忽那汐里(写真=林直幸)

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 伊藤淳史主演映画『ねこあつめの家』が公開中だ。本作は、1,900万ダウンロードを記録したゲームアプリ「ねこあつめ」を実写映画化したもの。若くして新人賞を取り人気作家になったものの、現在は大スランプ中の小説家・佐久本勝が、執筆に行き詰ったことをきっかけに作った奇妙な庭と、そこに集まる猫たちの様子を描く。佐久本勝役の伊藤淳史をはじめ、熱血編集者のミチル役を忽那汐里、不思議な不動産業者を大久保佳代子、ミチルの先輩編集者を田口トモロヲがそれぞれ演じている。

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 リアルサウンド映画部では、本作のヒロイン・編集者ミチル役の忽那汐里にインタビュー。本作への出演の経緯や女優としての現在地、海外作品と日本作品、両方に出演して感じたことなどを語ってもらった。

■忽那「信じられるかどうかを大切にしている」

ーー『女が眠る時』(2016年)ではウェイン・ワン監督のもとでビートたけしさんとの共演を経験、そのほかアニメーション映画『KINGSGLAIVE FINAL FANTASY XV』(2016年)の声優や、ジャレッド・レト主演作『ジ・アウトサイダー(原題)』(2017年)のヒロイン役でハリウッドデビューするなど、様々なジャンルの作品に挑戦している印象があります。『ねこあつめの家』は、前述した作品とはまた方向性の異なる映画だと思うのですが、出演作はどのように決めているのですか?

忽那汐里(以下、忽那):自分に影響を与えてくれたり、学んだりできる作品は様々なので、単純に役柄だけで選ぶことはないですね。個人的な感覚ですが、ひとつでも信じられるものがその作品にあるのか、そこの判断はいつも大切にしています。それは自分が演じてみたい役柄であったり、一緒に映画を作ってみたいスタッフや役者の方、作品に込められたメッセージなど……些細なことでも構わないのですが、なにかしら目的を持って演技に臨むことができないと、結局どこに向かって頑張れば良いのかわからないですし、お芝居をしている意味も見失ってしまいます。自分にとって大事だと思えるものがあるからこそ、そこに私が演じる意味も生まれてくると思っています。

ーー本作への出演の決め手は?

忽那:やっぱり“猫”は決め手になりました。猫好きなので。でも、もちろんそれだけじゃないです(笑)。スランプに陥った小説家と彼を支える若手の編集者、それぞれの人間ドラマがしっかり描かれているところにも魅力を感じました。人生に立ち止まってしまった主人公が、猫をきっかけに新しい場所へと踏み込んでいく。きっと人生でうまくいかないことは誰にでもあると思います。主人公の背中を押してくれる“猫”のような存在も、人それぞれ置き換えることができます。タイトルだけ見ると猫が主人公の作品に見えますが、みんなが共感してしまうメッセージ性やドラマが詰まった作品だと思います。あと、伊藤淳史さんとの共演も参加を決めた理由のひとつです。

ーー佐久本勝役を務める伊藤淳史さんとの共演は初めてではないですね。

忽那:伊藤さんは一緒に仕事をすると本当に楽しい方なんです。エッジの効いたツッコミもツボでした(笑)。私はけっこう人見知りをしてしまうんですけど、珍しく短期間で仲良くなることができた役者さんです。(伊藤は)周りへの配慮が行き届いていて、どんなに現場が大変な状況であっても、必ず周りにいる人の意見を聞いてくれます。仕事に関しては私もきちんと話し合いたいタイプですが、相手の様子を窺いながら上手に話すのが苦手で、思ったことを包み隠さず全部話しちゃうんですよ。その点、伊藤さんは感情的にならずに冷静な判断ができる方なので、そういうところはフォローしていただきました。

ーー本作で演じる十和田ミチルは、設定だと情熱のある若手編集者でした。ただ、どちらかというと落ち着いた演技をしていた印象があります。

忽那:設定だけ見ると、仕事はできないけど情熱でなんでも押し進めてしまう、厚かましいキャラクターになりがちな役だと思います。いつもせわしなくあたふたしている、よく見る新人編集者のような。でも、私としては、絶対にそういう風には映らないように気をつけました。ミチルにとって佐久本は特別な存在です。自分の人生に影響を与えた人物ですから。ふたりの関係性を考えると、仲のいい友達やパーソナルスペースにグイグイ入っていくようなキャラは違うなって。越えてはいけない一線をミチルは心得ています。そんな彼女と佐久本の繊細な距離感は出せたかなと思います。

ーーミチルはクールに見えて実は情熱を抱いているタイプでしたが、忽那さん自身はどうですか?

