『ブルーハーツが聴こえる』より優香主演の『少年の詩』 (C)SHAIKER

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…前編「資金難を克服してついに公開〜」より続く

【映画を聴く】『ブルーハーツが聴こえる』後編
生きることを肯定するスピリットでつながれた6編

中心メンバーの甲本ヒロトと真島昌利は、1995年のザ・ブルーハーツ解散後もTHE HIGH-LOWS、ザ・クロマニヨンズとして活動を共にしている。ロックバンドとしての潔さを作品と活動スタンスの両方で実践する人たちなので、ブルーハーツの楽曲が現在の彼らのステージで演奏されることは皆無だが、本作でモチーフとして選ばれた6曲をはじめ、「青空」「TRAIN-TRAIN」「リンダ リンダ」「終わらない歌」など、多くの曲が今や日本のロックのスタンダードとして聴き継がれるものになっている。

本作で取り上げられた楽曲について触れると、「ハンマー(48億のブルース)」は1987年の自主制作シングルのB面としてリリースされた曲で、A面は同じく本作で取り上げられた「人にやさしく」。「ラブレター」はメジャー4枚目のシングルで、アルバム『TRAIN-TRAIN』に収録されている。「少年の詩」は1stアルバム『THE BLUE HEARTS』の収録曲。『ジョウネツノバラ』という表記になっている「情熱の薔薇」は、唯一オリコンチャートで1位を記録した後期の代表曲だ。「1001のバイオリン」は6作の中では出典がもっともマニアックで、「1000のバイオリン」というシングル曲のカップリングに収められた別バージョン。タイトルにちなんで、同曲のバックトラックがフルオーケストラに差し替えられている。各曲の作詞・作曲は、「ハンマー」と「1001のバイオリン」は真島昌利、それ以外の4曲が甲本ヒロトによるものだ。

尾野真千子が同棲相手に浮気される28歳の家具職人を演じる『ハンマー(48億のブルース)』、異色のSFドラマに仕立てられた『人にやさしく』、斎藤工と要潤が高校時代にタイムスリップしてしまう『ラブレター』、永瀬正敏はいっさいセリフなし、水原希子は亡骸での出演という『ジョウネツノバラ』など。どの作品も監督のカラーとブルーハーツの楽曲が混ざり合って面白いが、個人的に強く印象に残ったのは、優香がシングルマザーを演じる『少年の詩』と、豊川悦司が福島原発の元作業員を演じる『1001のバイオリン』の2作。

『少年の詩』は、8mmフィルムで撮影されたような輪郭の柔らかな映像がノスタルジックな余韻を残し、『1001のバイオリン』は、“3.11”の爪痕を生々しく描く。特に後者は『怒り』も記憶に新しい李相監督のエモーショナルな作風を優しく包み込む伊藤ゴローの劇伴も美しく、6編の締め括りに相応しい。

「キスしてほしい(トゥー・トゥー・トゥー)」という曲の中で、甲本ヒロトは“生きているのが すばらしすぎる”と歌っている。ブルーハーツの曲は、生きることの喜怒哀楽をもれなく題材とし、それらすべてを受け入れて肯定する。そのスピリットは本作に収められた6編にも確かに受け継がれていて、それがこれらのエピソードを力強くつないでいる。繰り返しになるが、古くからのファンはもちろん、彼らの音楽を聴いたことがないという人にも見ていただきたい作品である。(文:伊藤隆剛/ライター)

『ブルーハーツが聴こえる』は全国公開中。

伊藤 隆剛(いとう りゅうごう)
ライター時々エディター。出版社、広告制作会社を経て、2013年よりフリー。ボブ・ディランの饒舌さ、モータウンの品質安定ぶり、ジョージ・ハリスンの 趣味性、モーズ・アリソンの脱力加減、細野晴臣の来る者を拒まない寛容さ、大瀧詠一の大きな史観、ハーマンズ・ハーミッツの脳天気さ、アズテック・カメラ の青さ、渋谷系の節操のなさ、スチャダラパーの“それってどうなの?”的視点を糧に、音楽/映画/オーディオビジュアル/ライフスタイル/書籍にまつわる 記事を日々専門誌やウェブサイトに寄稿している。1973年生まれ。名古屋在住。