なぜ猫に癒される?セラピー猫・ヒメちゃんの活躍

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 猫ブームと言われる昨今ですが、その裏で地道に広がってきている「セラピーキャット」をご存知でしょうか。

 ノンフィクション作家の眞並恭介さんが、日本ではまだ珍しいセラピーキャットを取材して上梓した本が『すべての猫はセラピスト 猫はなぜ人を癒やせるのか』です。

◆セラピーキャット「ヒメ」

 東日本大震災から約2年が経過した2013年、福島県の特別養護老人ホームで動物に触れ合うアニマルセラピーが行われました。被災による辛さは想像を絶するものですが、同書によると、猫を抱いて撫でるだけで、沈んだ表情だったお年寄りたちから笑みがこぼれたといいます。この施設では、アニマルセラピーによって、入居者の身体を動かす意欲や生活リズムが生まれるなど、著しい効果が得られたそうです。

 本書の表紙にもなったヒメという白猫は、セラピーキャットの先駆猫。同書には写真もたくさん載っていて、ヒメはただ無垢な目を向けて人々に寄り添い、やわらかい肢体をあずけています。そんなヒメを抱く人々からは、切ないような幸福感があふれているのです。

 私も猫を飼って2年になりますが、飼う前は愛猫の写真をSNSにアップする人々を冷笑していました。ところが、やむを得ない理由でしぶしぶ猫を飼い始めた自分が、日々猫に癒されるという意外な結果に。自らの心変わりを例にとっても、空前の猫ブームは荒涼とした世相の裏返しとも言えるのではないでしょうか。

 本書は原発事故のあと行われた、認知症、障がい者、精神疾患などの方々への、猫によるセラピーについて綴られています。

「猫はなぜ人を癒せるのか」を追究する中、眞並さんは過去のある研究データを紹介しています。

「重篤な心疾患で入院後、自宅に戻った患者の1年後の生存を調べた報告。動物を飼っていなかった人は、飼っていた人よりも、死亡率が4倍高かった」(1980年、メリーランド大学、ERIKA FRIEDMANN, PhD)

 動物を飼えば長生きするという見方は単純すぎるでしょうが、動物を飼っていることで生まれる責任感が生命力につながる場合もあるでしょう。

 また、人と動物が触れ合うことで脳内からオキシトシンという「癒しのホルモン」が分泌されるというデータも本書に記されています。

 これまた私の体験談で恐縮ですが、言葉を話さない猫が私の脚に頭をこすりつけて餌をねだる仕草や、唐突に向けられる澄んだ目…特に精神的にまいっている時など、心がとろけてしまうのです。いささか自分勝手な思い込みではありますが。

 本書に登場する獣医師も「動物と人間は不思議なもので、たった1秒で心が触れ合えてしまうのです」と語っています。

◆猫は天性のセラピスト

 一般にペットとされる動物の中で、猫は孤高です。飄々とひとり遊びに興じ、放っておいてもさほど寂しがらない。本書でも指摘されていますが、本来、猫はセラピーアニマルには不向きなのです。なぜなら犬のように訓練ができないから。でも、だからこそ、気まぐれな猫が膝に乗ったり、無防備に喉を鳴らしたりするだけで、弱った人々の心に染み入るのかもしれません。

 アニマルセラピーの研究者で精神科医の横山彰光さんが、学生に、猫か犬かどちらでもいいから黒板に描くよう指示したところ「9割が猫を描いた」という驚きの結果もあるとか。「猫の顔は人間に似て平面で描きやすい」というのが横山氏の考察ですが、これもまた猫に対する親近感の裏付けになりそうです。

 最後に眞並さんは「猫は天性のセラピスト」だと書いています。

 モフモフした身体をまるごと投げ出して、人と体温を分け合ったかと思うと、さっとジャンプして逃げる。人も猫も孤独だけど、たまにはくっついてもいいよ、でも密着しすぎるのはお互いのためにならないよ……まるで人生の教訓をくれるような、アメとムチの使い分けも、猫は絶妙だったりするのです。

<TEXT/森美樹>
●森美樹:1970年生まれ。2013年、「朝凪」(改題「まばたきがスイッチ」)で第12回「R-18文学賞」読者賞受賞。同作を含む『主婦病』(新潮社)を上梓。最新刊『幸福なハダカ』(同)が発売に
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