(左)『決定版 田中角栄名語録』小林吉弥(著)/セブン&アイ出版(右)『“トークの帝王”ラリー・キングの伝え方の極意』ラリー・キング(著)/ディスカヴァー・トゥエンティワン

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■ブームは続くものの売れ筋本には変化あり

2010年の『超訳 ニーチェの言葉』刊行以来、言葉や話し方をテーマにした本のブームは息長く続いている。出版コンサルタントとして長年ビジネス書を研究してきた立場から見ると、売れ筋本には、世の中の流れや思潮が反映されている。

最大のポイントは、SNSに象徴されるコミュニケーションスタイルの変化にある。少し前ならコミュニケーションをテーマにしたビジネス書のほとんどは、それを「目的を達成するための手段」として扱っていた。だが今は、そこにいるみんなが楽しみ満足できるような「いいコミュニケーションを培うことそのものが目的」となっている。

自由なコラボレーションから新しいビジネスが立ち上がるこの時代にあって、一流のビジネスパーソンほど、打算や下心が見える言葉や話し方を嫌う。利害抜きで面白い、一緒に何かやってみたい信頼できる人物と、あなた自身が見なされることはきわめて重要だ。そこで問われるのは、利害のからまない雑談の上手さや、高い所からではなく共感を通じて志を伝える能力である。

そうしたコミュニケーション能力を磨くために、役に立ちそうな本をいくつか紹介してみたい。

まずお勧めしたいのは、『“トークの帝王”ラリー・キングの伝え方の極意』だ。アメリカの人気トーク番組『ラリー・キング・ライブ』の司会者として、ニクソン以降のすべてのアメリカ大統領、さらにネルソン・マンデラからレディー・ガガに至る4万人以上の有名人にインタビューを行った、カリスマ的話し手の自著である。

綺羅星のような極上のゲストたちのトークを実例として紹介しながら、「達人は『独自のものの見方』をする」「達人は『他人から学ぶ努力』をする」など、キング自身が考える話の極意を体系立てて整理していく。登場するエピソードの面白さは折り紙つき。何よりも読んでいて勇気が湧いてくる。

次にあげたいのが、『決定版 田中角栄名語録』。人心掌握の天才といわれた大政治家の発言集である。

角栄氏関連の書籍は最近ちょっとしたブームだが、先のキング氏の本同様、本人の言葉に触れられるところに価値がある。(二世議員や官僚に話しかけるとき)「君の親父さんはね、こういう男だった」「男が恥を忍んで頭を下げてきたらできるだけのことはしてやるものだ」など、腹にずしりと来る「本物の言葉」がぎっしり。今の世の中で必要とされる、心をつかむ話し方の、圧倒的な手本といえる。

■伝わる言葉を選んでビジネスを動かす

言葉の魅力という意味では、『魔法のコンパス』にも注目したい。お笑いコンビ「キングコング」の西野亮廣さんの本だが、この人はビジネスの原理原則をすべて理解したうえで、一般読者に「届く言葉」でそれを語っている。

たとえば、「僕らの身の回りには『取りこぼし』がまだまだ間違いなく残っていて、世の中はもっと面白くなる」。

「ニッチ」といったビジネス用語を一切使わず、読み手の認識の中にある言葉だけを使って、高度な概念を説明している。しかも言葉が前向きだから、伝わりやすい。この伝え方をできるビジネスマンが増えれば、日本はすごいことになる。

8年足らずで売り上げ70億円の企業にまで成長したイギリスのクラフトビール会社、ブリュードッグの創業者による『ビジネス・フォー・パンクス』も、言葉の力にうならせられる本だ。

「会社は失敗する。会社は死ぬ。会社は忘れられる。だが、革命が死ぬことはない。だったら会社ではなく、革命を始めればいい」と、冒頭からものすごい。起業には明確な目的と使命、存在理由が求められる時代なのだという認識を、ベンチャー魂に満ちた言葉で語る。それでいて、「パンク起業家のための財務用語集」「キャッシュこそ絶対王者だ」など、非常にまっとうな部分があるのも面白い。ビジネスへの情熱を忘れかけたとき、ぜひお勧めしたい一冊だ。

