若者向けになりすぎているゴールデンタイムのドラマに対抗して、「シニア世代も楽しめるドラマを」という倉本聰の呼びかけで誕生したテレビ朝日のシルバータイムドラマ枠。

その第1弾となる倉本聰・脚本のドラマ『やすらぎの郷』(テレビ朝日・月〜金曜12:30〜)がスタートした。

しかし、石坂浩二をはじめとしたド迫力のジジバ……いや、超大御所スター総進撃状態のキャストに気圧されて、見るのをためらっている人もいるんじゃないだろうか?

確かに86歳の八千草薫を筆頭に、85歳の有馬稲子、81歳の野際陽子、78歳のミッキー・カーチス、76歳の浅丘ルリ子・山本圭、75歳の石坂浩二・藤竜也、73歳の加賀まりこ……と、主要キャストはザ・高齢化社会。(撮影現場で何が起こってもいいように看護師とAEDが完備されているとか)

とはいえ『やすらぎの郷』は、シニア層に限らず、ドラマ好きだったら色んな意味で見ておいて損はない作品。今からでも追いついて欲しい!


注目ポイント1・展開が超ゆっくり


ドラマの主人公は、もうすぐ80歳となるベテラン脚本家・菊村栄(石坂浩二)。

認知症の妻を看取ってから半年が過ぎ、東京を離れてとある施設に入所しようと考えていた。

その施設というのが、長年テレビや映画の世界に貢献してきた者だけが無料で入れる老人ホーム「やすらぎの郷」。

かつて芸能界のドンと呼ばれた人が、戦後の日本を明るくしてくれたテレビ業界人へ報いるため、私財をつぎ込んで作りあげた夢のような施設だという。

半信半疑になりながらも「やすらぎの郷」に入所した菊村は、かつてテレビ業界で一緒に仕事をしてきた古い友人たちと再会する。

……と、コレが第1週・5話分のあらすじ。

今のドラマの感覚からすると信じられないくらいゆっくりとした展開だ。

第2話に至っては、石坂浩二が「やすらぎの郷」に入ることになった経緯を近藤正臣に延々と説明する会話シーンだけで終わってしまったし、第4話は施設のシステム説明で丸々1話を消化。

もちろん、会話シーンだけでもダレない脚本力&演技力あってのものではあるが、展開が早すぎて1話見逃すとストーリーを見失ってしまう最近のドラマも、これくらいじっくりとシーンを描いて欲しいと思ってしまう。

『やすらぎの郷』は、1話や2話見逃しても……いや、2週目から見はじめても十分話についていけると思うぞ!

注目ポイント2・キャスト陣がヤバイ


かつてテレビで活躍したスターたちが入れる老人ホームが舞台ということで、前述の通り、リアル・大御所スターたちが勢揃い。

どことなく役者自身を投影したキャラクター設定がされている上に、回想でも若かりし頃の本人写真が登場したりと、どうしても役者本人とリンクさせて観てしまう。

そんなレジェンド級の大御所たちが同じ老人ホームに大集合して共同生活するって……どんな『テラスハウス』だよと。

中でも目が離せないのは、「やすらぎの郷」に入所した石坂浩二を、リアル・元妻である浅丘ルリ子と、リアル・元恋人の加賀まりこが奪い合うという、現実とリンクしすぎな設定。

この役を引き受ける方も引き受ける方だが、そんな脚本を書く方も書く方!