忽那:ふと仕事のことを考えた時、自分が思っている以上に役者の仕事を好きなんだなって最近思います。仕事とは関係なく映画はよく観てますし、何気ない日常の中に素敵なシーンを見つけたら、こういうシーンの映画があったらいいなって無意識に考えているんですよ。ずっとそんなこと考えるタイプだとは思っていなくて、気付いた時は自分でも意外でした(笑)。

ーー自分を省みることはよくあるのですか?

忽那:最近になって考えることが増えたかもしれません。なにかが起きたというよりも、単純にいろんなことを考えられる時間ができたからだと思います、たぶん。役者のお仕事はやっぱり特殊な仕事で、次にどんな仕事が待っているのか全然予想ができないんですよ。5年先や10年先の見通しがまったくつかない。そういう仕事をする中で、年齢や将来のこと、あとオフの時の過ごし方とか、これから先いろんな変化が訪れると思うのですが、そことどう向き合っていくべきなのかを考えたりもします。悩んだところで実際に悩みが解消することはないのですが、頭の中でどこに向かいたいのか理解するだけで、心境はまったく違うものになりました。数年前までは、自分がこの仕事をどのくらい続けていきたいのかなんて考えたこともなかった。でも、自分のやりたいことも分からずに仕事をしていた頃は、ものすごい不安でした。今は少し分かり始めて、安定している感じはあります。

ーー悩んでいたミチルの背中を押したのは、佐久間の小説でした。忽那さんにとって、背中を押してくれるようなものはありますか?

忽那:日本に来た頃は、椎名林檎さんの曲が支えになっていました。きっかけはあまり覚えてないのですが、椎名さんの書く曲や歌詞に衝撃を受けてずっと聴いてましたね。少し昔の日本の言葉を使ったり、ユニークな言葉の使い回しとか、洋楽ではああいうスタイルの音楽はあまりなかったんですよ。特に、オーストラリアに住んでいた頃は、大衆的な音楽や映画にしか触れていなかったので、ああいう退廃的な世界を知ったのは衝撃的でした。その影響でどんどん音楽や映画の趣味がアンダーグラウンドの方に向かってしまいましたが(笑)。日本に来た当初は日本語もうまくなかったので、ひとりで過ごすことも多くて。これはあくまで個人的な解釈ですが、まわりに理解されなくても大丈夫、と椎名さんが歌っているような感じがして、当時の自分にはそこが一番居心地の良い場所で救いでした。もちろん、今は全然そういう気持ちはありませんよ(笑)。

ーー『黒衣の刺客』『女が眠る時』『ジ・アウトサイダー(原題)』といった海外作品への出演にも意欲的ですね。日本と海外作品で違いを感じることはありますか?

忽那:もともと異国の人と生活することに慣れていたので、そこに新鮮味や抵抗感みたいなものはないですし、製作過程も日本の作品と大きく変わらないと感じました。『ジ・アウトサイダー(原題)』の現場では、監督の演出に戸惑うこともありました。監督のスタイルもあると思いますが、同じシーンでもとにかく多くのバリエーションを求められました。単純に演技に強弱をつけるのではなく、キャラやシーンの根底を覆す新しいアプローチを求めてきます。緊迫しているシーンなのに、おどけてみせるような発想がまずないですからね。とにかく柔軟になろうと意識しました。最初は監督の策略だと思っていたんですよ。けど、途中からどうやらそうではないなと気付きました。とにかく可能性を残して、最後に編集でビシッと決めてくれるんだと思います。そういう違いはあるものの、みんなで同じ方向を見て良い作品を作るためにベストを尽くすのは、日本も海外も変わらないですね。

ーーいろんな国から人が集まると、まとめ上げるのが大変そうです。

忽那:国籍がわかってもそれぞれの文化や暮らし方はわからないですからね。トルコの方と撮影をした時はなかなか大変でした。周りにイスラム教の方が多かったのですが、いままでイスラム教の方に触れ合ったことがなかったので、何を大事にしているのかわかりませんでした。表現や思想の違いによって、様々な国の方が集まると衝突は多くなります。でも、その分話し合うので奥深い文化の交流が生まれます。それぞれのエッセンスが自然に映画に落とし込まれていくので、味わい深い作品が生まれるのかもしれません。

ーーハリウッドデビューしたということもあって、今後も挑戦は続きそうですね。

忽那:入り口ができたと思っているので、挑戦は続けていきたいですね。常に自分の居心地のいい環境でやるよりも、新しいことに挑んでいきたいという気持ちが強いです。これからもいろんな作品に挑戦できればと思いますが、まずは『ねこあつめの家』を楽しんでいただきたいですね。(泉夏音)