日本電産 永守重信社長(写真=gettyimages/Bloomberg)

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■困難から逃げるとどうなるか?

永守社長から私宛に届いた何百通ものファクスの中で、いつまでも忘れていたくないと思う言葉の1つがこれです。

「君な、向こうから困難サンがやって来たとしよう。困難サンが、向こうからトコトコ、君のほうにやって来たと考えてみなさい。君としては『嫌だ嫌だ』という気持ちだろう。困難サンから逃げたいと思うだろう。で、逃げる。横に避ける。そうしたら、困難サンはすーっと脇を通りすぎていくだろ。

その瞬間、通りすぎる困難サンの背中をちょっと見てみたら、君、背中には解決策というリュックを背負っているではないか。だから、困難から逃げるということは、結局、解決策も逃がしちゃうということなんだよ」

これが永守社長から聞いた解説です。

赤字企業を再建するには、とにかく大変な困難を伴います。ゼロどころかマイナスからのスタートなのですから、困難の連続です。私自身も日曜日も会社に出て、誰もいないガランとした事務所で1日中データを眺めながら、資金繰り対策として、何かヒントになるものはないかと、必死に考えていました。そんなときに届いたファクスの言葉です。

人間、追い込まれたときには、なかなかポジティブな思考には向かいません。事務所に届いたファクスの中のこの言葉に、じっと目を凝らします。すると、私の心の中でもう1人の私が、「困難から逃げてもどうせ解決策がないなら、いっそのこと困難とがっぷり4つになってみろ。もっと自分に自信を持て」と言っているのが聞こえます。

よし分かった。明日もう1度、幹部を集めてゼロベースで検討会をやってみよう。心に1本、筋が通った気がして、夕闇が迫る事務所を後にすることができました。

■逃げなかったから得られたもの

わが身を振り返って、困難から逃げなかった例を挙げておくと、部品メーカーからの仕入価格の値下げ交渉に関し、こんなことがありました。私が掲げた価格目標は従来から15%の大幅削減。常識的には、相手はとても呑めない高いレベルです。担当部署が一生懸命あれこれ頑張ったものの、目標には到底及びません。

しかし、会社再建のためには絶対達成しなければならない目標。そこで私は自ら相手企業を訪ねたのです。トップとしての裁量を武器に必死に交渉した結果、ついに相手の社長さんの了解を得ることができました。

そのとき、相手の社長さんに言われた一言が、いまでも印象に残っています。

「今日、あなたは徒歩で来られましたね」

相手企業の所在地は福井県。片田舎の駅を降りて、私は歩いて行きました。普通なら社有車を出して、部下に運転させて行きたいような遠隔地です。しかし私は、社員には「俺1人で行く。車を出せば無駄な経費がかかるし、君たちも一緒についてくるような時間があったら、そのぶん別の会社に行って値下げ交渉をやってくれ」と言い置いて、1人きりで交渉先に向かったのです。

相手の会社は、門を入ると社屋に到達するまでに、しばらく道があります。その道を歩いて玄関に着いた私は、受付のブザーを押しました。その様子の一部始終を、相手の社長さんは社長室から眺めていたのでしょう。それが先ほどの一言につながったのです。その社長さんはさらにこう述べられました。

「実は2、3日前には御社のライバル会社の社長さんが、やはり値下げ交渉に来られたんですよ。ただし、黒塗りの運転手付きの車で来られました。そして値下げしてくれと言う。私は全然返事をしませんでした。黒塗りの運転手付きの車で来るような余裕のある会社に、なんでウチのような、吹けば飛ぶような中小企業が、値下げ協力しなければならないんですかね。

ところが、今日あなたは1人で、徒歩で来られた。びっくりしました。先ほどからお話を聞いて、あなたの必死な気持ちと姿勢が、よく分かった。だからこちらも協力しようという気持ちになって、OK したのです」

この社長さんも、永守社長と同じ視点を持ち、相手を判断していたのでしょう。困難から逃げずに真摯に立ち向かったことで得ることができた結果でした。

※本記事は書籍『日本電産永守重信社長からのファクス42枚』(川勝宣昭著)からの抜粋です。

(経営コンサルタント 川勝宣昭=文 gettyimages/Bloomberg=写真)