たとえば、長渕剛を石野真子と志穂美悦子が奪い合うドラマなんて、思いついたとしても絶対に企画を出せないだろう。

石坂と浅丘が結婚したのは、倉本聰も脚本として参加していたドラマ『2丁目3番地』(1971年・日本テレビ)での共演がきっかけといわれているが、その後、離婚したふたりを、再び自分の脚本ドラマで……しかも元カノもまとめて共演させるとは、倉本聰おそるべしだ。

注目ポイント3・倉本聰の愚痴


石坂浩二演じるベテラン脚本家・菊村栄は、明らかに倉本聰自身を投影したキャラクターだと思われるが、ドラマ中にも倉本の個人的な思いがちょいちょいぶち込まれている。

たとえばタバコ問題。

かつて宮崎駿監督のアニメ映画『風立ちぬ』の喫煙シーンが問題になった際、倉本は「NEWSポストセブン」のインタビューで、

「僕の作品でたばこを吸うシーンを削ってくれなんて注文されたら、その台本は取り下げますよ」

と語っていたが、その宣言通り、本作では役者たちにタバコをバカバカ吸わせまくり。

息子から「タバコはほどほどにしときなよ」とたしなめられた菊村は逆ギレして、

「オレとタバコの付き合いは、お前との付き合いよりよっぽど長いんだ!」
「オレがお前を育てられたのは、タバコが作品を書かせてくれたからだ!」

なんて言い出す始末。これはもう、倉本自身の「魂の叫び」だろう。

そして、最近のテレビ業界に対する愚痴も。

近藤正臣演じる元・テレビ局の花形ディレクター・中山保久にはこんなことを語らせている。
「だいたい世の中が変わっちまって高齢化社会になっちまったんだ。おまけに若い者はほとんどテレビ離れを起こしてる。ところがテレビ局だけはいつまで経ってもゴールデン神話から抜け出そうとしないんだ」

こりゃあ、そのまんまこのドラマを作ることになった動機だ。

その中山が最近手がけたドラマは、

「Jプロに、いいようにいじられちまったよ」

とのこと。J……ジャニーズのことかな?

テレビ業界に貢献した人だけが入れる老人ホームの話を聞き、「それならオレにも資格があるな」と前のめりになった中山に対しては、

「かつて一時期でも局にいた者は、元々資格を持てないことになっているそうだ」
「テレビを今みたいにくだらないものにしたのは、そもそもテレビ局そのものだからさ」

とバッサリ。

他にも、孤独死した大原麗子を思わせる女優・大道洋子のエピソードを挙げて、いい時だけ持ち上げ、落ち目になったら役者を使い捨てる業界の体質を批判したりと、倉本聰が本気で今のテレビ業界をぶった切っているのだ。

注目ポイント4・ほんのり漂う死のニオイ


現時点ではほとんどストーリーが進行していないので、正直、面白いのかどうかまだまだ判断しかねる段階。

今後、石坂浩二と(昔の)美女たちによる人生最後のラブストーリーや、「みんなで力を合わせて最期にもう一度ドラマを」……なんて展開も考えられるだろう。

第5話では、菊村の入った部屋に「(オバケが)出るのよ……」なんてホラー展開までほのめかされていたが、果たしてどうなるのか?

しかし、いずれにしても「人生の最終回」として施設に集った元・スターたちの行き着く先は、死別ということになるだろう。

そう考えて見てみると、ドラマ自体は穏やかなトーンながら、全編通してほんのりと死のニオイが漂っている。

特に、第4話での女優陣の初登場シーンは、完全に死後の世界だった。

お葬式帰りということで喪服着用の老婆たちが次々と、やたら不自然な白バックのセットの中を歩いて来るという……子どもが見たら泣き出すレベルのトラウマ映像!

あれ以来、老人たちの顔が浮かんでは消えていくオープニング映像も走馬燈に見えてしまう……。

夢のように快適な老人ホームの中で楽しく余生を過ごしつつも、どのように「死」と向き合っていくのだろうか。

今のところ倉本聰による、

「ぼくのかんがえたさいきょうの老人ほーむ」
「ぼくのかんがえたさいきょうのテレビどらま」

を説教くさく見せつけられているだけ……という感じもしなくもない本作だが、本格的にストーリーが展開していくのはこれから。

若者偏重なテレビ業界に一矢報いる名作となるのか、歳取って時代を読めなくなった倉本聰が暴走する老害ドラマになるのか……!?

とりあえず、シニアだけに独占させておくのはもったいないドラマであることは間違いない。
(イラストと文/北村ヂン)