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「ムッシュー、ここでは洗濯物を窓から干しちゃダメよ。世界遺産の景観を乱さないでちょうだいね」。思い返してみると、フランス・リヨンが世界遺産であることを知らせるものは、大家さんであるマダムのこの言葉だけでした。1年間留学していた街が世界遺産であることを認識したのは、帰国してしばらく経ってからのこと。

○世界遺産にまつわる妄想トーク始まります!

そんな世界遺産のありがたさを知らずにいたわたくし、フランス生活における数多のアヴァンチュールで身につけた(?)フランス語力を買われ、世界遺産検定事務局の編集部員をしています。この度、世界遺産アカデミーの本田陽子研究員よりバトンを託され、60回を超える長期連載を引き継ぐことになりました。

これまでとはちょっと構成を改めまして、毎回架空の旅行人に登場してもらい、訪れた世界遺産の感想を語ってもらいます。その中からキーワードを取り上げ、独断と偏見に満ちた語句解説を行います。これで世界遺産に「行った気に」なっていただけると幸いこの上ないのですが……。

今回の舞台はフランス第3の街・リヨン。リヨンの人間から言わせればフランス第2の街とのことですが、街の規模や人口では第3の都市となります。1番はもちろんフランス北部のパリ、2番はブイヤベースで知られる南部の港町マルセイユ。リヨンはフランスの東、この2都市のほぼ中間に位置する内陸の街です。ここを旅してきたのは、31歳の会社員男性。入社2年目の後輩社員に、先日のリヨン旅行を語っています。

○31歳会社員男性、リヨン旅行をかく語りき

「まずね、到着した空港の名前がいいんだよね。リヨン・サン・テグジュペリ空港。えっ何それって? サン・テグジュペリは『星の王子さま』の作者だよ。リヨン出身ということで空港の名前になってるんだって。こないだ合コンした仏文科の女子大生も、この本を読みたくてフランス語の勉強をしてるって言っていたな。

旧市街は世界遺産になっているらしく、大聖堂のある石畳の古い街並みはこれぞヨーロッパ!って感じ。リヨンは美食の街と言われていて、小さいレストランがひしめきあう様はまた雰囲気がいいんだ。丘の上にフルヴィエール聖堂という白い教会があって、その高台からリヨンの街が一望できるんだけど、大きい川が2本流れてるんだ。ローヌ川とソーヌ川。

これ、遠藤周作の『深い河』にも出てくる河だな。えっ何それって? 宇多田ヒカルのアルバム『Deep River』の元ネタになった小説だろうが。えっそのアルバムを知らないって? ジェネレーションギャップすごいな。宇多田は『Fantome』だけじゃないんだから。1枚目のアルバムは日本で一番売れたCDで、当時は……」

と話が彼の青春時代に移ったところで、用語解説いってみましょう。

○今回の押さえておきたい用語たち

到着した空港の名前がいい
ヨーロッパではしばしば偉人の名前が空港や駅名になる。日本的には「やなせたかし空港」という感じか。

サン・テグジュペリ
フランスの小説家にして飛行士。1900年リヨン生まれ。代表作は『星の王子さま』『夜間飛行』など。愛称は「サンテックス」。

仏文科の女子大生
フランス文学の入り口が『星の王子さま』だという日本人は男女問わず多い。児童書なので易しく読めると思われがちだが、やや進んだ文法が用いられており、原語で読むなら相応のフランス語力が必要。ちなみに、仏文科の女子と合コンすることがあったら、サン・テグジュペリを話題にして、さらりと「サンテックスが好きなんだ」と言えば勝率が上がる。

旧市街は世界遺産になっている
登録遺産名は「リヨンの歴史地区」。旧市街はヴュー・リヨン(Vieux Lyon: Old Lyonの意)と呼ばれる地区で、世界遺産登録範囲のほとんどに相当する。ぶらぶら散策するだけでもタイムスリップ感を味わえる。

大聖堂のある石畳の古い街並みはこれぞヨーロッパ!
地下鉄のヴュー・リヨン駅から徒歩すぐのところにゴシック建築のサン・ジャン大聖堂がある。内部には1379年に作られたヨーロッパ最古の天文時計があり、こちらも必見。

美食の街
リヨンのレストランや食文化は世界的に有名。シェフやパティシエ修行に滞在する日本人も多い。2年に一度パティシエの世界大会が開催される。パティシエの人と合コンすることがあったら、リヨンの話をすればつかみはOKだ。

小さいレストランがひしめきあう
郷土料理を出す親しみやすい小規模レストランが旧市街に乱立しており、「ブション」と呼ばれている。ブションはワインのコルク栓のことで、ぎゅうぎゅうに小さなレストランが密集している様からこの名がついた。おいしい店が多いが、ハズレもあるので(そして、外した時の心理ダメージも大きいので)ガイドブックか地元民のオススメに従おう。

フルヴィエール聖堂
高台にあって、リヨンのどこからでも見える街のシンボル。旧市街からは歩いて上ることもできるが、体力に自信がなければケーブルカーを使おう。展望台からは街が一望できるリヨン観光の定番スポット。筆者は留学時代、毎日のように自転車で上っていた。当時ルームシェアをしていた同居人は後年、この展望台でプロポーズをしたとのこと。ロマンチック。

ローヌ川とソーヌ川
この2本の川の合流点にあるため、リヨンは古代から交易の要所として栄えてきた。ローヌ川は地中海まで流れる大河川で、下流のアルルではゴッホが「ローヌ川の星月夜」を描いた。

遠藤周作の『深い河』
戦後に国費留学生としてリヨンに留学していた遠藤周作の作品には、しばしばリヨンの街やソーヌ川などが登場する。芥川賞受賞作『白い人』の舞台は「リヨンの歴史地区」の範囲内。

『Fantome』
2016年発売の宇多田ヒカル8年ぶりのアルバム。活動休止中に勉強していたというフランス語を楽曲中に聞くことができる。

○世界遺産データ

『リヨンの歴史地区』。文化遺産。1998年登録。フランス

○地図

○筆者プロフィール: 小俣 雄風太(おまたゆうた)

「世界遺産検定」事務局の編集広報部員。自転車ロードレースに魅せられ、本場フランスに1年留学。その後、イギリスのサイクリングアパレルブランドで広報を務め、世界各地で自転車に乗るうちに世界遺産を強く意識するようになる。検定を通じて世界遺産の魅力と意義を広めたいと奮闘中。
○世界遺産検定とは?

世界遺産の背景にある歴史、文化、自然等の理解を深め、学んだことを社会に還元していくことを目指した検定。有名な観光地のほとんどは世界遺産になっているため、旅の知識としても役立つと幅広い世代に人気。
主催: 世界遺産アカデミー
開催月: 3月・7月・9月・12月(年4回)
開催地: 全国主要都市
受検料: 4級3,000円、3級4,500円、2級5,500円、1級9,700円、マイスター1万9,000円、3・4級併願7,300円、2・3級併願9,500円
解答形式: マークシート(マイスターのみ論述)
申し込み方法: インターネット又は郵便局での申し込み
その他詳細は世界遺産検定公式WEBサイトにて。
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(小俣雄風太)