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カンヌへと向かうルート・デ・ラ・コーニッシュ。レーストラックを走るかのように自在に駈け抜ける2台の驚くほど魅力的なクーペは、史上最も洗練されたGTカーだ。ラス・スミスが試乗するが、優劣をつけるのに苦労する。

フェラーリ250GT SWBとアストンDB4GTの2台は、恐らく、資金力のあるお金持ちが日曜日にレースに出場し、平日はゼッケンを外し、自分たちのおもちゃを驚くほど魅力的なGTカーとして運転していた時代の終わりを迎えて以来、最も価値のあるクルマとして1、2を争ってきたのではないだろうか。

この2台は、現代のコレクターのあらゆる願望を満たす超1級のアイテムだ。高級さ、レースにおける実績、戦慄するような美しさ、輝かしいオーナー履歴、そして花形ドライバーたち。また、そのデュアル・パーパスに奉仕してきた実績は、現在も、レースと公道というふたつのニーズに応え続けることで揺るがない。いずれのクルマも、グッドウッドTTレースなどのサーキット・イベントが行われていた時期にレースで活躍した。グッドウッドでは、サー・スターリング・モスがハンドルを握ったフェラーリ250GT SWBが(1961年と1962年の)2度優勝し、現在も、グッドウッド・リバイバルの同じレースでグリッドにつけている。また、モスは、グッドウッドでDB4GTも走らせ、1960年のイースター・ミーティングでフォードウォーター・トロフィーに輝いている。

本格的なレースからシャンパンを飲みながら楽しむ高級ツアーやコンクールの世界まで、アストンとフェラーリは、オリジナルで7桁以上の価値を見せつけるかのようにその華麗な姿を見せる。また、雑誌の「ドライバーにとっての史上最高のクルマ」、「最も美麗なクラシックカー」といった特集を見れば、そこには決まってアストンとフェラーリが顔を出す。血気盛んなエンスージアストなら、誰もが、このどちらか、できれば両方を自分のガレージに並べることを1度は夢見たことがあるに違いない。

生産台数が余りにも少なく、レーシングカーとしての性格が色濃いこの2台を、可能な限り公平に比較するためにそれぞれのロードカー仕様を探すことが最大の難問だった。
手元にある2台は、その条件を十分に満たしている。スチール・ボディの1960年式フェラーリは、わずかに改良されたV12エンジンを備えている。アストンの6気筒エンジンは4.7ℓにボア・アップされているが、その分について評価を調節する。2台とも、それ以外の点では工場出荷時の仕様であり、2台で合計440万ポンド(約7億5000万円)の価値がある。夢のような世界だ。それでは、いよいよ究極の対決に臨みたい。



フェラーリ250GT SWB

インテリア ★★★★☆

フェラーリのキャビンにはモダンな感じ、というか1960年代ならモダンだと言えた香りがある。シンプルかつ機能的で、スムーズな表面が多いものの、極めてスタイリッシュでもある。完全にレストアされているが、このクルマの魅惑的なバケット・シートは愉快なまでにオリジナルであり、再現不可能なある種の艶がある。固めだが、不快なほどではない。だが、このクルマの運動性能に見合ったサポート性が欠けている。

1列に並ぶ補助計器。


イタリア車のよく知られた伝統に従い、真正面にカウル付きのメーターが2個。ダッシュボードに埋め込まれたユニットには5個のゲージが1列に並び、点火スイッチも存在する。スイッチを入れることで燃料ポンプを始動させてから、スターター・ボタンのようにキーを押す。毎回、省くことのできない手順だ。

硬めのバケットシートは、サポート性に欠けている。


それ以外では、ドアのインテリアにビニールを大量に使い、金属部分はシンプルなクロム・メッキ。それに、大型の輝く灰皿がトランスミッション・トンネルに鎮座し、クルマの年代を物語っている。余計なものは何ひとつない。性能を重視して設計されたクルマであることが一目でわかる。

