[JBpressの今日の記事(トップページ)へ]

1 いまだ鳴りやまないトランプ大統領への誹謗・中傷

 米国のマスコミの大半を敵に回したことにより、米国のマスコミの反乱は鎮まることなく、ますます声高にトランプ政権の粗探しに邁進しているようだ。

 日本のマスコミも米国の大手マスコミの意見に同調して、トランプ大統領の粗探しと非難に明け暮れているように見受けられる。しかし、その変化は、トランプ大統領一人による変化ではなく、世界を巻き込む大きな変革の潮流の変化ととらえるべきであろう。

 それは端的に言うと、グローバリズムと言われたものがその真の姿を隠しながら、一部の者だけが勝者となる危険性をはらみ、国家というものが衰弱し、国民の多くが貧乏になってきていることに気づき始めたということであろう。

 中国がグローバリズムの旗手だと言われても、大きな違和感がある。英国のEU離脱がまるでアクシデントのように言われ、EUにとどまることが正義のように報道されているが、EUこそ国家としての経済施策を奪い去り、国家を疲弊させた元凶でもあることは全く報道されない。

 また、EUはNATO(北大西洋条約機構)あってこその経済同盟であり、トランプ大統領が指摘しているように、核兵器を除き全くヨーロッパを席巻する軍事力を失ったロシアを敵と言わざるを得ないNATOは時代遅れである。

 それでも米国にとってNATOはかけがえのないヨーロッパにおける米国の覇権の象徴であり、ヨーロッパの国々の軍事予算の倍増により、NATO自らの軍事力によってNATOを維持していくことになるだろう。

 トランプ大統領の目指すものは、グローバリズムの対極にある国家の再生である。そもそも国家とは何だったのかの大きな問いかけである。

 国家とは「国民を豊かにし、国民を守り、国家に繁栄をもたらすものである」という国家としての原点に立ち返ろうとする革命であると言っても過言ではないであろう。決して軽薄な「孤立主義」や「保護主義」という言葉で表されるものとは異なっていることに気づくべきである。

2 大戦略を考えているトランプ大統領

 就任以来、次々に出される大統領令の適否や、政権とロシアの関係ばかりが議論されているが、大切なことが見過ごされている。

 それは、ランドパワーをシーパワーが押さえ込むユーラシア大陸の海洋に接するリムランドの中核となる英国、イスラエル、日本との関係を早期に再確認し、多少の困難はあってもロシアとの関係を改善することでしっかりとした米国を中心とした覇権の態勢を再構築している点にある。

 さらには、軍事政権であるタイをバラク・オバマ前大統領は非難し、関係を絶ったことで中国に追いやった大失敗から、タイとの関係改善へと方向を変換していることは、実に戦略的である。エジプトとの関係改善も進みつつある。残るはインドとの関係の構築だ。

 3月のトランプ大統領の施政方針演説にあるように、従来の自由、民主主義、人権外交と言いながら、軍事力と軍事行動を軽視したオバマ政権と異なり、真実と自由、正義を旗印とするトランプ政権は、自由と正義にもとる中国、北朝鮮を決して許しはしないだろう。

 狙いを定めた本命は、中国と北朝鮮である。そして、通商における覇権の獲得の仕かけはすでに始まってる。

 トランプ政権は、今、調整と学習の時間にあるが、いずれ政権が固まり動き始めると、軍事と通商の両輪を回し、中国と北朝鮮に向かうであろう。

 そのような政権の陣容であり、スティーブ・バノン首席戦略官・上級顧問、ピーター・ナバロ国家通商会議ディレクター、ジェームス・マティス国防長官、ハーバート・マクマスター大統領補佐官(国家安全保障担当)などは強力な実行者となると考えられる。

 残念ながら、中東ではIS(イスラム国)に勝利を収めても、形を変えてテロは継続するだろうし、イスラムの恨みは消えることはないだろう。

 米国の関与は一段落しても、イスラエルにとって、イランを主敵として力を結集するために中東の混乱は望むところかも知れない。

 その時、日本はこの潮流の変化と米国の通商と軍事の日本に対する期待に応えられるだろうか。

 トランプ政権が誕生した時に、防衛費をGDP(国内総生産)比1%以上にすることはあり得ないとさんざん言っていた人たちが、何となく1.2%や1.4%に防衛費を上げることを言い、なぜ、防衛費を上げなければならないのかを議論することをせずに、米国の装備品を爆買することが日米同盟の証だと考えている論調があることに唖然とさせられる。

 日本における「空気の支配」は健在だ。当然、筆者は従来の延長線上にはない新防衛計画の大綱の作り変えが前提であると認識している。

 しかし、今回それを検討し国家の俎上に乗せるのは、国家安全保障会議(NSC)であり、従来のように自民党や与党が主導するものではない。与党や省庁は、可能性を詰め実現できるよう政策化する本来の役割に戻るべきであろう。

3 日本の役割は明確

 トランプ大統領の3月の施政方針演説の中に、短いが明確に米国が日本に期待することが述べられている。それは、以下の発言である。

 「NATO、中東、太平洋地域のいずれでも、我々のパートナーに戦略および軍事作戦で直接的で意味のある役割を果たし、コストを公正に分担することを期待する」

 英国は、今後、軍事力を向上させるであろう他のNATO諸国とともにロシアに対抗する態勢を構築するであろう。 イスラエルは、中東のイスラム同士の戦いにおける混乱を背景として、イランに立ち向かうであろう。

