<3月下旬のロシアの反腐敗デモの規模は、世界を驚ろかせた。ロシア人は腐敗には慣れっこだと思われていたからだ。厳罰の可能性もあるなか、彼らを動かしたのは何だったのか>

3月下旬のロシアの抗議デモの規模は、2011年の反政府デモ以来で最大だった。

3月26日、数万人の人々がウラジーミル・プーチン政権の腐敗に抗議するため通りに集結。約1,500人が拘束され、多くが起訴された。80以上の都市で抗議デモが開かれた。

プーチンは4日間の沈黙の後、この抗議デモを2011年の「アラブの春」や2014年のウクライナ危機にたとえ反政府デモへの危機感を示した。アラブの春を「許されざる抗議デモ」と呼び、「血を見る抗議集会は政権転覆の危機につながりかねない」と警告。隣国のウクライナでも2014年の大規模デモが政変につながったと言った(2014年ウクライナ騒乱)。

世界も驚いた。政府に対する不満をあらわにすれば弾圧されるロシアでは、人々はデモに疲れ、じっと不満に耐えるものだと思われていた。政府が許可しない抗議デモへの参加は法的にも制限されている。

人々を駆り立てたもの

そこへ数万人が集まったのだ。きかっけはあるドキュメンタリー動画だった。汚職告発団体「反汚職基金」が一年かけて、前大統領のドミトリー・メドベージェフ首相が資産家たちから多くの高級不動産や贅沢品の提供を受けていた実態を調査し、告発したもの。出てくる豪邸やブドウ園、農場、ヨットなどは、書類上は他人名義や慈善団体への寄付とされている。メドベージェフは頻繁にこれらの施設を利用していたという。

反汚職基金のリーダーで野党指導者のアレクセイ・ナワルニーは、この動画を3月初旬にYouTubeで公開。現在までに約1,600万人が閲覧した。ロシア国営テレビの人気番組に匹敵する数で、反汚職基金がこれまでに発表した中で最も反響が大きかった調査報告だ。動画公開後、メドベージェフはロシアで最も敵視される政治家になった。

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3月26日の抗議集会直後、プーチンはしばらく沈黙を守った。プーチンは、メドベージェフと参加した北極圏をめぐる国際会議で初めて公に言及。抗議デモから4日後の3月30日だった。

「汚職との戦いは公の場で正々堂々となされるべきだ」と、プーチンは言った。「だが今回のように、汚職との戦いが国をよくするためでなく政治的に利用されている場合は間違っている」

つまり、野党による汚職告発は許されない、というわけだ。

またプーチンは、警官隊や機動隊で平和的デモを鎮圧したことに対する外国からの批判を「政治的なロシアへの圧力」と切って捨てた。常に命令と受け止められるプーチンのこの言葉の意味は、今後もデモ参加者は容赦なく起訴する、ということだ。デモ参加者は誰もが悪者とみなされ、捜査官や裁判官も彼らを危険な犯罪者として扱うことになる。

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マクシム・トルボビューボフ(米ウッドロー・ウィルソン・センター/ケナン研究所上級 研究員)