大半のSWBと同様、このクルマも左ハンドルである(右ハンドルは11台しか生産されなかった)ため、ハンド・ブレーキのレバーが右膝の横にあって違和感があるものの、それ以外は簡単に馴染める。

スタイリング ★★★★☆

レーシングカーとしての面構えと人目を引く気品とディテールを兼ね備えたフェラーリは、世界中のプレイボーイへの天からの贈り物だ。1959年に登場した、この紛れもなく速く、高価なクルマを前に、ジャガーXK150でさえ馬車のようにのろまに見えたに違いない。このフェラーリは、クオーター・バンパーからボンネットにある機能的な吸気口、そしてトランク・カバーの一部を切り取るように取り付けられた超特大サイズのフィラー・キャップに至るまで、当時も、また現在も、我々の財産を投げ打つ価値のあるクルマだ。

細部の作りもミニマリズムで統一されている。


このフェラーリについては、自らが手がけた最も成功したデザインのひとつであるとピニンファリーナも認めており、開発から50年以上を経た現在の視点で見て、今なお、改良すべき点が見当たらない。流れるような曲線と強調された後部の筋肉質なイメージが、華美に偏ることを防いでおり、戦闘的なエア・ベントがこれにダメ押しをしている。このエア・ベントがどれほど効果的か。その点を確認したければ、少なくとも生産時にはエア・ベントのなかった最初の14台のSWBの写真を眺めればよい。

15台目からエア・ベントが追加された。


SWBは、フェラーリとピニンファリーナが絶えずデザインの改良に取り組んだため、1961/’62年式からはフロント・ウィンドウがそれまでより大きくなり、また、どのパネルのカーブにも手が加えられている。ただし、一目でわかるような変化ではなく、さりげない改良だ。すぐに気づく違いがあるとすれば、ドア上部の縁が曲線から直線に変更されている点だけかもしれない。



アストン マーティンDB4GT

インテリア ★★★★☆

グランド・ツアラーとしての性格の強いアストンは、まるで「腰を下してくつろいで下さい。飲物はもうお持ちしたでしょうか」と語りかけてくるようだ。ほぼ全てのパーツに最高級の材質を使い、黒かクロームメッキで最上級に仕上げている。ダッシュボードの周りに散在するプッシュ・プル式のスイッチにのみ、ロジャー・ムーアが眉を上げたような印象がある。50年代後半のモーリス・マイナー風のスタイルだ。

インテリアは、オーソドックスでシンプルだ。


平らなスポークと木製リムのステアリングホイールが繊細に見える。リムのリベットがむき出しでスポークが黒いため、フェラーリのハンドルと並べると、旧家の家宝のようにも見える。英国のアンティークを取り扱った番組「アンティーク・ロードショー」のレポーターの落ち着いた声音を思い出してほしい。ガンメタルに塗装されたダッシュボードには(4つないし5つのDB4のそれよりも多いために)所狭しと並ぶ7つの計器が視認できる。

シート後方は荷室だ。


レザー・シートは平らだが、見た目よりもサポート性があり、ロング・ドライブも快適だ。床にヒンジで留めた広めのペダルは、少し右側に寄っているものの、違和感があるほどではない。どの点を取ってもひどく英国風かつクラブ風であるため、レース用のシート・ベルトが異質で、まるでケブラー製の防弾チョッキを着てカクテル・パーティに出かけるような気分だ。

後部には、荷物固定用ストラップを備えた大きな小荷物棚がある。容量30ガロンの燃料タンクとスペア・タイヤがリア・トランク全体を占領しているため、この室内の空間が重宝する。

