たくさん泣くと、スッキリするのはどうして?

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執筆:山本 恵一(メンタルヘルスライター)
医療監修:株式会社とらうべ


ドイツ眼科学会の発表によると、女性は1年間に平均30〜60回泣くのに対して、男性は平均6〜17回だそうです。

このように「女性の方が男性よりも泣く」というのは一般的な認識でしょうが、それだけに、泣くと気持ちがスッキリするのは、女性なら実感としてわかるのではないでしょうか。


感情の表出行動としての「泣く」こと。

それは、カラダやココロにどのような影響を及ぼすのでしょうか。

ご一緒に見ていきましょう。

泣くことの心理:感情表出

うれしい、安心した、感動した、悲しい、怒っている、悔しい、苦しい、つらい、痛いなどの時、涙を流したり声をあげたりする行為が「泣く」という経験です。

泣くことによって、さまざまな喜怒哀楽の感情や体調が、いわば内から外へ向かって表現されます。

反対に、泣くことをこらえて我慢をするのは、感情や自分の状態の表出を抑制していることになります。

辞書をみると、「泣く」の項目には「無理や損を知りつつ承知する、権利をあきらめたり、仕方なく身を引いたりする」という意味もあって、「ここはひとつ君に泣いてもらおう」といった用例が示されています。


この場合むしろ、感情や欲求の表出を押しとどめて「心で泣く」といった感情抑制が要請されているともいえます。

しかし、かつては美学でもあったこうした行動様式は現代では問題視されています。

たとえば、ストレスによる身体疾患を専門とする「心身症」の分野では、「失感情症」といって、強く感情を抑制し、自分の感情にさえ気がつかなくなってしまう性格傾向が、ストレス性疾患の発症要因の一つという考えもあるくらいです。

泣かないことも、嵩じる(きょうじる)と病気になってしまう場合もあるということです。

涙の味:自律神経との関連

ところで、涙の成分は98%が水分で、ほかにナトリウムやカリウム、タンパク質などで構成されています。

体液のナトリウム濃度が上がるからだとされています。

反対に、うれし涙や安堵などの涙は、リラックスして副交感神経が優位になっていて、腎臓のナトリウム排泄機能がよくはたらき、体液のナトリウム濃度が上がらないためだからです。

泣くこと(感情)と自律神経とは密接に関連しています。

泣くことの効果:カタルシスとリラックス

さまざまな感情を表出する方法として「泣く」ことは、意外にも「癒し」の効果があるといわれています。

とくに、怒りやつらさ、悔しさなど感情が高ぶって交感神経が優位になっているときには、泣くことで、脳内で情動の中枢となる「偏桃体」のそばにある視床下部が刺激されて、自律神経の優位性が、交感神経から副交感神経へと切り替わることが、生理学では指摘されています。

このように、抑制されていた感情が泣くことで解放されることを「カタルシス:心の浄化作用」と呼び、まるで、便秘が解消されたかのようにスッキリとした気持ちになることができますし、その結果として、副交感神経が優位になることで、リラックスも併せて経験することができるということなのです。

ちなみに、このリラックス効果は、「笑う」ことよりも効果的だとさえいわれています。

男性はもっと泣いてのよいのでは!

女性に限らず男性ももっと、泣きたいときは泣いてもよいのではないでしょうか。

カタルシスとリラックスは厳しい現実を少しでも楽に生きる知恵でもあるでしょう。

もちろん、メソメソ泣くような生き方は美学に反するとしても、泣くことも含めた感情表出は、女性も含めた他者に、自分のことを理解してもらう、極めて有効なコミュニケーション行為でもあるといえるでしょう。

加えて、適度な抑制のすえに流されるキラッとした涙は、もしかしたら女性にはセクシーだと感じられるというオマケもつくかもしれませんね・・・。


【参考】
・石浦章一監修『脳・神経のしくみ』マイナビ出版、2016.
・The Telegraph『Women cry more than men, and for longer, study finds』(http://www.telegraph.co.uk/news/newstopics/howaboutthat/6334107/Women-cry-more-than-men-and-for-longer-study-finds.html)


<執筆者プロフィール>
山本 恵一(やまもと・よしかず)
メンタルヘルスライター。立教大学大学院卒、元東京国際大学心理学教授。保健・衛生コンサルタントや妊娠・育児コンサルタント、企業・医療機関向けヘルスケアサービスなどを提供する株式会社とらうべ副社長


<監修者プロフィール>
株式会社 とらうべ
医師・助産師・保健師・看護師・管理栄養士・心理学者・精神保健福祉士など専門家により、医療・健康に関連する情報について、信頼性の確認・検証サービスを提供