■【初心者にぴったり!“雑談力本”ベストセラーの系譜】

誰とでもつながれるSNS社会では、いろいろな人と友達になれるスキルが大事。話し方、特に雑談力が注目されるのはそのため。売れ筋本にはベーシックな内容の良書が並ぶ。

◆『雑談力が上がる話し方』齋藤 孝(著)/ダイヤモンド社
◆『聞く力』阿川佐和子(著)/文藝春秋
◆『会話がとぎれない! 話し方66のルール』野口 敏(著)/すばる舎
◆『伝え方が9割』佐々木圭一(著)/ダイヤモンド社
◆『なぜ、この人と話をすると楽になるのか』吉田尚記(著)/太田出版
◆『超一流の雑談力』安田 正(著)/文響社

■【土井氏お勧め“話し方本”の名著10選】

▼「言葉の魅力を会得できる本」編

『魔法のコンパス道なき道の歩き方』西野亮廣(著)/主婦と生活社
ビジネスの原理原則への深い理解と、卓越した言葉選びのセンス。いわゆる『タレント本』の域を完全に超えています

『アート・スピリット』ロバート・ヘンライ(著)、野中邦子(訳)/国書刊行会
画家のエドワード・ホッパーやマン・レイを育てた名教師の熱血芸術指南書。これからのビジネスにはアート魂が必要

『かもめのジョナサン 完成版』リチャード・バック(著)、五木寛之(訳)/新潮社
本当に仕事ができる人は、仕事そのものを楽しみ、挑戦のためには孤独も恐れない。そう、ジョナサンのように

『たった一人の熱狂 仕事と人生に効く51の言葉』見城 徹(著)/双葉社
落ち込んでいるときにも魂を鼓舞してくれる苛烈な言葉の数々。成功する人の言葉とはこういうものだと納得します

『ビジネス・フォー・パンクス』ジェームズ・ワット(著)、高取芳彦(訳)/日経BP社
イギリスのクラフトビール会社創業者による、ベンチャー魂あふれる強烈な一冊。言葉はとことんパンク、内容は真摯

▼「話し方がわかる本」編

『“トークの帝王”ラリー・キングの伝え方の極意』ラリー・キング(著)/ディスカヴァー・トゥエンティワン
稀代の名司会者による話し方講座。彼が出会った超一流のゲストたちの優れたトークの実例と、その分析が秀逸です

『決定版 田中角栄名語録』小林吉弥(著)/セブン&アイ出版
※セブン−イレブン、オムニ7(セブン-イレブンの通販サイト)で販売
ブームの『角栄本』の中でも、本人の言葉が中心という点で一押し。一つ一つの言葉がけが深く、重みがあります

『その話し方では軽すぎです! 大事な人に会う15分前の「話し方レッスン」』矢野 香(著)/三笠書房
言葉遣いがいい加減では、話の中身の信頼度まで疑われます。NHK直伝の正しい日本語表現を徹底解説した一冊

『TED TALKS』クリス・アンダーソン(著)、関 美和(訳)/日経BP社
多くの仕事がフリーランス化していく中、人前で自分のアイデアや理念を語る技術はますます重要になると思います

『ある広告人の告白[新版]』デイヴィッド・オグルヴィ(著)、山内あゆ子(訳)/海と月社
現代広告の父による偉大な古典。実践的な話を、これだけユーモアとウィットに富む表現で語る才能に圧倒されます

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土井英司
出版マーケティングコンサルタント。エリエス・ブック・コンサルティング代表取締役。多数の著者をプロデュースし、『人生がときめく片づけの魔法』は158万部を突破。ビジネス書評家でもあり、日刊書評メールマガジン「ビジネスブックマラソン」編集長を務める。
 

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(出版マーケティングコンサルタント 土井英司 構成=川口昌人 撮影(本)=早川智哉)