スタイリング ★★★★☆

ハンドリングを向上させ、重量を減らすために、このアストンは、主にドアの幅を削って、標準仕様のDB4のホイールベースを5インチ縮めた。それゆえ、フェラーリと同様、「SWB」を冠してもよいはずだ。そう聞くと、外見が大きく損なわれていないかが気になるところだが、ドアの幅の短さも、指摘されない限り気がつかない。アストンのプロポーションとバランスがもともと非常に優れているため、この程度の変更はスタイリングに影響しない。DB4GTのドアには、DB4にあった窓枠がないので、容易に見分けがつく。また、気密性が低いため高速走行時に風切り音が気になる場合があり、それを軽減するには、ガラスをわずかに下げるしかない。

大ぶりなハンドル。


ドア以外、DB4GTとDB4とを一目で区別する方法はほぼ存在しない。ヴァンテージ仕様は、カウルド・ヘッドライトまで備える。吸気口、グリル、そしてリアライトも他のモデルに合わせて変更された。しかしながら、バンパー・ガードをつけたGTを見かけることは滅多にない。

楕円形のエア・ベントはDBアストンのトレードマークだ。


ピニンファリーナのファンである筆者とっては残念な判断だが、アストンとフェラーリを並べると、デザイン面ではアストンが僅差でフェラーリに勝っているように思う。優劣をつけられるほどの差ではないが、DB4GTの曲線的なフォルムには、何か目を奪われる魅力がある。



フェラーリ250GT SWB

エンジン ★★★★★

アストンのエンジンが傑作だとすれば、フェラーリのV12コロンボ・エンジンは奇跡の域に達している。このエンジンは、テスタロッサ、250GTO、275GTB、そして当然ながらSWBなど、フェラーリ神話を生み出した数々の名車の心臓部を担ってきた。

ヴェリア製タコメーターの目盛りは8000rpmまで。


V12にしては驚くほどコンパクトなユニットだ。目立たないフェラーリのロゴが刻まれ、黒の結晶塗装を施した地味なカム・カバーの下にアルミ製の芸術的なエンジン・ブロックと放熱フィンがほぼ隠れている。SWBの場合、冷たい外気をウェーバー製ダウン・ドラフト・キャブ3基に誘導する大きなトレーも、全てを隠している。SWBのエンジンは、観賞用ではなく、走るためのものだ。あらゆる特徴が、その事実を明白に主張している。それでも、ガラス・ケースに入れれば、鑑賞に十分に堪えるエンジンだ。

大ぶりなレース仕様の燃料キャップ。


アストンの場合と同様、ツイン・ディストリビューターが対称的に配置されているものの、SWBの場合には、ひとつのディストリビューターが、シングル・オーバー・ヘッド・カムシャフトに覆われたそれぞれのシリンダー・バンクに給気している。しかし、このエンジンに出会った人々の記憶に焼き付いて離れないのは、そのエンジン音だろう。V12のエンジン音は、これまでに表現し尽くされているため、筆者独自の言葉で説明するのは難しい。だが、うなり声にも似たメカニカルな打撃音、長く高い叫び、それから伝わってくる回転することへの渇望は、聴く者を興奮させるような伝染性がある。あくまでも走ることを求めてやまず、聴く者がともに走りたくなるような音質だ。

ドライブトレイン ★★★★☆

SWBのシフト・レバーは、トランスミッション・トンネルから必要以上に高い位置まで突き出ており、溝を刻んだシンプルな球状のノブが付いている。動きは軽く、メカニカルでありながら、(特に癖のあるアストンと比べると)非常に滑らかだ。フェラーリのトレード・マークであるクローム・メッキのゲートを期待する向きには申し訳ないのだが、飾り気こそないものの、魅力的なレザーカバーに覆われた細身のレバーがインテリア全体とマッチしている。

