長丁場のリーグ戦では、どんなチームにも大なり、小なり、好不調の波はやってくる。ある一時期に調子がいいからと言って、それが続く保証はなく、最終結果を約束してくれるわけでもない。

 とはいえ、やはりスタートダッシュは大切だ。少なからず手探りの部分があるシーズン序盤、早々に結果が出ることで余裕が生まれ、さまざまな物事が好循環で回り出す。スタートダッシュは優勝、あるいは上位進出のための絶対条件ではないにしても、重要な要素であると言っても差し支えないだろう。

 今季J1において、どこよりも鮮やかなロケットスタートを決めたのは、ヴィッセル神戸である。

 神戸は開幕戦で清水エスパルスに1-0で際どく競り勝つと、そこから一気に4連勝。第5節では浦和レッズに1-3で敗れたものの、続く第6節では気持ちを切り替え、大宮アルディージャを2-0で退けた。

 第6節終了現在、神戸は5勝1敗の勝ち点15で堂々の首位に立っている。

 振り返れば昨季後半、この予兆はすでに見え始めていた。2ステージ制だった昨季、神戸はセカンドステージで2位に躍進。年間順位では7位にとどまったが、いわば今季注目の”上がり馬”と言うべき存在だったのだ。

 神戸は今季、かつてヴェルディ川崎(現・東京ヴェルディ)、柏レイソルを優勝に導いた名将、ネルシーニョ監督が率いて3年目を迎えた。堅守をベースに、必要以上に手数をかけない効率のいい攻撃を繰り出すサッカーが、十分に浸透してきている。

 ここまでの5勝を見ても、うち4つがシャットアウト勝ち。1試合1、2点しか取れなくとも、その貴重な得点を確実に守り切って勝利に結びつけている。

「昨年は勝ったとしても、失点することが多く、無失点の試合が少なかった。ペドロ(・ジュニオール→鹿島アントラーズ)やレアンドロの力で勝った試合が多かった」

 センターバックを務めるDF岩波拓也がそう語るように、昨季の神戸が強力ブラジル人FWに支えられていたことは否めない。ところが、組織的な守備が整備された今季は一転、「無失点が続いている自信は大きい。先制したら守り切る自信がある」と岩波。「監督がミーティングで話すことを、選手が自信を持って100%取り組めている」という。

 選手たちの変化には、百戦錬磨の指揮官も手応えを感じている。

「試合開始から20〜25分はうちのペース。前からのプレスで相手の動揺を誘うことができた。だが、相手が落ち着くと、徐々に前線から追い込めなくなった。そこからは、(守備ブロックを)コンパクトにして、プレスをかけながらスペースを埋めるという戦い方ができた」

 大宮戦に勝利したあと、ネルシーニョ監督は選手たちが見せた臨機応変な戦術変更について、このように語り、納得の様子をうかがわせた。

 もちろん、ここまですべてが順調に進んできたわけではない。それどころか、開幕戦にして昨季J1得点王のエースストライカー、FWレアンドロが重傷(左ヒザ前十字靭帯損傷で全治約6カ月)を負うアクシンデントに見舞われた。昨季のチーム状況であれば、致命的なダメージである。

 しかし、エース不在の間も粘り強く勝ち星を重ねているうち、若手が台頭。自前の育成組織(神戸U-18)出身の19歳、MF中坂勇哉や、同じく神戸U-18出身(関西学院大を経て昨季加入)の23歳、FW小林成豪が先発メンバーの座をつかむまでになった。


ヴィッセルの中坂勇哉(右)。2試合連続ゴールと活躍。 なかでも、中坂は浦和戦、大宮戦と2試合連続ゴールと大活躍。本人は「まだまだ」と謙遜するが、勝ち続けるなかで、確実にチーム力は底上げされている。こうした好循環こそが、勢いに乗るチームの証(あかし)だ。

 結果的に、今季移籍加入したFW田中順也(柏レイソル→)、FW大槻周平(湘南ベルマーレ→)、MF高橋秀人(FC東京→)らが控えに回ることにはなった。一見すると、移籍による補強策があまり意味をなさなかったようにも見える。だが、ベテランのDF北本久仁衛なども含め、彼らのような実績や経験のある選手がベンチにいることで、試合展開に応じて戦い方の幅が広がるのは間違いない。

 また、長いシーズンのなかでは、負傷者や累積警告による出場停止の穴埋めも、当然考えておかなければならない。そんなとき、彼らは計算できる戦力として貴重な働きをしてくれるはずである。

 ただし、快調に首位を走る神戸にも、ケチのつけどころはある。というのも、ここまでに対戦した相手は下位クラブがほとんどなのだ。5勝した相手のなかで、最上位は9位の清水(第6節終了時順位)。唯一上位同士の対戦となった浦和戦には敗れており、絶好のスタートダッシュも、単に対戦順に恵まれただけと言えなくもない。

 しかし、敗れた浦和戦にしてもネルシーニョ監督は選手のファイティングスピリットを称え、その価値の高さを認めている。岩波もまた、「負けはしたが、完璧に崩されたという感じはない」と振り返り、今季唯一の敗戦も、むしろ選手たちに自信と手応えを与えるものになっていることを裏づける。岩波が続ける。

「もっともっと自信をつけて、上(の順位のクラブ)と対戦したい」

 一戦一戦の戦いに手応えを感じられるからこそ、岩波は「首位はあまり意識していない」とそっけない。ネルシーニョ監督からは優勝するのに必要な勝ち点として「6試合で12ポイント」をノルマに課されていたといい、岩波は順位以上に、監督の要求をクリアできたことに満足感を示す。

 チーム全員の気持ちを代弁するように、キャプテンのFW渡邉千真が語る。

「まだ試合はたくさん残っているので、1試合1試合やっていくしかない。このいい流れを続けていきたい」

 まずは昨季後半の勢いそのままに、抜群のスタートで優勝争いの先頭に立った神戸。1勝ごとに蓄えてきた自信を胸に、これから真価が問われる戦いに挑んでいく。

■Jリーグ 記事一覧>>