 日本は、政治的、経済的に混迷を深めていく韓国とともに、中国・北朝鮮の強力な軍事力に対抗していかなければならない。今の韓国の状況から、日本は自らの防衛力を向上させ、米国とともに立ち向かわなければならないだろう。相当の覚悟が必要なことは自明のことである。

 コストの前に日本は、いかなる役割を担うのかをはっきりさせなければならない。

 いかなる役割を担うのかは、筆者をはじめ陸海空の元自衛官が、2年前ワシントンや海軍大学を訪問し、最新の第3次相殺戦略やエアシーバトル等の本質を議論した内容にその答えがある。トランプ大統領が言う日米の役割分担とは次の通りである。

 この図にあるように、同盟国などに要求されることは、まず第1に、潜り込む不正規軍による攻撃対処である。

 米国でもやっとリトルブルーメンとして認識されるようになってきたが、この本質は、海上民兵や不正規軍の攻撃から、海上民兵が運搬してくる地上の正規軍までの幅がある攻撃のことである。尖閣諸島はおろか、南西諸島全域の港湾などから上陸してくる地上軍に対応する役割は米軍ではない。

 2つ目の同盟国によるA2/AD(Anti-Access/Area Denial=接近阻止・領域拒否)ネットワークの構築には2つの意味があり、1つは国土防衛そのものである。もう1つは、中国海空軍に対する列島線からの拒否力の発揮であり、直接的に米海空軍の攻撃を可能とする土俵を提供する、主として陸からの対艦攻撃であり、防空戦である。

 自衛隊では、約10年前から統合運用の1つとして陸海空の統合での対艦攻撃の演習を実施してきたが、ここにきてようやく米軍も重い腰を上げそうだ。

 米太平洋軍司令官のハリス大将は、今年2月の会議で「私が今の配置を去る前に、陸軍の地上部隊が敵艦を沈める演習を見たいものだ」「陸軍は相当な防空能力を持っており、海軍のシステムと連携させるべきである」と言う趣旨の事を述べている。

 2年前から陸上自衛隊を見習えとして米陸軍に要求されていたものが現実化し、南シナ海まで日本の「南西の壁」が広がっていく日も近いと考えられる。

 この際、航空作戦においては、生き残り、戦い続けることが前提であり、民間の飛行場も使った航空阻止作戦に重点を置くべきである。

 この同盟国などの前方での防衛を前提として、エアシーバトルの作戦のエキスを柱とした「長距離打撃」と「経済封鎖を主とする長期戦」が成立する。

 これらの作戦は、短期・高烈度決戦による局地戦の勝利を追求する中国に対する戦いであり、少なくとも数週間は続くという米国の見積もりである。

 ここでお気づきのように、米中の作戦の考え方には時間的・空間的なズレがあり、日本にとって大きな問題を含んでいる。

 また、表の真ん中にある同盟国と米国の両者に要求される抗堪力、継戦力について日本は実に貧弱である。

 特にミサイルデフェンスはいくら高性能のミサイルを揃えようとも、日本全土を守ることはできず、また、弾も高額なため所要数を獲得することは難しいだろう。

 一方、日本には電子戦(電波による妨害)や電磁波(電磁波により電子機器を破壊する)の優秀な基礎技術があるとともに、世界一の高出力電源の技術を有していることから、国を挙げてこれらの分野に投資をして開発・装備化し、既存のミサイルと組み合わせ、日本独自の強力なミサイルデフェンスを構築しなければならない。

 このような技術力を守り国防にこそ使うべきなのに、経産省はじめ大学などは守るどころか、外国に売ることばかりを考えていることに失望している。

 このような電子戦やサイバー攻撃、電磁波を使った作戦の事を、米国は盲目化作戦として、詳しくは語らないが、対中作戦の切り札の1つとしている。

 さらに、ここには表現されていないが、潜水艦・機雷などを使った水中の支配作戦は、これも切り札の1つとしていることから、日本の海上防衛力も水中の支配作戦に舵を切るべきであろう。

4 財政主導の防衛計画大綱を廃し、新たな国防作戦計画を作成すべき

 これまで述べてきたように、現在の防衛計画の大綱は、その策定の在り方から変更し、明確な嘘のない日米の役割分担の下、至急構築しなければなるまい。結果、防衛費を何%にするかは、自ずから答えが出るだろう。

 筆者は、新しい国防作戦計画の性質は、「積極拒否戦略」として、本格的な防衛力を備えなければならないと考える。この際、非核三原則の核を持ち込ませずは廃止すべきであろう。

 また、専守防衛という国防を考えるうえで、あり得ない考え方は廃止すべきで、日米共同を前提とした「限定的な攻撃力」として日本も打撃力を保有すべきであろう。

 米国にも、日本には本格的な軍事力を持たせないという考えが根深くあるが、日米一体となった対中戦略を日本が主体的に説明できれば、トランプ政権は必ず理解すると信じている。

筆者:用田 和仁