WBは見事に均整が取れている。


アストンの場合と同様、標準では4段しかないポルシェ・シンクロを備えた自社製のギアボックス。シフト操作が快適なのは、恐らく適切なギア比が理由のひとつであろう。そして、このSWBのファイナル・ドライブ・レシオが4:1であること(オプションで広い範囲から選べる)や、また、エンジンの素晴らしいサウンド、そして、このトランスミッションとの相性が良いことも理由に挙げられるが、時速150km/hを超えると、どうしてももう1段欲しくなってくる。回転数が上がりにくいように感じるからではない。アクセルを踏み、160km/hを超えても、実際にはエンジン音がそう大きくなるわけではなく、エンジン音のピッチが上がるだけだ。それでも、やはり5速まであれば、最高速度が向上する可能性がある。

華麗な後姿。


クラッチは心地よい重さで、特に力を込める必要はない。アストンの場合と同様、リミテッド・スリップ・デフを装備している。



アストン マーティンDB4GT

エンジン ★★★★★

伝説的なエンジンを扱っているどの本においても、この2台のクルマのエンジン・ユニットの両方を必ず取り上げている。オースチンの社員であったタデック・マレックが設計したアストンの直列6気筒DOHCエンジンは、英国で最初のオールアルミ合金製エンジンだという点でユニークかつ有名だ。そのレイアウトは、ジャガーのXKエンジンによく似ているものの、似ているのはあくまでも外見だけだ。まず、アストンの6気筒エンジンの方が軽く、ボアが大きく、クランクシャフトのストロークが短い。

レッドゾーンは6000回転からだが、6500回転でも特に問題はない。


アストンの6気筒エンジンは、そのエナメル加工されたカム・カバーから、(2ガロンを超えるオイルを貯めることのできる)鋳造合金製のサンプに至るまで、常に見栄えが良い。DB4GTに使われた3.7ℓ版の6気筒エンジンは、視覚的にも、性能的にも、さらに刺激的だ。GTエンジンでは、標準仕様のDB4のSUキャブ2基をウェーバー製キャブ3基に交換し、シリンダー1本につき2本のスパークプラグを備えている。その結果として毒蛇の巣のような印象のリード線は、それぞれのカムシャフトから突き出ているふたつのディストリビューターで共有している。

埋め込み型の燃料キャップ。


他にも大型バルブ及び高性能カムの採用がDB4の243psからDB4GTの306psへの出力向上に寄与している一方、クランクシャフトやコンロッドの軽量化により、回転数を6500rpmまで引き上げることに成功した。アストンのエンジン音は素晴らしい。高回転による狼の遠吠えのようなサウンドに中音域下の音と震動が加わった荒々しい唸り声で、フェラーリよりも全体として数オクターブ低い。

ドライブトレイン ★★★★☆

アストンで唯一残念なのは、ギアボックスだ。同社独自の設計によるものだが、ぎこちなく、農機具のようなフィーリングがあり、DB4GTの他の部分との釣り合いを欠き、DB4GTの頭文字DBの由来であるデヴィッド・ブラウンが最初はトラクター・メーカーであったことを思い起こさせる。

GTにはバンパーガードがない。


公正を期せば、このクルマに非常に徹底したレストアを施してから、それほど距離を走っていないためで、さらに走れば、シフト操作がスムーズになってくる可能性もある。だが、誰かがDB4のギアボックスを褒めるのはまだ聞いたことがない。後のDB5から採用されたZF製5段ミッションに交換すれば幾らかはマシになるかもしれない。確かにトップ・ギアのオーバードライブはあると便利なものの、仮に交換して何らかの変化があったとしても、ほとんど改善はされないだろう。

ドアが短く、ウインドウフレームがない。


少なくとも装備されているギア比はエンジン性能に合っており、ギアが5つではなく、4つしかない現実も、十分に許容範囲内だ。DB4GTの場合には、同時代の多くのクルマほど、忙しくシフト操作をする必要がない。このクルマの場合には、より強力な4.7ℓエンジンに対応するためにクラッチが改良されていて、クラッチには適度な重さがあり、フィーリングも良い。



