内閣支持率と株価を重視する安倍政権は、国民に嫌われる歳出削減や増税に取り組む姿勢が希薄である。「課題先送り」「先楽・後憂」策の典型といえるが、その口実に使われているのがノーベル経済学賞学者のお墨付きだ。資料写真。

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内閣支持率と株価を重視する安倍政権は、国民に嫌われる歳出削減や増税に取り組む姿勢が希薄である。「課題先送り」「先楽・後憂」策の典型といえるが、その口実に使われているのがノーベル経済学賞学者のお墨付きだ。もともと「ノーベル経済学賞」は正式なノーベル賞ではなく、その理論を実践した米政策の多くが失敗している。

◆消費増税「再々延期」を進言か

政府は3月14日の経済財政諮問会議に、ノーベル経済学賞受賞者のジョセフ・スティグリッツ米コロンビア大学教授を招請、日本の経済財政運営の課題を議論した。同氏は経済を持続的に成長させていくために所得の分配を重視すべきだと訴える一方、2019年10月に10%への引き上げを予定する消費増税に言及。「政府債務を減らすための消費増税は逆効果だ」と増税に慎重な姿勢を示した。これに対し、首相は「アベノミクスの政策の考え方と相通じるものがある」と呼応。ノーベル経済学賞受賞者から政権が掲げる「成長と分配の好循環」にお墨付きを得たと誇示する狙いがある。

これは、これまで繰り返された光景と重なる。政府は昨年3月、主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)を控えて世界経済について有識者の意見を聞く「国際金融経済分析会合」を開いた。この時もスティグリッツ教授が出席、「世界経済の弱さ」を理由に、17年4月に予定していた消費税率の10%への引き上げ延期を提言した。政府はその後、増税時期を19年10月に先送りした。

これより先、ノーベル経済学賞受賞者でプリンストン大学教授のポール・クルーグマン氏は14年11月に来日した折、安倍首相と会談し、早い段階で追加の消費増税を行うことのリスクについて警告している。この会談は安倍総理に「再増税見送り→14年末解散総選挙」を決意させるきっかけになった。クルーグマン氏は超大型の財政政策で「重力圏を脱出できるほどの高いインフレ」を起こせと提言している。

◆「窮余の奇策」ヘリコプターマネー論

16年7月には経済学者出身のバーナンキ前米連邦準備理事会(FRB)議長が来日し、安倍晋三首相や黒田東彦日銀総裁と会談したことから、市場では「ヘリコプターマネー政策導入」への思惑が広がった。

空中から地上にばらまくように国民に直接資金を配る「ヘリコプターマネー」論は、バーナンキ氏がFRB入りする前のプリンストン大学教授時代の1999年に、デフレ不況が深刻だった日本での実験を提唱。さらに16年3月に、世界的にデフレ状況から脱却できず、日欧でのマイナス金利も効果を上げていないと指摘、その効用に再び言及した。

同論は減税や特別購入券などで国民に直接マネーをばら撒き、財政の赤字は中央銀行が負担することで、究極的に国の借金までも帳消しに出来る、という甘い構想。しかし巨額軍事支出に伴う財政赤字を戦時国債など大量の貨幣発行で埋め合わせたドイツや日本では世界大戦後、異常なハイパーインフレに陥り、貨幣は紙切れ同然となった。こうした経験からヘリコプタ―マネー論は「天下の奇策」と言われタブー視されてきた。

アベノミクスの行き詰まりを挽回するための「窮余の奇策」と言えるが、市場関係者や内外投資家は「究極のデフレ脱却策になり得る」と期待した。昨年の補正予算は10兆円規模に拡大、17年度予算も史上最大となった。大型財政出動があれば、「政策当局がヘリコプターマネー政策と謳わなくても、実態は近い」と受け止める向きも多い。

岩村忍早大教授は「副作用が大きく麻薬のようなもの。成長戦略推進により実体経済を強化し潜在成長力を高める真っ当な政策を地道に進めるべきで、導入すれば取り返しのつかないリスクに陥る」と警告している。

ノーベル経済学賞学者から次々と繰り出される理論に翻弄されているためか、「日本は米本国で相手にされない学者の実験場と化している」と揶揄されている。安倍政権が、日本人のノーベル賞好きにつけ込んで、“露払い”役として米学者を活用し、メディアが大きく扱うのは異常としか言いようがない。無責任な外国籍の学者の進言は、日本国債や円の暴落、急激な物価上昇という形で国民生活を直撃するリスクがある。(八牧浩行)
<続く>