どもだった頃は、受験競争こそあったものの、今ほど勉強に追い立てられる子どもは周りにいなかった。放課後には友人とゲームして遊ぶなど、まだのんびりとした時代だった」と言います。それだけに今の中国の子どもたちがかわいそうに見えて仕方がないそうで、「日本の教育環境の方が親にとっても子どもにとっても、ずっといい」としみじみと語っていました。

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筆者:花園 祐