フェラーリ250GT SWB

動力性能 ★★★★☆

このクルマについては言うまでもないことだが、標準仕様のDB4GTが相手だったとしても、公平に見て、動力性能では、SWBが不利だ。フェラーリの方がアストンよりも10%ほど車重が軽いものの、それでも、パワーの20%の差を補えるほどではない。2台のアクセルを同じ道で同じように踏むと、SWBの方がDB4GTよりもトルクが細いことがわかる。V12の場合、4000rpmを超え、もう1段加速するまで、その本領を発揮しないため、ギアボックスをもっと使い、エンジン回転数を維持する必要がある。ギア比の違いと、回転域が広いV12の特性を活かせば、エンジン全開のスプリントでも、発進から無制限の期間、2台の理論上の性能差をほぼ解消できるものの、そのようなドラッグレース用テクニックを駆使しない限り、やはりアストン マーティンが有利だ。

フェラーリのエンジン音の方が大きく、その分、エンジンが高速回転していることがわかり易いという程度の差でしかない。誤解しないで欲しい。以上の比較は、あくまでも250GT SWBをここまで特別なクルマにしている要素の一端について理解してもらうためだ。アクセルを踏めば、走ることへの情熱がクルマ全体にみなぎる。サウンドも、フィーリングも、常に爆発的で、ワクワクさせてくれる。そんなクルマなのだ。フェラーリに乗ると、アストン マーティンに乗った時のように腰を落ち着けてくつろぐことなど到底できない。そもそも、SWBにそんな期待を持つ人間がいるとは思えないが。

ハンドリング ★★★★☆

アストンとは著しく対照的に、コーナリングは、フェラーリの独壇場だ。2台の豊富なレース歴を見れば、これは意外でも何でもない。それにしても、SWBのコーナリング性能を実際に体験するのは実に楽しい。SWBは、本気で運転すれば、狙った通りのラインを正確になぞることでドライバーに応えてくれる。これは冗談ではない。紛れもない事実だ。それに、コーナーに進入することに不安を感じたり、モータースポーツ・ライセンスが必要なのではないかなどと思い悩む必要もない。なぜなら、フェラーリほど、ドライバーに優しく、速く走るのが簡単なクルマはないからだ。

理由のひとつは、今でも後ろ車軸をリーフ・スプリングで支持する比較的単純な構造のサスペンションを採用しているからだ。おかげで、SWBの挙動は親しみやすい。誰にでも乗れるスポーツカーの最高の見本のようでありながら、シャシー・エンジニアの理想通りに仕上がっているクルマだ。それに、火傷をする心配もない。

ステアリングはアストンよりもはるかに軽く、コーナーでも重くならない。それどころか、グリップの状態が絶えず明瞭に伝わってくるため、その点では、同サイズのタイヤを履いたDB4GTさえ超えている。また、初期設定のニュートラルなハンドリングは、ドライバーの思うがまま、アクセルに的確に順応してくれる。これに効きの良いブレーキが組み合わさり、理想的なパッケージに仕上がっている。ドライバーのあらゆる期待に応えつつ、しかも、その能力を最大限に引き出してくれる車だ。



アストン マーティンDB4GT

動力性能 ★★★★☆

このDB4GTのエンジンが4.7ℓにボア・アップされているため、最後にSWBと比較する時にエンジン性能を1段階割り引かなければならなかった。標準仕様のDB4GTの最高出力306psに対し、革表紙の履歴ファイルに綴じられたエンジン・ベンチの値は360psもあるため、筆者のインプレッションも、同じ割合だけ割り引いて読んでほしい。もし、工場出荷段階のエンジンにこれだけのパワーがあったなら、筆者は、アストンのエンジン性能に迷わず星5つを与えたに違いない。

ヨーロッパのマッスルカーというものが存在したとすれば、まさにこのようなクルマではないだろうか。絶え間ないパワーの奔流が、ある種シルクのような滑らかさで押し寄せてくる。V8ではあり得ないフィーリングだ。出力にピーキーな感じはなく、ペダルを強く踏むほど、上昇していく。DB4GTは、時速160km/hを超えても、まだ助走段階に過ぎない。現代の多くの高性能車と同様、それほどスピードが出ているという感慨はなく、その点もアストンへの信頼感を高めている。

