北朝鮮の人々を対象にしたラジオ放送は、北朝鮮を内部から徐々に変化させる効果があるとして、韓国や米国が力を入れて行っている。英国のBBCも5月から対北朝鮮放送を開始する予定だ。しかし、このような放送が北朝鮮の人々にあまり聞かれてないとの指摘が出ている。

韓国の北朝鮮専門ニュースサイト、ニューフォーカスは、脱北者100人を対象に対北朝鮮放送についてのアンケート調査を行った。その結果、北朝鮮にいた頃に対北朝鮮放送を聞いたことがあると答えた人はわずか9人に過ぎなかった。3〜4割が聞いていたとする従来の調査結果と比べると、極端に低い数字だ。

聞いた局としては、韓国の公共放送KBSの韓民族放送、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)とボイス・オブ・アメリカ(VOA)、キリスト教系の極東放送(FEBC)、国家情報院系の希望のこだま放送、国防省系の自由の声が挙げられた。一方で、国民統一放送、開かれた北韓放送、自由北韓放送など、韓国のNGOが運営している対北朝鮮放送を挙げた人は1人もいなかった。

聞かなかった理由としては、「ラジオチューナーがない」「音質が悪い」「当局の取り締まりが厳しい」というものもあったが、最も多かったのは「CDやUSBに保存されて北朝鮮に持ち込まれる韓国からの情報に接する機会の方が多い」というものだった。

対北朝鮮放送は、北朝鮮の人々に情報を与え、意識を変化させることに重点が置かれているため、報道番組や、堅苦しいお説教のような内容が多い。また、流される音楽も、流行のK-POPより、一昔前の音楽が多い。

一方、CDやUSBに保存されて北朝鮮に持ち込まれるドラマ、映画、バラエティは、北朝鮮ではなく、韓国や海外のマーケットを対象にしたもので、娯楽色が強い。

現在のやり方での対北朝鮮放送は、最新の世界情勢を知りたがっている知識人や、気象情報を必要とする漁民、市場情報を求める商人でなければ、処罰されるリスクを甘受してまで積極的に聞こうとするものではないということが、今回の結果から浮き彫りになった形だ。

韓国国内向けに放送されている半官半民のMBC、民放のSBSのラジオの出力(50キロワット)を、KBS韓民族放送並み(1500キロワット)に強力にして、そのまま流したほうが、今の北朝鮮の人々に好評を博すのではないだろうか。

また、以前から度々指摘されていることだが、対北朝鮮放送の多くが中波(AM)ではなく短波で放送されていることも、低聴取率の一因と思われる。

北朝鮮で普及しているラジオは約300万台で、その3分の2がAM専用だと言われている。北朝鮮で多く流通している中国製のラジオには短波受信機能が付いているものが多いとは言え、AM専用機に比べると値段が高い。

さらに短波は、遠距離通信には効果を発揮する一方で、短距離、中距離では電波状態が芳しくなく、音質がよくない上に、北朝鮮が行っているジャミング(妨害放送)にも脆弱だ。

国家保衛省(秘密警察)での勤務経験があり、2014年に脱北、韓国の国策研究院に勤めるキム・ヨンソク(仮名)さんは次のように語っている。

「北朝鮮の国家電波管理監督局(保衛省27局)は、2002年からドイツ製の妨害電波設備を取り入れ、ラジオ放送がキャッチされればすぐに妨害電波を出す。そのため、対北朝鮮放送を成功させるには、短波ではなくAM放送でなければならない」

デメリットがわかっているにもかかわらず、短波放送を使う放送局が多いのは、コスト面の都合によるものだ。AM放送を効果的に送信するには高い出力が必要となるが、その分コストがかさむ。

ちなみに、日本の特定失踪者問題調査会が行っているしおかぜも、より効果的だとして、断続的ながらもAM放送を行っている。しかし、主な対象を日本人の拉致被害者としているせいか、娯楽色は非常に弱い。

一方で、韓流ドラマやK-POPのソフトを比較的自由に手に入れられる民間人とは異なり、朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の兵士に対して、対北朝鮮放送は抜群の効果をもたらすようだ。

朝鮮人民軍(北朝鮮軍)での勤務経験を持つ脱北者のチェ・グァンニョルさんは、対北朝鮮放送の効果を次のように語った。

「軍事境界線付近で勤務する軍人は、強力な思想教育を受けており、指揮官から『対北朝鮮放送に少しでも好感を持てば、革命精神から脱線する主要因となる』と言われていた。しかし、寒空の下で歩哨に立っているときについつい耳を傾けてしまうのは、韓国から流れてくる放送だ」

「韓国の歌は、人間の心理を反映しているので、兵士に心理的動揺を引き起こす。無視しようと努力はするが、ついつい聞いてしまい、ついには歌を口ずさむようになる。そうこうしているうちにあっという間に勤務時間が過ぎてしまう。こうして対北朝鮮放送に心酔してしまい、勤務を交替したくなくなるほどだ」

朝鮮人民軍の将校だった脱北者のコさんも次のように語った。

「軍事境界線付近で勤務する朝鮮人民軍の兵士は、韓国の歌手の熱烈なファンだ。拡声器から聞こえるK-POPは、さめたくない夢だ。放送がよく聞こえるところで勤務したいと競争になるが、指揮官は古参兵にそういうエリアを割り当てる。彼らは放送の中毒になっていて、いまさら聞かせても問題ないだろうという判断からだ」

韓国文化と情報に染まりきった彼らが、除隊して故郷に戻り、韓国文化のインフルエンサーとなることは言うまでもない。