ほどほどのスピードなら、エンジンは驚くほど制御しやすく、テスト・コースに向かう混雑したM25号線でも極めて運転しやすかった。2速でも楽に十分な速度を出せるDB4GTは、運転するのにスーパーヒーローである必要はない。だが、ドライバーをスーパーヒーローにでもなったかのような気持ちにさせてくれるクルマではある。

ハンドリング ★★★★☆

DB4GTとSWBとの性格の違いが目についたのがハンドリングだ。アストンはグランド・ツアラーとしての伝統に従い、オスカー賞なみの名演技をする。公道において長距離を本当に高速に移動する能力。その点において、あの時代には、DB4GTの性能に近づけるクルマさえほとんど存在しなかった。また、そのしなやかな乗り心地は、長距離を極めて快適に高速で移動できることを保証する。高速コーナーでアクセルを踏んだ場合の安定性と確実性のレベルは驚異的であり、幅の細いタイヤを通じたグリップの良さは、物理法則に反しているのではないかと思うほどだ。ただの人間でしかない筆者に、トラクションを切るような芸当はできなかった。

しかしながら、コリン・ファースがワイルドスピード MEGA MAXのヒーローを演ずるなど想像もできないのと同様、DB4GTにも、スポーツカーではなく、GTであるがゆえの限界があり、特にタイトなコーナーになると問題点が露わになる。そうしたコーナーでは、ステアリングがかなり重くなり、それまで気づかなかった大きなアンダーステアが発生する。ラインが大きく膨らんでも、トラクションの効いたテールが流れる気配はない。ワインディング・ロードでステアリングをロック位置からロック位置へと切り直すと、その効果が増幅され、フェラーリと比べると、アストンが不器用にさえ感じられる。また、恐らくDB4GTの方が重いため、フェラーリほどブレーキにキレがない。そのため、このようなコーナーでは、フェラーリほど自由にスピードを殺すことができない。

判定

当編集部のカメラマンがこの2台を一目見て、筆者にこう言った。「お菓子屋の鍵を手に入れた子供のような気分でしょう」。筆者は、実のところ、どちらかと言えば、プレイボーイ・マンションに足を踏み入れ、目を血走らせたティーン・エイジャーのような気分だった。史上最高の魅力を備えた2台、そして思いっきり踏める人気のない道。後は、どちらの方が優れたクルマであるかを決めるだけで良かった。

単純にコスト・パフォーマンスを考えれば、答えは簡単だ。現状では、DB4GTの方が希少性が高いにもかかわらず、値段は250GT SWBの半分だ。これに正当な理由がない以上、DB4GTの方がはるかにお買い得だ。ただし、価格要素を除くと、判定を下すのが少々難しくなる。

ある面では、アストンの方が優れている。SWBよりも完成度が高く、扱いやすい。運転の大半を占めるミドレンジでSWBよりもパワーがあるからだ。そう思う一方、フェラーリの魅力も圧倒的だ。SWBの方が、間違いなくドライバーにとっての理想のクルマであり、筆者に心拍計を取付けて走行テストをしていれば、SWBを運転している時の方が鼓動がはるかに速いことを確認できて面白かったと思う。

筆者にわかるのは、この2台には性格の違いがあり、コースの難易度が高くなるほど、その違いが顕わになるということだ。だが、話はここで終わらない。アストンのハンドリングの残念に思った点について、後日、リチャード・ウィリアムズ氏に話したところ、彼の会社が、DB4GTの性格を変えずに、フェラーリのようなコーナーリングを実現する改良サスペンションを開発中だと知った。是非とも試してみたいものだ。編集者様、どうか筆者にもっと時間を下さい。